二字銘が示す鎌倉の名工
茎(なかご)の区下、棟寄りに、細く角張った二字が鏨で刻まれている。「國宗」。この一振りに記された言葉はそれだけである。刃長およそ81センチの太刀は、鎌倉時代中期に備前の刀工・国宗が鍛えた一口で、現在は鹿児島市の照国神社が所有し、県立の歴史・美術センター黎明館に保管されている。鹿児島県内で唯一の国宝である。
国宗は備前国、現在の岡山県の出身。中世の日本で最も多くの名工を輩出した刀の本場で、刀工・国真の三男として生まれ、備前三郎国宗と称された。主流の長船派ではなく、祖父・直宗を祖とする直宗派に属する。
その経歴を特徴づけるのは、東国への移住である。鎌倉幕府第五代執権・北条時頼に招かれて鎌倉に移り、京の粟田口国綱、同じ備前の助真らとともに、相模国に興る相州伝の礎を築いたとされる。相州伝はのちに正宗の手で頂点に達する作風だが、その実質的な創始者と目される新藤五国光に、国宗が技法を授けたとも伝わる。文永七年(一二七〇年)に九十四歳で没したとする説もあるが、生没年は明らかでない。
刀身の見どころ
形姿は鎬造、庵棟。身幅が広く、腰のあたりで強く反り、踏ん張りがきいている。切先は短く詰まった猪首風で、これだけで鎌倉中期の作と見当がつく。太刀は刃を下に向けて腰から吊るす佩刀の形式で、のちの打刀に先立つ姿である。
地鉄は板目肌が立ちごころとなり、地沸が厚くつく。総体に乱れ映りが立ち、地景や地斑が交じる。刃文は匂が深く、丁子乱れに互の目を交えて足がよく入り、単調な反復に陥らない変化を見せる。物打のあたりから上では、表裏に飛焼が連なり、所々に金筋がかかる。帽子は乱れ込んで小丸に返る。茎は生ぶで、先を一文字に切って面をとり、鑢目は浅い勝手下がり、目釘孔は二つを数える。
寸法について、国指定文化財等データベースは刃長81.3センチ、反り2.6センチと記す。所蔵側の記録などでは81.4センチとするものもあり、計測の位置による一ミリ程度の差にとどまる。文化庁の解説は、日光東照宮が所蔵する国宝の国宗と並ぶ最優秀作と評し、堂々とした形姿と良好な保存状態を挙げている。
失われ、海を越えて還った国宝
この太刀は、薩摩を治めた島津家に代々受け継がれてきた。昭和二年(一九二七年)六月、島津忠重が、島津氏の始祖・忠久の七百年祭にあたって照国神社に奉納する。同年には古社寺保存法に基づき指定を受けた。これは現行の文化財保護法における重要文化財に相当する位置づけである。
その後の来歴は数奇というほかない。第二次世界大戦の終戦後、混乱のなかで進駐軍に没収され、長く行方が知れなくなった。やがてアメリカ合衆国で競売にかけられて転売され、刀剣愛好家のウォルター・コンプトンの所蔵となる。昭和三十八年(一九六三年)、コンプトンの厚意により無償で神社に返還された。翌昭和三十九年(一九六四年)、文化財保護法に基づいて国宝に指定される。長く東京国立博物館に寄託されていたが、平成五年(一九九三年)からは黎明館に寄託・展示されている。
こうした来歴ゆえに、太刀は常時公開されているわけではない。神社によれば特別展示は年に二回ほどで、実見を望むなら、訪問前に黎明館の展示予定を確認しておくのが確実である。
黎明館とその周辺
黎明館が建つ場所は、この太刀と無縁ではない。敷地は鹿児島城、別名鶴丸城の本丸跡にあたる。かつてこの太刀を所有した島津氏の居城である。令和二年(二〇二〇年)には約百四十七年ぶりに御楼門が復元され、堀や石垣、石橋は往時のまま残る。城跡は令和五年(二〇二三年)に国の史跡に指定された。
館は昭和五十八年(一九八三年)に開館した人文系の総合博物館で、鹿児島の考古・歴史・民俗・美術工芸を各階で紹介する。常設展示の多言語化や音声ガイドの整備も進んでいる。徒歩圏には、幕末の藩主・島津斉彬を照国大明神として祀る照国神社があり、広い参道と大鳥居をあわせて訪ねるとよい。背後に城山の緑を望む一帯は、朝の時間をかけて歩くのにふさわしい。
Q&A
- 開館していれば、いつでも太刀を見られますか。
- いいえ。公開は年二回ほどの限られた期間のみです。一般の来館で必ず展示されているとは限らないため、事前に黎明館の展示予定を確認してください。
- 国宗とはどのような刀工ですか。
- 鎌倉時代中期の備前の刀工で、備前三郎国宗と呼ばれます。鎌倉に招かれ、のちに正宗らによって大成される相州伝の基礎を築いた一人とされます。
- なぜ鹿児島県唯一の国宝なのですか。
- 県内で国宝に指定されている物件はこの一口のみだからです。昭和三十九年に指定され、力強い姿と良好な保存から、国宗の代表作の一つに数えられます。
- どうしてアメリカに渡ったのですか。
- 終戦後に没収されて行方不明となり、海外で転売されました。愛刀家ウォルター・コンプトンの所蔵を経て、昭和三十八年に無償で照国神社へ返還されています。
- 黎明館へのアクセスは。
- JR鹿児島中央駅から市電またはバスで市役所前付近まで行き、徒歩数分です。JR鹿児島駅からは徒歩約十五分。照国神社も館から歩いてすぐの距離にあります。
基本情報
| 名称 | 太刀〈銘国宗〉 |
|---|---|
| 区分・員数 | 工芸品(刀剣) 一口 |
| 時代 | 鎌倉時代(十三世紀中頃) |
| 作者 | 国宗(備前三郎国宗) |
| 寸法 | 刃長81.3cm、反り2.6cm、元幅3.3cm、先幅2.2cm、切先長3.6cm、茎長23cm |
| 指定 | 国宝(昭和39年5月26日指定/昭和2年7月21日に旧法で指定、現行法の重要文化財に相当) |
| 所有者 | 照国神社 |
| 保管 | 鹿児島県歴史・美術センター黎明館(鹿児島市城山町7-2) |
| 公開 | 特別展示時のみ(年二回程度)。来館前に展示予定の確認を推奨 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 太刀〈銘国宗〉
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/541
- 照国神社 国宝太刀 銘「國宗」
- https://terukunijinja.jp/kunimune/
- 鹿児島県歴史・美術センター黎明館(公式)
- https://www.pref.kagoshima.jp/reimeikan/
- 黎明館 開館時間・休館日・入館料
- https://www.pref.kagoshima.jp/ab23/reimeikan/annnai/kaikanjikan/riyouannai.html
最終更新日: 2026.06.10