桁行22メートルの醸造蔵

高橋商店北醤油蔵は、香川県小豆郡小豆島町安田にある明治中期の木造醸造蔵で、平成16年(2004年)11月8日に国の登録有形文化財に登録された。高橋家住宅主屋の後方に建ち、文久3年(1863年)から醤油を仕込んできた敷地の中核をなす建物である。

桁行は22メートル、建築面積は218平方メートル。木造平屋建としてはかなりの規模だが、内部に何が入るかを知れば納得がいく。杉材の大桶が列をなし、醸造の作業には桶を見下ろすための足場が要る。

小豆島の醤油造りは17世紀にさかのぼる。塩田で培った技術を持つ人々が、醸造という別の発酵産業に踏み出した経緯がある。高橋商店の創業はそれより遅く、嘉永5年(1852年)に穀物の販売業として始まり、11年後に醤油醸造へ移った。北醤油蔵は、その後の明治期の需要増大に応じて蔵が大型化・高層化していく段階に属している。

現在も「ヤマモ」の屋号で同じ場所に会社があり、この蔵は保存展示された建物ではない。外壁には、この一帯の建物をほぼ例外なく覆っている酵母や乳酸菌由来の黒い付着が広がっている。

登録の理由と建築的な価値

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。国宝や重要文化財の「指定」に比べて規制はゆるやかで、所有者は建物を使い続け、改変も届出制で行える。日々稼働している建物を対象にするために設けられた枠組みだと考えるとわかりやすい。

北醤油蔵の登録基準は「造形の規範となっているもの」である。高橋家・高橋商店の敷地では、主屋、旧製麹室を含む長屋門、三棟の醤油蔵、隅土蔵の計6棟が第44回登録として一括で登録され、告示は同年11月29日に出された。

評価の中心にあるのは小屋組だ。日本の木造で広い内部空間を架け渡す方法には二系統がある。梁の上に短い束を立てて棟へ積み上げていく和小屋は安定するが、下の空間を圧迫する。もう一方の登梁は屋根の勾配なりに梁を掛けるので、足元が広く使える。この蔵では両者を併用し、片方だけでは得られない高さの内部空間をつくり出している。

高さは装飾のためではない。発酵は熱と湿気を生むから、桶の上に大きな容積があれば暖まった空気が上へ逃げる。棟には越屋根が載り、たまった空気を側面から抜く。西端では棟が一段下がっており、この非対称は道から見てもすぐわかる。整った正面をつくることよりも、作業の都合を優先して組み上げた結果だろう。

見どころ

まず壁を見てほしい。外壁は漆喰塗の上を縦板で覆い、小窓が等間隔に並ぶ。漆喰の上から縦板を張るのは瀬戸内沿岸に多い手法で、風雨から柔らかい漆喰を守る役目がある。22メートルの長い立面に小窓が反復すると、建物全体に落ち着いた秩序が生まれる。

次に屋根。切妻造、桟瓦葺で、棟の上を越屋根が走る。醤の郷一帯の瓦は空気中の酵母によって年月とともに黒ずむため、内陸で見かける焼き上がりの灰色とは色調が違う。

この蔵は単体より、周囲と合わせて見たほうが理解しやすい。正面の長屋門は桁行26メートルで敷地の顔をつくる。南醤油蔵は桁行18メートルで、もとは桶の製作場だった。東醤油蔵は桁行12メートルで三棟の中では最も小さい。並べて見ると、正面の構え、生産の場、収納の場という近代の醸造屋敷の構成が読み取れる。

訪問前に一点。ここは稼働中の会社の敷地であり、蔵の内部は一般公開されていない。できるのは道沿いから外観を眺めることで、この地区の登録建造物の多くは同じ形で親しまれている。内部を見たい場合は、南へ約1.4キロメートルの苗羽地区にあるマルキン醤油記念館が同時代の蔵を使っており、桶や道具、工程が展示されている。

公道からの撮影はおおむね問題ないが、敷地内には立ち入らないこと。営業時間中は入口をトラックが使う。

Q&A

Q高橋商店北醤油蔵の内部を見学することはできますか?
Aできません。稼働中の醤油醸造会社の施設であり、内部の一般公開や見学受付は行われていません。見られるのは敷地に面した道路からの外観です。小豆島の醸造蔵の内部を見たい場合は、約1.4キロメートル南の苗羽地区にあるマルキン醤油記念館が有料で毎日開館しています。
Q高橋商店北醤油蔵はいつ建てられたのですか?
A文化庁のデータベースでは明治中期、西暦では1868年から1911年の範囲とされています。棟梁など施工者の記録は残っていません。高橋商店は嘉永5年(1852年)に穀物販売業として創業し、文久3年(1863年)に醤油醸造を始めたので、この蔵は事業拡大期に建てられたことになります。
Q高橋商店北醤油蔵の「登録有形文化財」は重要文化財とどう違いますか?
A登録は指定より規制が緩やかな制度です。所有者は建物を使い続けられ、大きな改変は届出で対応します。税制上の特例や技術的な助言も受けられます。建築後おおむね50年を経て地域の景観に寄与する建物を対象に平成8年(1996年)に創設されたもので、日常的に使われている蔵に適した枠組みです。
Q高橋商店北醤油蔵の周辺へはどう行けばよいですか?
A小豆島町安田、島の南東部にあります。神戸からのフェリーが着く坂手港までは南へ約2.5キロメートル。高松や姫路からの便が集まる土庄港は島の西側にあります。小豆島オリーブバスが海沿いの県道を通っており、マルキン醤油記念館前がこの一帯の目印になります。
Q高橋商店北醤油蔵と同じ敷地には他にどんな文化財がありますか?
A5棟あります。高橋家住宅主屋、旧製麹室を含む高橋商店長屋門、南醤油蔵、東醤油蔵、隅土蔵です。6棟すべてが平成16年(2004年)11月8日に同時に登録され、登録番号は37-0219から37-0224まで連番になっています。

基本データ

名称高橋商店北醤油蔵(たかはししょうてんきたしょうゆぐら)
所在地香川県小豆郡小豆島町安田字植松甲142
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 37-0221
指定年平成16年(2004年)11月8日登録、同年11月29日告示
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、桁行22メートル、建築面積218平方メートル
所有者株式会社高橋商店
公開状況非公開(内部見学不可)。外観は隣接道路から視認可能

参考文献

国指定文化財等データベース — 高橋商店北醤油蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004430
国指定文化財等データベース — 高橋商店長屋門(旧製麹室)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004429
株式会社高橋商店 — 会社概要
https://www.shodoshima-yamamo.com/about
小豆島町 — 醤の郷の近代化産業遺産群
https://www.town.shodoshima.lg.jp/gyousei/kakuka/shogaigakushuka/2/1/3151.html
香川県教育委員会 — 香川県内の登録有形文化財
https://www.pref.kagawa.lg.jp/kenkyoui/shogaigakushu/bunkazai/culturalassets/culturalassets_16.html
小豆島醤油協同組合
https://shima-shoyu.com/

最終更新日: 2026.08.09