池の小島に建つ雨乞いの社

善通寺龍王社は、香川県善通寺市善通寺町にある総本山善通寺の東院、境内北西の池に浮かぶ小島に建つ小規模な神社建築で、文化5年(1808年)の建立、文久元年(1861年)の改修を経て、平成21年(2009年)に国の登録有形文化財となった。

短い橋を渡って社の前に立つ。建築面積は3.0平方メートル。

祀られているのは善如龍王。水中に住み、雨を呼ぶ力をもつとされる龍王である。香川において、この祭神は飾りではない。県土は日本で最も小さく、讃岐山脈の陰に入って雨が乏しい。農民は乾いた夏を越すために、ため池を数千の規模で築いた。その最大の満濃池は空海自身と結びついており、弘仁12年(821年)に堤の修築へ派遣されたと記録される。ここでの雨乞いは風雅な習俗ではなく、別の手段で行われた農業政策であった。社の近くには雨乞いの記念碑が立っている。

形式は一間社流造、本瓦葺。基壇は野面積。土台の上に方柱を建てて三斗を組み、一軒疎垂木で軒を受ける。妻には虹梁大瓶束を用いる。小さな三角形の面を品よく埋めるために、江戸期の大工が繰り返し選んだ組み合わせである。

機能に合わせて選ばれた彫刻

足を運ぶ値のある細部は中備にある。柱上の組物の間に置かれる詰物のことで、妻の中備には雲紋が彫られ、向拝の中備には波頭紋が彫られている。

上に雲、下に水。雨を呼ぶ龍王の社で、池の島の上で、である。解釈を控えるのが常の文化庁のデータベースが、ここでは「雨乞祈願のための社らしい意匠をもつ」と明言している。江戸期の社寺彫刻を数多く見てきた人なら、装飾がこれほど読みやすい例の少なさに気づくはずである。鶴、牡丹、龍、唐人物といった定番の題材は、その社が何のための社かとほとんど関係なく、数千棟の建物を巡っていく。ここでは誰かが考えて選んでいる。

年代がもう一層を加える。建立は文化5年、改修は文久元年。いずれも高松・丸亀両藩のもとで讃岐のため池網が限界まで拡げられていった時期に重なる。特定の旱魃が文久の改修を促したのかどうかは記録に書かれておらず、そう主張するのは誤りだが、年代の並びは示唆的である。

登録年月日は平成21年11月2日、登録番号37-0330、告示は同月19日。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録は指定とは別の制度である。平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられ、現状変更は許可ではなく届出で足り、国宝・重要文化財の枠より遙かに広く網を張る。善通寺で指定を受けているのは金堂と五重塔の2件である。この日、東院の6件が一括で登録され、龍王社もその一つに含まれた。

島に渡って見る

橋を渡ったら、社を見る前に一度岸のほうへ振り返ってほしい。この構図は双方向に効いていて、島から水越しに眺める金堂は、正面から見るのとは印象が違う。

それから二つの彫刻を確かめる。向拝の波頭紋は、大人ならおおむね目の高さに来る。等身大の堂舎なら同じ部材は4メートル上にあるのだから、これは珍しく都合のよい条件である。日本の装飾における波頭紋は写実ではなく約束事の図像で、彫り手の課題は、繰り返す渦を矩形に収めながらリズムを緩ませないことにあった。出来については自分の目で判じてほしい。

妻の雲紋は一歩下がって斜めに見上げる必要がある。彫りが浅いため、硬い影は形を平らに潰してしまう。曇天のほうが直射日光より向いている。

社の背後には、幹の捩れが龍を思わせるという古木が立つ。これは参拝者側の見立てで、寺がご神木として扱っている記録は確認できない。ただ、見比べる価値のある程度には似ている。

水位と映り込みは季節で変わる。風のない朝には瓦屋根が水面にきれいな逆さの像を落とす。雨のあと、つまりこの社の本来の目的が果たされたあとには、島が水面に対して目に見えて低く沈む。

拝観と交通

龍王社まで行くのに費用はかからない。善通寺の境内は通年開放で入るための拝観料もなく、島へ渡る橋は東院を歩く通常の順路に含まれている。

見学は外からになる。3.0平方メートルの社に立ち入る内部はなく、そもそも目的は彫刻である。島は狭く橋も細いので、団体は一人二人ずつ渡っていく形になる。

内部をもつ堂舎の開扉はおおむね午前8時から午後5時。有料となるのは、西院の御影堂地下を巡る戒壇めぐりと宝物館の共通拝観で、執筆時点では大人700円、小・中・高校生300円、受付は午後4時30分ごろまで。料金は変わりうるため寺に確認しておきたい。

開放された境内での撮影は一般に認められており、池を含めた眺めは境内でも撮り甲斐のある対象である。戒壇めぐりは撮影禁止。

JR善通寺駅から徒歩約20分、タクシー約3分、無料の市民バスなら「郷土館前」まで約8分で下車後徒歩3分。龍王社、金堂北東の天神社、西辺の中門、南の南大門はいずれも数分の距離にあり、この4件は平成21年の同じ日に登録されている。

Q&A

Q善通寺龍王社は拝観できますか。拝観料はかかりますか?
A拝観できます。池を渡る短い橋で小島に近づけ、善通寺の境内は通年開放、入るための拝観料もかかりません。建築面積3.0平方メートルで内部に立ち入る構造ではないため、見学は外からになります。開放境内での撮影は一般に認められています。
Q善通寺龍王社の祭神は誰で、なぜ祀られているのですか?
A水中に住み雨を呼ぶ力をもつとされる善如龍王です。香川県は降水が乏しく、歴史的に数千のため池に頼ってきた土地であり、雨乞いは実利を伴う祈願でした。社の近くには雨乞いの記念碑が立っています。
Q善通寺龍王社はいつ建てられ、どの区分の文化財ですか?
A文化5年(1808年)の建立で、文久元年(1861年)に改修されています。平成21年(2009年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)として登録され、告示は同月19日、登録番号は37-0330です。
Q善通寺龍王社では何を近くで見るとよいですか?
A中備の彫刻です。妻に雲紋、向拝に波頭紋が彫られ、雨乞いの社にふさわしい主題が選ばれています。波頭紋は大人の目の高さに近い位置にあり、細部を確かめやすいのが利点です。彫りが浅いため、直射日光より曇天の光が向きます。
Q善通寺龍王社は境内のどこにあり、善通寺へはどう行きますか?
A東院北西の池に浮かぶ小島に建ち、金堂から西へわずかな距離です。JR善通寺駅から徒歩約20分、タクシーで約3分。無料の市民バスなら「郷土館前」まで約8分、下車後徒歩3分ほどです。

基本データ

名称善通寺龍王社(ぜんつうじりゅうおうしゃ)
所在地香川県善通寺市善通寺町3-622
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 37-0330
指定年平成21年(2009年)11月2日登録(告示 同年11月19日)
建立年代文化5年(1808年)建立、文久元年(1861年)改修
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積3.0平方メートル
所有者文化庁データベースに所有者名の記載なし(管理責任者名は「善通寺龍王社」)
公開状況橋を渡って外観を通年見学可。東院境内は無料

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「善通寺龍王社」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007930
文化遺産オンライン「善通寺龍王社」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/192650
総本山善通寺 公式サイト
https://zentsuji.com/
総本山善通寺「境内マップ」
https://zentsuji.com/keidai/map/
善通寺市観光協会 空海NAVI「第75番札所 総本山善通寺」
https://www.kukainavi.com/spot/watch/entry-483.html

最終更新日: 2026.07.30