目立たぬように建てられた棟

箱根美術館別館は、神奈川県足柄下郡箱根町強羅にある昭和28年(1953年)竣工の展示施設で、令和6年(2024年)3月6日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。庭園「神仙郷」の北辺中央に位置する。

工事は昭和27年(1952年)11月から翌28年5月にかけて行われた。敷地は萩の家から北側の公共道路へ落ちていく高低差の大きな斜面で、建てれば外の道からも園内の路からも壁面が視野に入る。設計はこの条件に対し、外壁が主張しすぎないよう配慮するという解き方を選んだ。どちらの側から眺めても、別館は景色の主題になろうとしない。

建築面積は195平方メートル。まず補強コンクリートブロック造の平屋があり、その西側に鉄筋コンクリート造二階建が増築されている。文化庁の台帳は昭和中期および昭和56年(1981年)頃の改修を記録するにとどまり、増築の時期を一点に絞ってはいない。

屋根を読む

ここには二つの屋根形式が隣り合っている。その差はこの建物の主張の大半を担っているので、少し立ち止まって見ておきたい。

平屋部分は寄棟造で、棟に反りをつける。西側の二階建増築部は宝形造、すなわち四方の勾配が棟を持たず一点に集まる形式で、日本建築では方形の小堂に用いられることが多い。いずれも青瓦葺。棟のある屋根と頂点に収束する屋根を並べれば、歩くにつれて輪郭が変化する。園路沿いの建物には、この変化こそが求められる。一続きの棟で覆っていたら生じない効果だ。

玄関は南面の東寄りに開き、そのまま展示室へ入る構成をとる。文化庁の解説はこの建物を、所蔵品に合わせて東洋趣味を加えたものと記す。数分坂を上った本館の青瓦と淡色の壁を導いたのと同じ理屈が、ここでも働いている。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は14-0346。同日に本館が14-0345、休憩所が14-0347として登録された。三件の台帳が描いているのは、一続きに構成された景観である。神仙郷そのものは既に令和3年(2021年)3月26日に国の名勝の指定を受けている。岡田茂吉(1882〜1955)が昭和19年(1944年)から昭和28年(1953年)にかけて造り上げた景観に対する評価であった。

台帳のなかで目に留まる点がひとつある。別館の所有者は宗教法人世界救世教であり、本館と休憩所は公益財団法人岡田茂吉美術文化財団の所有である。三棟、一つの庭、二つの所有主体。神仙郷が宗教法人の聖地として始まり、その性格を残したまま公開の美術館となった経緯が、所有関係の側にも残っている。

展示されているもの

別館は現在、創立者について語る部屋として機能している。岡田茂吉の生涯と事業を紹介し、あわせて自ら揮毫した御書画を展観する。神仙郷において、庭と建物の背後にいる人物が正面から姿を現す場所はここだけである。苔庭を先に歩き、そののち別館に至るという順路をとると、全体の筋道が読みやすい。

岡田が強羅に移り住んだのは昭和19年(1944年)。戦争末期からその後の困難な数年を、この地で過ごしている。強羅は明治以来の別荘地で、明治45年(1912年)に別荘の分譲が始まり、大正3年(1914年)に強羅公園が開園、大正8年(1919年)には箱根登山鉄道が通じた。岡田は既に出来上がっていた保養地の風景を買い取り、別のものへ組み替えたのである。

訪問に関する情報を整理しておく。令和8年(2026年)5月7日から改修工事のため休館中で、再開は段階的に進む。別館は10月30日に仮展示室を伴って先行再開し、本館展示室は12月23日の公開が予告されている。通常時の開館は4月から11月が9時30分から16時30分、12月から3月が9時30分から16時、最終入館は閉館の30分前。休館日は木曜日で、祝休日は開館する。休館前の観覧料は一般1,430円、高大生660円、中学生以下無料であった。フラッシュを用いない手持ち撮影は可能だが、三脚・一脚・自撮り棒は使えない。館内での飲食はできない。園路には階段が多く、バリアフリー対応ではない。

JR小田原駅からは所要約1時間。箱根登山鉄道で強羅へ、ケーブルカーに一駅乗って公園上で下車する。駐車場は9時から17時まで無料。

Q&A

Q箱根美術館別館はいつ再開しますか。
A令和8年(2026年)10月30日に仮展示室を伴って再開する予定です。同年5月7日から全面休館しており、本館展示室の再開は12月23日と別に予告されています。日程は変更の可能性があるため、訪問前に公式サイトでご確認ください。
Q箱根美術館別館では何が展示されていますか。
A創立者・岡田茂吉(1882〜1955)の生涯と事業の紹介、および岡田が自ら揮毫した御書画です。やきものを中心とする所蔵品の展示は本館で行われています。
Q箱根美術館別館の屋根はなぜ形が二種類あるのですか。
A先に建った平屋部分が棟に反りをつけた寄棟造、西側に増築された鉄筋コンクリート造二階建が宝形造で、いずれも青瓦葺です。棟を持つ屋根と一点に収束する屋根が並ぶことで、園路を歩くにつれて建物の輪郭が変化します。
Q箱根美術館別館の所有者はどこですか。
A国指定文化財等データベースは宗教法人世界救世教を所有者として記載しています。本館と休憩所は公益財団法人岡田茂吉美術文化財団の所有で、三棟は同じ庭園内に建ち、一つの美術館として運営されています。
Q箱根美術館別館は車椅子で見学できますか。
A当館はバリアフリー対応ではありません。神仙郷の園内は階段が多く、本館入口にも段差があり、エレベーターはありません。車椅子の貸出はありますが、館は介助なしでの見学はできないと案内しています。事前に問い合わせのうえご検討ください。
Q箱根美術館別館へは小田原からどのくらいかかりますか。
A所要およそ1時間です。JR小田原駅から箱根登山鉄道で強羅へ向かい、ケーブルカーに一駅乗って公園上で下車すると、入口はすぐです。車の場合、駐車場は9時から17時まで無料で利用できます。

基本情報

名称箱根美術館別館(はこねびじゅつかんべっかん)
所在地神奈川県足柄下郡箱根町強羅字強羅1300-85
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 14-0346
指定年令和6年(2024年)3月6日 登録
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造2階建及びコンクリートブロック造平屋建、瓦葺、建築面積195平方メートル
所有者宗教法人世界救世教
公開状況通常は展示施設として公開。令和8年(2026年)5月7日から休館し、10月30日再開の予定

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 箱根美術館別館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014778
文化遺産オンライン — 箱根美術館別館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/594266
東方之光 — 神仙郷のご案内
https://tohonohikari.or.jp/sacred/shinsenkyo
箱根美術館 — 展示室(本館・別館)
https://moaart.or.jp/hakone/map/tenji/
国指定名勝 箱根 神仙郷 公式サイト
https://shinsenkyo.jp/

最終更新日: 2026.08.03