農事試験場として建った洋館
観音寺市郷土資料館本館(旧三豊郡農会農事試験場)は、香川県観音寺市有明町にある大正3年(1914年)建築の木造2階建洋風建築で、平成10年(1998年)9月2日に国の登録有形文化財に登録された。
建てたのは三豊郡農会である。稲作を中心とする西讃の農村に向けて、土壌を調べ、品種を比べ、その結果を農家に伝えるための拠点が要った。大正3年に竣工したこの建物は、その事務と試験のための実務施設として設計されている。
建築面積は約108平方メートル。決して大きくはない。正面に立つと、構成の単純さがかえって目を引く。中央に玄関ポーチを据え、その左右に2連の上げ下げ窓を配し、同じ配置を階上でも繰り返す。左右対称が最後まで崩れない。
屋根は寄棟造の桟瓦葺である。瀬戸内の民家が当たり前に使ってきた和瓦が、洋風の壁面の上に載っている。この取り合わせこそが、この建物の価値の核心にあたる。
登録の理由と建築的な位置づけ
登録は第11回にあたり、告示は平成10年9月25日、登録番号は37-0015。登録基準は「造形の規範となっているもの」である。国指定文化財等データベースの解説は、この建物を洋風建築の普及と消化を示す好個の事例と位置づけている。
「消化」という語の選び方が的確だと思う。大正3年といえば、明治期の官営洋風建築の実験はすでに一段落している。地方の郡農会が使えるのは、伝統的な木造技術を身につけた地元の大工と、書物や実見を通じて広まった洋風のかたちの知識だった。その両者が出会った結果が、上げ下げ窓の納まりを正確に守りながら屋根には和瓦を葺くという選択である。
階上中央の窓の上には切妻の破風がつく。その三角形の内側はティンバーワーク、すなわち化粧の木組みで飾られており、正面で唯一、構造を見せる装飾になっている。棟には飾り瓦も置かれる。
使われ続けたことが残した
郡レベルの農事試験場は実務のための建物で、役目を終えれば取り壊されるのが普通だった。この建物が今日まで残ったのは、次々に用途が変わり続けたからである。
農事試験場の後、建物は産業勧業館に転用された。大正15年(1926年)には館内に讃岐博物館が併設され、昭和2年(1927年)3月に正式に発足する。太平洋戦争中は休館し、戦後は観音寺町立図書館と同居するかたちで再開した。
昭和30年(1955年)の観音寺市発足に伴い、両館はそれぞれ市立に改称。昭和54年(1979年)に図書館が市教育文化会館へ移転すると、同年に建物の半分が解体修理され、昭和55年(1980年)6月に観音寺市立郷土資料館が開館した。登録有形文化財となったのはその18年後である。
資料館としての営みは平成30年(2018年)3月に幕を閉じた。同年秋、同じ室内にカフェが入っている。
訪ねたときに見てほしいところ
まず玄関ポーチから見るとよい。前に張り出した庇が濃い影を落とし、その影が正面全体の中心軸を決めている。10メートルほど下がって芝の上から眺めると、2連の上げ下げ窓が左右に2本ずつの縦の帯として立ち上がり、壁面に張りを与えているのが分かる。
次に階上中央を見上げる。切妻破風の内側の木組みは、下の玄関が主張している中心線をもう一度確かめる働きをしている。視線の落ち着き先が用意されているわけだ。
内部は現在「ことひきカフェ(お休み処ことひき)」として営業しており、隣接する道の駅ことひきと連携して運営されている。開館時間は9時から17時、定休日は年末年始。問い合わせは世界のコイン館(0875-23-0055)が受けている。入るのに拝観料は要らないが、資料館ではなくカフェなので解説パネルの類はない。他のお客の入る撮影は控えたい。
本館の背後には、渡廊下でつながる木造平屋建の展示館が建つ。こちらも同じ大正3年の建築で、同じ日に別件として登録されている。資料館の閉館後は内部が常時公開されている状態にはないため、外観を見る前提で計画するのが無難である。
行き方と周辺
JR観音寺駅から海側へ徒歩約20分。市ののりあいバス五郷高室線を使う場合は、運転手に「琴弾公園入り口」と伝える。この路線はバス停を設けておらず、路線上であれば任意の場所で乗り降りできる。
敷地は国の名勝・琴弾公園の一部とされる。松原が有明浜まで続き、公園の代名詞である寛永通宝の銭形砂絵は、山上の展望台から眺めるのがよく知られた見方である。数歩の距離には世界のコイン館と大平正芳記念館が同じ建物に入っており、開館は9時から17時、2館共通で一般300円、小中学生150円となっている。
Q&A
- 観音寺市郷土資料館本館の内部は見学できますか。
- できます。平成30年(2018年)秋から「ことひきカフェ」として営業しており、9時から17時まで誰でも入れます。定休日は年末年始です。入館料はかかりませんが、展示施設ではなく飲食店としての利用になります。
- 観音寺市郷土資料館は今も資料館として開いていますか。
- 有明町の資料館は平成30年(2018年)3月に閉館しました。市の郷土資料は現在、大野原町丸井のふるさと学芸館で公開されています。開館は9時から17時(入館は16時30分まで)、月曜休館、入館無料です。
- 観音寺市郷土資料館本館はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
- 大正3年(1914年)に三豊郡農会の農事試験場として竣工しました。登録有形文化財としての登録は平成10年(1998年)9月2日、告示は同年9月25日、登録番号は37-0015です。
- 観音寺市郷土資料館本館へはどう行けばよいですか。
- JR観音寺駅から海側へ徒歩約20分です。市ののりあいバス五郷高室線でも行けます。バス停はなく、運転手に「琴弾公園入り口」と告げれば路線上の任意の地点で降りられます。駐車場は道の駅ことひきのものが使えます。
- 観音寺市郷土資料館本館の建築上の見どころは何ですか。
- 左右対称の正面構成です。玄関ポーチの左右に2連の上げ下げ窓を階下階上とも配し、階上中央の窓上部に切妻の破風を設けて、その内側をティンバーワークで飾っています。屋根が寄棟造の桟瓦葺である点も見落とせません。
基本データ
| 名称 | 観音寺市郷土資料館本館(旧三豊郡農会農事試験場) |
|---|---|
| 所在地 | 香川県観音寺市有明町3-35 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 平成10年(1998年)9月2日登録、同年9月25日告示(登録番号37-0015) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積108平方メートル |
| 所有者 | 観音寺市 |
| 公開状況 | 内部は「ことひきカフェ」として営業(9時から17時、年末年始休、問い合わせ0875-23-0055) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 観音寺市郷土資料館本館(旧三豊郡農会農事試験場)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000711
- 文化遺産オンライン — 観音寺市郷土資料館本館(旧三豊郡農会農事試験場)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137981
- 道の駅ことひき — ことひきカフェ
- https://michinoeki-kotohiki.com/store/pass
- 道の駅ことひき — 世界のコイン館
- https://michinoeki-kotohiki.com/facility/coin_hall
- 観音寺市 — 世界のコイン館(アクセス)
- https://www.city.kanonji.kagawa.jp/soshiki/21/330.html
- 観音寺市 — ふるさと学芸館
- https://www.city.kanonji.kagawa.jp/soshiki/30/12133.html
最終更新日: 2026.08.09