扇垂木を配した江戸末期の楼門
善通寺中門は、香川県善通寺市善通寺町にある総本山善通寺の東院、境内西辺の中央に建つ木造2階建の門で、江戸末期(1830年代から1867年ごろ)の建立、平成21年(2009年)に国の登録有形文化財となった。
文化庁のデータベースは、この門をこう締めくくっている。「特異な外観をもつ門である」。構造の名詞を並べるにとどまるのが通例の官庁記録としては、かなり踏み込んだ言い方である。
形式は一間一戸楼門、入母屋造本瓦葺。建築面積は27平方メートル。下層の左右には袴腰状の板壁を設けている。袴腰は本来、鐘楼の下部を袴のように広げる作りで、門に用いる例は多くない。上層は桁行三間梁間二間、壁も戸も設けず吹き放ちとする。
足を止めさせるのは軒である。全幅にわたって連続して反り上がり、その下の垂木は隅から放射状に、扇のかたちに配られている。扇垂木は13世紀に宋から伝わった禅宗様の語彙に属する手法で、真言宗の寺院の門に、それから五、六百年を隔てて用いられている。江戸末期の大工がいささか嬉しそうに引いてきた借用と見える。
登録の経緯と、この区分が意味すること
中門の登録番号は37-0333。登録年月日は平成21年11月2日、告示は同月19日。この日、第65回の登録として東院の6件が一括で処理された。釈迦堂、鐘楼、南大門、中門、そして小規模な天神社と龍王社である。
「登録」は「指定」ではない。両者を混同すると事の性質を取り違える。国宝・重要文化財の指定は対象を絞った重い制度で、現状変更には許可を要する。善通寺の場合、指定を受けた建物は金堂と五重塔の2件にとどまる。一方の登録有形文化財は平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられ、現状変更は届出で足りる。制度の狙いは、指定の網が及ばなかった19世紀から20世紀前半の膨大な建築群を、保護の射程に収めることにあった。
中門に記された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。実際にこの門は二つの役目を同時に負っている。ひとつは東院の西側を締めること。南の南大門、東の赤門とともに、この囲みを画す三門の一つにあたる。もうひとつは通路としての役目で、参拝者が東院から西院、すなわち誕生院と呼ばれる大師誕生の地へ向かうときに抜けるのがこの開口部である。四国八十八箇所を巡る遍路も、ここをくぐって進んでいく。
虹梁の彫刻は、門の水準を彫刻自体の質で示している。下層の虹梁には雲龍と鶴が彫られる。いずれも江戸期の寺院彫刻に定着した題材で、龍は水と雨に、鶴は長寿に結びつけられてきた。藩内で腕のたつ彫物師に注文が回る種類の仕事である。
門の下に立って見る
東院の側から、釈迦堂を背にして近づいてほしい。中門はその堂の正面に向いており、この軸は意図されたものである。
そのまま門の下に入って見上げる。上層が四方吹き放ちのため、光が上と後ろから回り込み、扇垂木が明るい背景に対して珍しくよく読める。隅の一本を外へたどれば放射の割り付けがはっきりする。上層に壁を立てた建物なら、同じ仕掛けは影に沈んでしまう。
虹梁の彫刻には根気と、ほどよい光が要る。東面は午前、西面は午後遅くが向く。龍は無地の板を背にするのではなく雲の形の間にとぐろを巻いているため、輪郭を拾うのに手間がかかり、見つけたときの手応えがある。
下層の袴腰状の板壁も、あらためて奇妙さを確かめておきたい。袴腰は本来、鐘楼の上層を支える足元を視覚的に太く見せるための作りである。それを門に持ち込めば、門とも櫓ともつかない輪郭が生まれる。データベースが「特異な外観」と書いたのは、おおむねこのことを指していよう。
門の外側にはすぐ五百羅漢が並ぶ。西院の側から戻ってくるとき、入口を探す目印として役に立つ。
拝観と交通
中門をくぐるのに費用はかからない。善通寺の境内は通年開放され、入るための拝観料もなく、この門は寺の東西を結ぶ主要な動線上にあるため、保護建築だと意識せずに通り過ぎる人が大半である。
上層は公開されておらず、内部を定期的に見せる扱いはない。見られるのは軒裏と彫刻だが、そこに関心の中心があるのだから不足はない。
内部をもつ堂舎の開扉はおおむね午前8時から午後5時。善通寺で有料となるのは、西院の御影堂地下を巡る戒壇めぐりと宝物館の共通拝観で、執筆時点では大人700円、小・中・高校生300円、受付は午後4時30分ごろまで。出発前に寺へ最新の料金を確かめておきたい。
開放された境内での撮影は一般に認められており、戒壇めぐりは禁止である。JR善通寺駅から徒歩約20分、タクシー約3分、無料の市民バスなら「郷土館前」まで約8分で下車後徒歩3分。東西両院をきちんと見るなら1時間半、宝物館を加えるならもう少し見ておくとよい。
Q&A
- 善通寺中門はくぐれますか。拝観料はかかりますか?
- くぐれます。善通寺の東院と西院を結ぶ主要な参道上に建ち、境内は通年開放で入るための拝観料もかかりません。上層は非公開ですが、扇垂木と虹梁の彫刻はいずれも門の下から見上げて確認できます。
- 善通寺中門はいつ建てられ、どの区分の文化財ですか?
- 文化庁データベースは江戸末期、1830年代から1867年ごろの建立としています。平成21年(2009年)11月2日に国の登録有形文化財(建造物)として登録され、告示は同月19日、登録番号は37-0333です。
- 善通寺中門の外観はどこが「特異」なのですか?
- 三つの要素が重なる点です。軒が全幅で連続して反り、その垂木が隅から扇状に放射する扇垂木であること。下層の左右に、通常は鐘楼の足元に設ける袴腰状の板壁を備えること。そして桁行三間梁間二間の上層を、壁も戸もなしに吹き放つこと。
- 善通寺中門にはどんな彫刻がありますか?
- 下層の虹梁に雲龍と鶴が彫られています。龍は水と雨、鶴は長寿に結びつく題材で、いずれも江戸期の寺院彫刻で腕を問われる主題でした。輪郭を読み取るには、午前か午後遅くの斜めから差す光が向いています。
- 善通寺中門は境内のどこにあり、善通寺へはどう行きますか?
- 東院の西辺中央、釈迦堂の正面に建ち、門の外側には五百羅漢が並びます。JR善通寺駅から徒歩約20分、タクシーで約3分。無料の市民バスなら「郷土館前」まで約8分、下車後徒歩3分ほどです。
基本データ
| 名称 | 善通寺中門(ぜんつうじなかもん) |
|---|---|
| 所在地 | 香川県善通寺市善通寺町3-622 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 37-0333 |
| 指定年 | 平成21年(2009年)11月2日登録(告示 同年11月19日) |
| 建立年代 | 江戸末期(1830年代から1867年ごろ) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、袴腰付、建築面積27平方メートル |
| 所有者 | 文化庁データベースに所有者名の記載なし(管理責任者名は「善通寺中門」) |
| 公開状況 | 通年通行可・無料。上層は非公開 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「善通寺中門」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007933
- 文化遺産オンライン「善通寺中門」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/187833
- 総本山善通寺 公式サイト
- https://zentsuji.com/
- 総本山善通寺「境内マップ」
- https://zentsuji.com/keidai/map/
- 善通寺市観光協会 空海NAVI「第75番札所 総本山善通寺」
- https://www.kukainavi.com/spot/watch/entry-483.html
最終更新日: 2026.07.30