都井岬灯台:野生馬が暮らす岬に立つ、九州唯一の「のぼれる灯台」
宮崎県の最南端、串間市の都井岬。標高240メートルの断崖の上に、白亜の都井岬灯台は静かに佇んでいます。1929年(昭和4年)の初点灯以来、日向灘と志布志湾が交わる海上交通の要衝を照らし続けてきたこの灯台は、2019年に国の登録有形文化財に登録されました。九州で唯一、内部を公開している「のぼれる灯台」として、多くの人々に親しまれています。
しかし、この灯台を特別なものにしているのは、その類まれなるロケーションです。都井岬一帯は、国の天然記念物に指定された野生馬「御崎馬(みさきうま)」が自由に暮らす楽園。白い灯台、緑の草原を駆ける野生馬、亜熱帯のソテツ林、そして眼下に広がる太平洋の大パノラマ——日本のどこにもない唯一無二の風景が、ここにはあります。
灯台の歴史
都井岬灯台は、1929年(昭和4年)5月16日に起工し、わずか7か月余りの工期を経て同年12月22日に完成、初点灯を迎えました。都井岬の沖合は、京浜・中京・阪神の主要港と瀬戸内海を結ぶ航路が交差する大隅海峡の東口にあたり、外国船舶も行き交う国際的な海上交通の要衝です。この灯台は、その航路の安全を守るために建設されました。
建設当初は国産の第1等単閃光レンズを使用し、レンズ室を覆う灯籠には、1923年の関東大震災で大破した横浜の試験灯台の特一等灯籠を転用するという、復興の精神が込められた設計でした。光源は1,300カンデラの石油ランプ。その後、1944年(昭和19年)7月に電化され、光度は300万カンデラに達し、当時「東洋一」と称される強力な灯台となりました。
しかし、1945年(昭和20年)7月の空襲により灯室が大破炎上。さらに1950年(昭和25年)には台風の被害も受けました。戦後の復旧工事により同年1月1日に本復旧を遂げ、レンズは第3等大型フレネル式に変更されました。コンクリート造の灯塔本体は創建当時のまま、今もその姿を留めています。2004年(平成16年)には無人化されましたが、現在も光度53万カンデラ、光達距離23.5海里(約44キロメートル)で航行する船舶の安全を見守り続けています。
登録有形文化財としての価値
都井岬灯台は、2019年(平成31年)3月29日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。串間市では、旧吉松家住宅に続く2件目の文化財登録です。
登録の理由として評価されたのは、その建築的・歴史的価値です。鉄筋コンクリート造の構造で、陸屋根の附属舎正面中央に高さ15メートル・八角形平面の灯塔を立て、塔身上部にバルコニーを廻し、金属製・円形平面のドーム屋根を持つ灯室を載せるという特徴的な意匠を持っています。
特に注目すべきは、附属舎の屋根を陸屋根として周囲に欄干を設け、灯塔から出入りできる「屋上庭園」としている斬新な設計です。この建築コンセプトは建設当初からのもので、昭和初期の灯台設計における先進性を今に伝える貴重な事例となっています。また、九州唯一の参観灯台として内部を常時公開し、地域の観光・教育資源として広く親しまれてきた歴史も、文化財としての価値を高めています。
見どころ・魅力
灯塔に登る体験
灯台内部のらせん階段を登り、塔頂の展望ギャラリーに到達すると、そこに広がるのは約270度の太平洋の大パノラマです。灯台そのものの高さは15メートルですが、標高240メートルの断崖の上に建っているため、灯火は海面から約255メートルの高さにあります。晴れた日には、種子島や屋久島、さらには大隅半島の内之浦ロケットセンターまで見渡すことができます。
屋上庭園テラス
灯台の革新的な陸屋根設計により、灯塔の基部周辺には広々としたオープンエアのテラスが広がっています。1929年の建設当時からそのままの姿で保存されたこの屋上庭園は、欄干越しに四方の景色を楽しめる、灯台ならではの特別な空間です。
灯台資料展示室
灯台入口に隣接する「都井岬灯台資料展示室」は、2000年(平成12年)3月に公益社団法人燈光会により開設されました。全国で4番目の灯台展示施設として、パソコンクイズや映像、写真などを通じて灯台の歴史や航路標識の仕組みをわかりやすく紹介しています。
野生の御崎馬
都井岬一帯には約100頭の御崎馬(みさきうま)が自由に暮らしています。この馬は、1697年(元禄10年)に高鍋藩の秋月種政が軍用馬・農耕馬として都井村御崎牧に放牧したのが始まりで、以来300年以上にわたって半野生の状態で生き続けてきた日本在来馬の一種です。1953年に「岬馬およびその繁殖地」として国の天然記念物に指定されました。灯台の敷地内まで馬が訪れることもあり、4月から5月にかけては「春駒」と呼ばれるかわいらしい子馬の姿も見られます。
亜熱帯のソテツ自生林
灯台周辺にはソテツ(蘇鉄)が自生しており、南国情緒あふれる独特の景観を生み出しています。近くの御崎神社周辺にはおよそ3,000本のソテツが群生しており、この自生地は国の特別天然記念物に指定されています。ソテツの自然分布の北限に近い場所として、学術的にも貴重な植生です。
周辺情報
都井岬は灯台だけでなく、自然・文化・体験が凝縮されたエリアです。一日かけてじっくり楽しむことができます。
御崎神社(みさきじんじゃ)
都井岬の断崖に建つ古社で、708年(和銅元年)の創建と伝えられています。周囲を数千本のソテツに囲まれ、朱色の社殿と緑のソテツ林、青い海のコントラストが見事です。縁結びや航海安全の神として信仰を集め、元日には初日の出の名所としても人気があります。
小松ヶ丘広場
岬の中央部に位置する丘陵地で、都井岬の野生馬の約半数がこのエリアで暮らしています。丘の上からは宮崎の海岸線とフィリピン海が一望でき、夕暮れ時に海を背景に草を食む馬たちのシルエットは、ここでしか出会えない絶景です。
都井岬観光交流会館 PAKALAPAKA(パカラパカ)
2020年にオープンした現代的なビジターセンターです。ガラス張りの開放的な空間に、御崎馬の生態や歴史に関する展示、観光案内、カフェ、地元の特産品ショップが揃っています。野生馬ガイドツアーの出発点にもなっています。
TOIGLAM SOLASITA(グランピング施設)
都井岬内にあるグランピング施設で、9棟のドームテントが用意されています。大きな窓からそれぞれ異なる方向の山や海の景色を楽しむことができ、朝夕の野生馬と自然を間近に感じながら特別な一夜を過ごせます。
都井岬火まつり
毎年夏に開催される串間の伝統行事です。この地域に伝わる大蛇伝説にちなみ、高さ約30メートルの柱の頂上めがけて松明を投げ入れるという勇壮な祭りで、毎年多くの観光客が訪れる串間の夏の風物詩となっています。
Q&A
- 灯台の中に入って登ることはできますか?
- はい、都井岬灯台は全国に16基ある「のぼれる灯台」の一つで、九州では唯一の参観灯台です。らせん階段を登って塔頂の展望ギャラリーまで行くことができます。参観寄付金は中学生以上300円、小学生以下は無料です。ただし、悪天候の際は安全のため閉鎖されることがあります。
- 都井岬灯台へのアクセス方法を教えてください。
- 車の場合、宮崎自動車道宮崎ICから国道220号・448号経由で約1時間50分、串間市中心部からは約30分です。公共交通機関の場合、JR日南線串間駅から串間市コミュニティバス(都井岬線)で約45分「都井岬」下車、その後徒歩約30分です。岬入口の「駒止の門」で野生馬保護協力金(車1台500円、バイク200円)をお支払いください。バスの本数が限られているため、事前に時刻表をご確認ください。
- 訪問のベストシーズンはいつですか?
- 春(4〜5月)は子馬の誕生シーズンで新緑も美しく、特におすすめです。秋は気温が快適で空気が澄み、灯台からの遠望が楽しめます。夏は都井岬火まつりが開催されますが、暑さと湿度が高くなります。冬は来訪者が少なく静かな雰囲気を味わえますが、風が強い日もあるためご注意ください。
- 野生馬に近づいても大丈夫ですか?
- 御崎馬は人に慣れていますが、あくまでも野生動物です。少なくとも3メートル以上の距離を保ち、絶対に後ろから近づかないでください。触ったりエサを与えたりすることも禁止されています。車で通行する際は制限速度30km/hを厳守し、道路上の馬に十分ご注意ください。より深く馬たちを知りたい方は、PAKALAPAKAから出発する野生馬ガイドツアー(要予約、1グループ7,700円)がおすすめです。
- 外国語対応はありますか?
- 灯台やPAKALAPAKAビジターセンターには基本的な英語表示があります。灯台資料展示室では視覚的な展示や映像が中心のため、言語を問わず楽しむことができます。より詳しい情報が必要な場合は、翻訳アプリのご利用や、串間市観光物産協会を通じたガイドの事前手配をおすすめします。
基本情報
| 名称 | 都井岬灯台(といみさきとうだい) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)、2019年(平成31年)3月29日登録 |
| 所在地 | 〒888-0221 宮崎県串間市大字大納字野々杵80-2 |
| 所有者 | 国(国土交通省) |
| 建設 | 1929年(昭和4年)5月16日起工、同年12月22日完成・初点灯 |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造、八角形灯塔、高さ15メートル、建築面積80㎡ |
| 灯火特性 | 光度53万カンデラ、光達距離23.5海里(約44km)、毎15秒に1閃光 |
| 標高 | 平均海面上から灯火中心まで約255メートル(標高240mの断崖上) |
| 参観時間 | 3月〜10月:平日 9:00〜16:30、土日祝 9:00〜17:00/11月〜2月:9:00〜16:30 |
| 参観寄付金 | 中学生以上300円、小学生以下無料 |
| 岬入場料 | 車1台500円/バイク200円(駒止の門にて野生馬保護協力金として徴収) |
| アクセス | 串間市中心部から車で約30分/JR串間駅からコミュニティバス約45分+徒歩約30分 |
| その他の選定 | 「日本の灯台50選」選定、全国16基の「のぼれる灯台」の一つ |
参考文献
- 都井岬灯台 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/451500
- 都井岬灯台 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%BD%E4%BA%95%E5%B2%AC%E7%81%AF%E5%8F%B0
- 都井岬灯台(といみさき) — 公益社団法人 燈光会
- https://www.tokokai.org/tourlight/tourlight13/
- 都井岬灯台 — 近代の文化遺産の保存と活用(文化庁)
- https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/065/index.html
- 都井岬灯台 — 串間市公式サイト
- https://kushima-city.jp/toi/lighthouse/
- 都井岬 — 宮崎県公式観光サイト「みやざき観光ナビ」
- https://www.kanko-miyazaki.jp/spot/1002
- Cape Toi — Japan National Tourism Organization
- https://www.japan.travel/en/spot/1951/
- 都井岬灯台 — 海と灯台プロジェクト
- https://toudai.uminohi.jp/column/post-6461/
最終更新日: 2026.03.06