善通寺鐘楼:弘法大師誕生の聖地に佇む登録有形文化財
香川県善通寺市に位置する総本山善通寺は、真言宗の開祖・弘法大師空海が誕生した聖地として知られ、京都の東寺、和歌山の高野山と並ぶ弘法大師三大霊場の一つに数えられています。その東院(伽藍)の金堂南西に建つ鐘楼は、江戸時代末期に再建された袴腰付きの格調高い建築で、2009年(平成21年)に国の登録有形文化財として登録されました。四国八十八ヶ所霊場第七十五番札所としても名高い善通寺を訪れる際、この歴史ある鐘楼は境内の景観を一層引き立てる見どころの一つです。
善通寺の歴史
善通寺は、大同2年(807年)に空海が唐から帰国した後、父・佐伯田公(善通)から寄進された土地に建立されたと伝えられています。空海が唐で師事した恵果が住していた長安の青龍寺を模して造営されたといわれ、寺号は父の名「善通」に由来します。山号の「五岳山」は、寺の背後に連なる香色山・筆山・我拝師山・中山・火上山の五つの山に因みます。
善通寺の境内は、約45,000平方メートルの広大な敷地を有し、創建以来の寺域である東院(伽藍)と、空海誕生の地とされる西院(誕生院)に分かれています。永禄元年(1558年)に三好実休の兵火により伽藍が焼失しましたが、近世には高松松平家や丸亀京極家の庇護を受けて再興が進められ、現在見られる堂塔の多くは江戸時代中期から明治時代にかけて再建されたものです。
善通寺鐘楼の建築的特徴
善通寺鐘楼は、江戸時代末期(1830年〜1867年)に再建された木造二階建ての建築物です。桁行三間、梁間二間の規模を持ち、屋根は入母屋造・本瓦葺です。建築面積は約23平方メートルで、初層(一階部分)には袴腰を備え、上層(二階部分)には擬宝珠高欄付きの縁を巡らせた端正な姿を見せています。
構造面では、挿肘木と虹梁上の三斗によって上層の縁を支持し、上層の組物は平三斗組として扇垂木で総反りの軒を受ける構成となっています。この扇垂木による優美な軒反りは、日本の伝統的な木造建築技法の粋を示すものです。また、建築研究者の調査により、もともと鐘楼門(門の上に鐘を吊るす形式)であった痕跡が認められており、現在の独立した鐘楼の形に改められた経緯がうかがえます。
登録有形文化財としての価値
善通寺鐘楼は、2009年(平成21年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。東院の他の5棟(釈迦堂、天神社、龍王社、南大門、中門)とともに一括して登録されたもので、善通寺の歴史的な伽藍景観を構成する重要な建造物として評価されています。
文化庁の解説によれば、この鐘楼は「もと鐘楼門であった痕跡をとどめる鐘楼で、境内景観を引き立てている」とされ、袴腰付きの重厚な構えや、古典的な組物技法、扇垂木による優美な軒反りなど、江戸時代末期の宗教建築の伝統的な技法がよく保存されている点が高く評価されています。
見どころ・鑑賞のポイント
鐘楼は東院の金堂の南西に位置しており、五重塔や金堂とともに伽藍の景観を形成しています。鑑賞の際には、以下のポイントに注目してみてください。
- 袴腰(はかまごし):一階部分が裾広がりに広がる独特の形状。日本の重要な寺院鐘楼に多く見られる格式高い様式です。
- 擬宝珠高欄(ぎぼしこうらん):上層の縁に巡らされた擬宝珠付きの欄干。江戸時代の工匠の美意識が表れています。
- 扇垂木(おうぎだるき)による軒反り:放射状に配置された垂木が生み出す優美な曲線美は、日本建築の精緻な技術を物語ります。
- 鐘楼門の痕跡:かつて門としての機能を持っていた時代の名残を、建築に詳しい方はぜひ探してみてください。
なお、現在この鐘楼に吊るされている梵鐘は昭和33年(1958年)鋳造のもので、参拝者が撞くことはできません。鐘を撞きたい方は、西院(誕生院)にある昭和53年(1978年)建造の吹放し型式の鐘楼を訪れてください。こちらは自由に撞くことができます。
善通寺境内と周辺の見どころ
善通寺の境内には、鐘楼以外にも多くの見どころがあります。東院では、元禄12年(1699年)再建の金堂(重要文化財)に安置された高さ約3メートルの薬師如来坐像や、明治35年(1902年)に完成した高さ43メートルの五重塔(重要文化財)が圧巻です。五重塔は毎年ゴールデンウィーク期間中に特別内部公開が行われます。
西院では、御影堂(大師堂)の地下に設けられた「戒壇めぐり」が人気です。完全な暗闇の中を手探りで進む体験は、精神的な再生を象徴する深い感動を与えてくれます。宝物館には、国宝の金銅錫杖頭(空海が唐から持ち帰ったとされる法具)や、国宝の一字一仏法華経序品(11世紀の装飾経典)など、貴重な寺宝が展示されています。
善通寺の周辺では、明治36年(1903年)建築のルネッサンス様式の洋風建築・旧善通寺偕行社(重要文化財)や、車で約15分の距離にある金刀比羅宮(こんぴらさん)も併せて訪れたいスポットです。讃岐うどんの名店も数多く点在しており、参拝と合わせて香川ならではのグルメも楽しめます。
拝観情報・アクセス
善通寺の境内は年間を通じて自由に拝観でき、鐘楼を含む外観の見学に拝観料はかかりません。戒壇めぐり・宝物館の拝観は有料で、大人500円、小中学生300円、拝観時間は午前8時から午後4時30分までです。
交通アクセスは、JR土讃線善通寺駅から徒歩約15分です。お車の場合は、高松自動車道善通寺インターチェンジから約4.2kmです。西院の正覚門前に大駐車場があり、普通車300円で利用できます。宿坊「いろは会館」では、天然温泉の大浴場を備えた宿泊施設も利用でき、遍路の方はもちろん一般の観光客も歓迎されています。
Q&A
- 善通寺鐘楼はどのような文化財ですか?
- 善通寺鐘楼は、2009年(平成21年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。東院の釈迦堂、天神社、龍王社、南大門、中門とともに6棟が一括登録されたものです。国宝や重要文化財とは異なる登録制度ですが、近代以前の歴史的建造物として保存と活用が図られています。
- 鐘楼の鐘を撞くことはできますか?
- 東院の鐘楼(登録有形文化財)の梵鐘は撞くことができません。鐘を撞く体験をしたい方は、西院(誕生院)にある吹放し型式の鐘楼をお訪ねください。こちらは自由に撞くことができます。
- 拝観料は必要ですか?
- 善通寺の境内への入場および鐘楼の外観見学は無料です。戒壇めぐり・宝物館の拝観のみ有料で、大人500円、小中学生300円です。
- おすすめの訪問時期はいつですか?
- 善通寺は四季を通じて美しい境内を楽しめます。春は桜、秋は紅葉が見事です。特にゴールデンウィーク(4月末〜5月初旬)には五重塔の特別内部公開が行われるため、この時期の訪問は特におすすめです。冬は参拝者が少なく、静寂の中で心静かにお参りできます。
基本情報
| 名称 | 善通寺鐘楼(ぜんつうじしょうろう) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)、2009年(平成21年)11月2日登録 |
| 建築年代 | 江戸時代末期(1830年〜1867年) |
| 建築様式 | 木造二階建、入母屋造、本瓦葺、初層袴腰付、上層擬宝珠高欄付縁 |
| 規模 | 桁行三間、梁間二間、建築面積約23㎡ |
| 所在地 | 香川県善通寺市善通寺町3-622 |
| 所属寺院 | 総本山善通寺(真言宗善通寺派)、四国八十八ヶ所霊場第七十五番札所 |
| 拝観料 | 境内無料、戒壇めぐり・宝物館:大人500円、小中学生300円 |
| アクセス | JR土讃線善通寺駅より徒歩約15分、高松自動車道善通寺ICより約4.2km |
| 公式サイト | https://zentsuji.com/ |
参考文献
- 善通寺鐘楼 — 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/145191
- 善通寺 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%96%84%E9%80%9A%E5%AF%BA
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007931
- 総本山善通寺 公式サイト
- https://zentsuji.com/
- 善通寺市 市内の指定文化財 — 善通寺市ホームページ
- https://www.city.zentsuji.kagawa.jp/soshiki/50/bunkazai.html
- 善通寺市を楽しむ5つのポイント — 善通寺市観光協会 空海NAVI
- https://www.kukainavi.com/point/003.html
- 弘法大師誕生の地 善通寺|重要文化財 五重塔・金堂を、100年先へ — READYFOR
- https://readyfor.jp/projects/zentsuji
最終更新日: 2026.03.26