敷地で最も古い建物
旧川本家住宅内蔵は、神奈川県横浜市西区西戸部町一丁目にある明治32年(1899年)建築の土蔵で、昭和8年(1933年)に同一敷地内で移築され、令和6年(2024年)8月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
この屋敷地からは三件が同時に登録されている。うち二件は昭和8年の建築で、内蔵だけが年代を異にする。三十四年という差が、この蔵の評価の核心にあたる。
文化庁の解説は、内蔵について「隧道開削以前から存在」と明記する。京浜電気鉄道が丘陵に隧道を通し、それに伴って主屋が建て替えられたとき、蔵は旧来の屋敷構えとともに失われることなく、新しい主屋の北西に接続する位置へ移された。解体して組み直したか、曳家によったかまでは資料に示されていない。
建築年代には偶然の一致がある。明治32年1月、大師電気鉄道が六郷橋と川崎大師の間で営業を開始した。社員十七名、単線約二キロメートルという規模だった。この会社がのちに京浜電気鉄道となり、現在の京浜急行電鉄となって、いまこの蔵を所有している。建物と所有者は同い年で、最初の三十余年は互いを知らずにいた。
家財蔵の構え
内蔵は家財蔵である。米や商品を納める蔵ではなく、文書、衣類、漆器、季節ごとに出し入れする器物といった、火が出たときに何よりも守るべきものを収めた。厚い土壁と少ない開口部は、この目的から直接導かれた形式である。
棟は南北に通り、妻面を正面とする切妻造妻入。屋根は桟瓦葺。外壁は漆喰塗仕上とし、軒下には鉢巻を廻す。北面には窓を二箇所開ける。庇を受ける持送には繰形が付されており、実用一点張りの蔵には求められない手間がここにかかっている。
内部は各階一室の板敷。建築面積は17平方メートルである。
この数字は主屋と並べると性格がはっきりする。主屋の建築面積は231平方メートルで、内蔵はその十四分の一ほど、六畳間をやや上回る程度の平面を二層に積んだ規模にすぎない。小規模な附属屋が単独で登録の評価に耐える例は多くない。
適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。表門及び石垣も同じ基準で、主屋のみが「造形の規範となっているもの」で登録された。文化庁の評価文は内蔵の価値を「外観重厚ながら主屋と良く調和した土蔵」と要約する。世紀をまたいで隣り合う二棟を違和感なく並ばせた、その調整の結果を評価した一文である。
見られるもの、見られないもの
旧川本家住宅は非公開である。京浜急行電鉄株式会社が所有・管理する空き家で、文化庁は登録時の資料に地域での活用方針を検討中と記した。その後の公開の告知はなく、拝観時間も料金設定もない。敷地内に立ち入ることはできない。
加えて内蔵は、登録された三件のうち最も見えにくい。主屋の北西に接続し、路地側から見れば主屋の裏手にあたる位置に建つ。国指定文化財等データベースに収められた写真も西側から撮られたもので、公道からは、手前に立つ表門と長い石垣のほうが先に目に入る。
同データベースにはもう一点、上階から撮影した小屋組の写真が収められている。土蔵の小屋組は土壁と屋根に覆われて外からは窺えず、公開資料に画像が載る機会は多くない。内蔵の造りを知る手がかりとしては、この一枚の価値が高い。
周辺までの交通は、京急本線戸部駅から徒歩10分ほど、丘の反対側の日ノ出町駅からも同程度である。公道からの撮影は妨げられないが、路地は狭く、周囲の家々には人が住んでいる。
土蔵建築そのものを見たいのであれば、蔵を開放している各地の町並み保存地区のほうが適している。内蔵にあるのは別種の価値で、敷地の環境が一変したときに、手間をかけて残すに値すると判断された明治の小建築という点にある。
Q&A
- 旧川本家住宅内蔵は見学できますか。
- できません。敷地全体が非公開で、京浜急行電鉄株式会社が所有・管理する空き家です。拝観時間や料金の設定はなく、立ち入りもできません。内蔵は主屋の裏手にあたる北西側に接続しているため、公道からの視認も困難です。令和6年時点で地域での活用方針が検討中とされています。
- 旧川本家住宅内蔵はいつ建てられ、移築されたのですか。
- 文化庁は建築年代を明治32年(1899年)とし、昭和8年(1933年)の移築を記録しています。主屋の建て替えを促した隧道開削より前から存在した建物で、敷地に残る建築のなかでは主屋より三十四年古いことになります。
- 旧川本家住宅内蔵はどのような構造の蔵ですか。
- 家財を納める家財蔵で、土蔵造2階建、瓦葺、建築面積17平方メートルです。南北棟の切妻造妻入で屋根は桟瓦葺、外壁は漆喰塗仕上とし、軒に鉢巻を廻します。北面に窓を二箇所開け、庇持送には繰形を付します。内部は各階一室の板敷です。
- 旧川本家住宅内蔵はなぜ文化財に登録されたのですか。
- 令和6年8月15日に登録番号14-0349で登録され、適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。文化庁の解説は「外観重厚ながら主屋と良く調和した土蔵」と評価し、隧道開削以前から存在した点を挙げています。庇持送の繰形など、実用を超えた造作の丁寧さも認められます。
- 旧川本家住宅内蔵の所在地と最寄り駅はどこですか。
- 横浜市西区西戸部町一丁目13で、京急本線戸部駅から丘を登って徒歩10分ほどです。日ノ出町駅からも同程度の距離にあります。同じ敷地の主屋の北西に接続して建ちます。数百メートルの距離に野毛山公園があります。
基本情報
| 名称 | 旧川本家住宅内蔵(きゅうかわもとけじゅうたくうちぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県横浜市西区西戸部町一丁目13 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 14-0349/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 令和6年(2024年)8月15日登録・告示(第107回登録)。文化審議会答申は同年3月15日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 土蔵造2階建、瓦葺、建築面積17平方メートル。年代は明治32年(1899年)、昭和8年移築 |
| 所有者 | 京浜急行電鉄株式会社 |
| 公開状況 | 非公開(空き家)。主屋の裏手に位置し、公道からの視認は困難 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧川本家住宅内蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015004
- 文化遺産オンライン「旧川本家住宅内蔵」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/593602
- 文化庁「文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)」令和6年3月15日(PDF)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/94080301_03.pdf
- 横浜市記者発表(令和6年3月15日)「国登録有形文化財(建造物)に係る答申について」
- https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kyoiku/2023/bunkatouroku202403.html
- 京浜急行電鉄「京急歴史館 創業期」
- https://www.keikyu.co.jp/history/chronology01.html
最終更新日: 2026.08.04