収集家が自ら引いた図面

箱根美術館本館は、神奈川県足柄下郡箱根町強羅にある昭和27年(1952年)竣工の美術館建築で、令和6年(2024年)3月6日に国の登録有形文化財(建造物)となった。庭園「神仙郷」の北西に位置し、東を向いて建つ。

構造は鉄筋コンクリート造およびコンクリートブロック造の3階建、瓦葺、建築面積431平方メートル。床スラブに中空コンクリートブロックを用いている点が、この建物の来歴を端的に語る。終戦から7年、資材の逼迫した時期に、軽量化によって必要な支間を確保する判断がなされたわけである。中央に玄関と階段室を置き、南北へ2階建の展示室を延ばす。その上に3階の塔屋が立ち、棟に反りをつけた寄棟屋根を青瓦で葺く。

設計したのは創立者の岡田茂吉(1882〜1955)である。建築の専門教育を受けた人物ではない。それでも建物本体から内装、館側の記述によれば展示ケースに至るまで、指示は岡田自身から出た。全国から集まった建設奉仕隊が施工の多くを担い、着工からおよそ8か月で完成、昭和27年6月に開館している。

登録が捉えたもの

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった、国宝・重要文化財の指定制度に比べて規制が緩やかな枠組みである。届出制を基本とし、対象の裾野が広い。近代以降の建築、現に使われている建物、築五十年程度のものといった、指定制度がすくい上げにくい領域を受け止めるために設けられた。

本館の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は14-0345。同じ日に別館が14-0346、休憩所が14-0347として登録された。三件の台帳を並べて読むと意図が見えてくる。文化庁が登録したのは独立した三棟というより、一続きの景観として構成された場面だった。

その景観は既に一度、別の枠組みで評価を受けている。令和3年(2021年)3月26日、神仙郷が国の名勝に指定された。岡田は昭和19年(1944年)から昭和28年(1953年)にかけてこの庭を造り、地形の整備、園路の決定、池泉の意匠、岩の据え方、植栽に至るまで自ら指示を出した。強羅の庭師である勝俣芳太郎と建設奉仕隊がそれを形にしている。本館は、既に姿を現しつつあった庭のなかへ建てられた建築なのである。

岡田が美術館の建設に踏み切った動機は、優れた美術品を特権的な所有から解き放つことにあった。敗戦後の混乱期には日本の名品が相当量国外へ流出しており、岡田の蒐集はその流れに逆らうものだったと評価されている。蒐集品の中核は後に熱海のMOA美術館へ移り、箱根では縄文土器から六古窯の壺甕、江戸期に至る日本のやきものを軸とする展示が組まれてきた。

建物の見どころ

外観はまず中国風として目に入る。淡色の壁、青い瓦、端で跳ね上がる棟。この意匠は箱根の風土に合わせたものではなく、収蔵品に合わせて選ばれた。むしろ周囲の方が後から呼応している。本館と別館を結ぶ園路と階段の両脇に孟宗竹を植えた竹庭は昭和26年(1951年)の完成で、建物の持つ大陸的な調子を地面の上へ引き延ばす役割を負う。

2階ロビーに立てば、窓を大きくとった理由がわかる。眼下に庭園、その向こうに箱根外輪山。ガラス面が両方を一枚に収める。3階には床の間を備えた日本間が置かれ、貴賓室として使われた。眺望とやきものを同じ室内で味わう構えである。

改修は昭和56年(1981年)と平成7年(1995年)に行われ、現在も工事が進行中である。

訪問に関わる実際的な事柄を記しておく。令和8年(2026年)5月7日から10月29日まで全面休館。再開は段階的で、休憩所と別館が10月30日、改修後の本館展示室は12月23日の公開が予告されている。年内の訪問を考えている場合は館へ直接確認したい。通常時の開館は4月から11月が9時30分から16時30分、12月から3月が9時30分から16時、最終入館は閉館30分前。休館日は木曜日で、祝休日の場合は開館する。休館前の観覧料は一般1,430円、高大生660円、中学生以下無料であった。フラッシュを用いない撮影は可能だが、三脚・一脚・自撮り棒は使えない。鉛筆やコンテによるスケッチは認められている。バリアフリー対応ではなく、本館入口にも階段があり、エレベーターはない。駐車場は無料、9時から17時まで。

JR小田原駅からは所要約1時間。箱根登山鉄道で強羅まで行き、ケーブルカーに一駅乗って公園上で降りると、入口はすぐそこにある。

Q&A

Q箱根美術館本館は今すぐ見学できますか。
Aできません。令和8年(2026年)5月7日から改修工事のため休館しており、本館展示室の公開再開は12月23日と予告されています。休憩所と別館はそれに先立ち10月30日の再開予定です。日程は変わり得るため、訪問前に公式サイトでご確認ください。
Q箱根美術館本館を設計したのは誰ですか。
A創立者の岡田茂吉(1882〜1955)です。建築の専門教育は受けていませんが、館の説明によれば建物本体・内装・展示ケースまで岡田自身の設計によります。施工の多くは全国から集まった建設奉仕隊が担い、およそ8か月で完成しました。
Q箱根美術館本館の外観はなぜ中国風なのですか。
A淡色の壁、青瓦、反りのある棟という意匠は、箱根の風景に合わせたのではなく収蔵品に調子を合わせて選ばれたものです。昭和26年(1951年)に整えられた竹庭が、同じ大陸的な趣を庭側へ延長しています。
Q箱根美術館本館は国宝や重要文化財ですか。
Aいずれでもなく、登録有形文化財(建造物)です。平成8年(1996年)に始まった、指定制度より規制の緩やかな枠組みで、令和6年(2024年)3月6日に登録番号14-0345として別館・休憩所とともに登録されました。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。
Q箱根美術館本館の館内で写真を撮れますか。
Aフラッシュを使わない手持ち撮影は可能です。三脚・一脚・自撮り棒は使用できず、営利目的の撮影は事前申請と料金が必要です。鉛筆・コンテによるスケッチは認められていますが、万年筆・毛筆・絵具・イーゼルは使えません。
Q箱根美術館本館を囲む神仙郷とはどのような庭園ですか。
A岡田茂吉が昭和19年(1944年)から昭和28年(1953年)にかけて強羅に造った庭園群で、苔庭、巨岩と渓流による石楽園、竹庭、複数の茶室などから成ります。令和3年(2021年)3月26日に国の名勝に指定されました。

基本情報

名称箱根美術館本館(はこねびじゅつかんほんかん)
所在地神奈川県足柄下郡箱根町強羅字強羅1300-85
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 14-0345
指定年令和6年(2024年)3月6日 登録
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造及びコンクリートブロック造3階建、瓦葺、建築面積431平方メートル
所有者公益財団法人岡田茂吉美術文化財団
公開状況通常は展示室として公開。令和8年(2026年)5月7日から10月29日まで全面休館、本館展示室は12月23日公開再開の予定

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 箱根美術館本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014777
文化遺産オンライン — 箱根美術館本館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/564655
国指定名勝 箱根 神仙郷 公式サイト
https://shinsenkyo.jp/
箱根美術館 — 展示室(本館・別館)
https://moaart.or.jp/hakone/map/tenji/
箱根美術館 — 営業時間・料金
https://moaart.or.jp/hakone/guide/

最終更新日: 2026.08.03