覚園寺大燈塔 ― 鎌倉末期の石造美を今に伝える国指定重要文化財

鎌倉市二階堂の覚園寺境内の最も奥まった墓所に、ひっそりと佇む覚園寺大燈塔は、正慶元年(1332年)に造立された石造宝篋印塔です。覚園寺の第二世住職・大燈源智の供養塔として建てられたこの塔は、開山塔とともに鎌倉時代の宝篋印塔としては最大級の規模を誇り、昭和9年(1934年)に国の重要文化財に指定されました。鎌倉幕府滅亡のわずか1年前に造立されたこの塔には、中世日本の信仰、葬送文化、そして石造技術の粋が凝縮されています。

覚園寺の歴史と大燈塔の背景

覚園寺の歴史は、建保6年(1218年)に鎌倉幕府第二代執権・北条義時が建立した大倉薬師堂にさかのぼります。『吾妻鏡』や『覚園寺縁起』によれば、義時は夢の中で十二神将の戌神(伐折羅大将)から「来年の拝賀の日には実朝の供をするな」というお告げを受け、これに従って三代将軍・源実朝の鶴岡八幡宮参拝に同行しなかったことで、建保7年(1219年)の実朝暗殺事件から命を守ったとされています。義時はこの霊験に感謝して薬師堂を建てました。

その後、永仁4年(1296年)に第九代執権・北条貞時が、二度の元寇の後も依然として残るモンゴル襲来への危機感から、異国降伏を祈念して薬師堂を本格的な寺院に改めました。智海心慧律師を開山に迎え、真言・天台・禅・浄土の四宗兼学の道場として覚園寺を創建したのです。このような四宗兼学の寺院は鎌倉でも極めて珍しく、全国から学僧が集まる知的拠点となりました。

覚園寺の第二世住職となった大燈源智は、開山・智海心慧の志を継いで寺院の発展に尽力しました。大燈塔は、智海心慧の供養塔(開山塔)とともに正慶元年(1332年)に造立されたもので、台石に刻まれた銘文「正慶元年壬申仲秋廿八日」がその年月を正確に伝えています。

重要文化財に指定された理由

覚園寺大燈塔が国の重要文化財に指定された背景には、いくつもの重要な価値が認められています。

第一に、鎌倉時代後期の石造宝篋印塔として最高水準の造形美を示している点です。開山塔と大燈塔は同大同形で、鎌倉時代の宝篋印塔としては最大級の規模を持ちます。基礎・塔身・笠・相輪に至るまで、均整のとれた姿は当時の石工技術の到達点を物語っています。

第二に、台石に刻まれた銘文によって造立年が正確に判明する点です。中世の石造物においてこのような正確な紀年銘を持つものは決して多くなく、年代の基準となる重要な遺例として学術的価値が極めて高いとされています。

第三に、昭和41年(1966年)の解体修理の際に塔内部から発見された納置品が、中世の葬送文化と工芸美術の両面で重要な知見をもたらした点です。大燈塔からは水晶五輪塔(金銅蓮台共)と褐釉双耳壺が発見され、これらの納置品は昭和43年(1968年)に別途重要文化財に指定されました。銅五輪塔の銘文に見える「孝子光廣」は、両石塔の台石に刻まれた「大工光廣」と同一人物とみられ、塔の造立と納置品の製作が同一の石工によるものであることを示す貴重な証拠となっています。

建築的特徴と見どころ

宝篋印塔は、もともと中国の呉越王・銭弘俶が宝篋印陀羅尼経を納めるために作った塔に由来し、日本では鎌倉時代初期から供養塔や墓塔として盛んに造立されるようになりました。大燈塔はこの伝統的な宝篋印塔の構造を忠実に踏襲しつつ、鎌倉独自の石造文化の到達点を示しています。

塔の構成は下から順に、返花座(かえりはなざ)、基礎(きそ)、塔身(とうしん)、笠(かさ)と隅飾り(すみかざり)、伏鉢(ふくばち)、請花(うけばな)、そして最上部の宝珠(ほうじゅ)から成ります。杉木立に囲まれた墓所の中で、開山塔と並んで静かに佇む姿は、約700年の風雪に耐えた威厳と侘びの美を湛えています。二基の巨大な宝篋印塔を取り囲むように、三世以降の歴代住職の墓である12基の無縫塔が配置されており、覚園寺の連綿と続く法統を物語る荘厳な空間を形成しています。

納置品が語る中世の信仰と工芸

昭和41年(1966年)の解体修理は、630年以上にわたって塔の内部に秘められていた品々を現代に蘇らせました。大燈塔の塔身からは水晶五輪塔が、石室からは褐釉双耳壺が発見されています。水晶五輪塔は金銅製の蓮台の上に載せられた精巧な作品で、水晶を用いた五輪塔は中世においても極めて珍しい遺例です。

一方、開山塔からは黄釉草葉文壺をはじめとする納置品が発見されました。この黄釉草葉文壺は古瀬戸の逸品として陶磁史上特筆すべき名品であり、その製作年代の下限が石塔の建立年である1332年と特定できることから、中世日本の陶磁器研究における重要な年代基準となっています。

興味深いことに、銅五輪塔には南朝の年号が、両石塔および笹塔婆には北朝の年号が使用されています。これは南北朝時代の複雑な政治的状況を反映しており、当時の寺院がいかに時代の激動の中に置かれていたかを物語る歴史資料としても注目されています。

覚園寺の拝観案内

大燈塔は境内最奥の墓所に位置し、通常は非公開となっています。しかし、覚園寺そのものは鎌倉随一の幽玄な雰囲気を持つ寺院として知られ、訪れる価値は十分にあります。都市化が進む以前の鎌倉の面影を最もよく残す寺のひとつと評され、苔むした境内は訪れる人々を中世の鎌倉へと誘います。

本堂である薬師堂には、重要文化財の薬師三尊坐像や十二神将立像が安置されており、鎌倉でもこれほど多くの鎌倉・室町時代の仏像が揃って残されている寺院は稀です。また、愛染堂には廃寺となった大楽寺から移された愛染明王坐像や、「試みの不動」として知られる鉄造不動明王坐像が祀られています。地蔵堂には「黒地蔵」の通称で親しまれる木造地蔵菩薩立像(重要文化財)が安置されています。

拝観時間は10時から16時まで。拝観料は大人500円、小中学生200円です。境内は写真撮影禁止となっています。毎年8月10日の深夜0時から正午にかけて行われる「黒地蔵縁日」は、鎌倉の夏の風物詩として多くの参詣者で賑わいます。なお、例年4月下旬から5月の連休中には奥の院(歴代住職墓所)が特別公開されることがあります。

周辺の見どころ

覚園寺のある二階堂地区は、歴史と自然に恵まれた散策に最適なエリアです。バス停「大塔宮」のすぐそばには鎌倉宮(大塔宮)があり、後醍醐天皇の皇子・護良親王を祀る神社として知られています。そこから徒歩約8分で日本三大天神のひとつに数えられる荏柄天神社に到着します。学問の神・菅原道真を祀り、受験生の参拝が絶えません。

瑞泉寺は夢窓疎石が造営した庭園で知られ、梅や紅葉の名所としても人気があります。鎌倉最古の寺院とされる杉本寺は、苔に覆われた石段が印象的です。金沢街道沿いに足を延ばせば、美しい竹の庭で名高い報国寺にも訪れることができます。これらの寺社を巡りながら、中世鎌倉の空気を存分に味わうことができるでしょう。

Q&A

Q覚園寺大燈塔とはどのような文化財ですか?
A覚園寺大燈塔は、正慶元年(1332年)に建立された石造宝篋印塔で、覚園寺の第二世住職・大燈源智の供養塔です。鎌倉時代の宝篋印塔としては最大級の規模を誇り、昭和9年(1934年)に国の重要文化財に指定されています。
Q大燈塔は見学できますか?
A大燈塔は境内最奥の墓所にあり、通常は非公開です。ただし、例年4月下旬から5月の連休中に奥の院が特別公開されることがあり、その際に拝観できる場合があります。最新の公開情報は覚園寺の公式サイトでご確認ください。
Q大燈塔の内部から何が発見されましたか?
A昭和41年(1966年)の解体修理の際、塔身から水晶五輪塔(金銅蓮台共)が、石室から褐釉双耳壺が発見されました。これらの納置品は昭和43年(1968年)に重要文化財に指定されており、中世の葬送文化を知る上で極めて貴重な資料です。
Q覚園寺へのアクセス方法を教えてください。
AJR鎌倉駅東口から京急バス「鎌倉宮(大塔宮)」行きに乗車し、終点「大塔宮」で下車。そこから徒歩約10分で覚園寺に到着します。鎌倉駅から徒歩の場合は約30〜40分です。
Q開山塔と大燈塔はどう違いますか?
A開山塔は覚園寺の開山(初代住職)である智海心慧の供養塔、大燈塔は第二世住職の大燈源智の供養塔です。ともに正慶元年(1332年)に造立された同大同形の宝篋印塔で、いずれも国の重要文化財に指定されています。

基本情報

名称 覚園寺大燈塔(かくおんじ だいとうとう)
種別 石造宝篋印塔
造立年 正慶元年(1332年)
文化財指定 国指定重要文化財(昭和9年〈1934年〉1月30日指定)
被供養者 大燈源智(覚園寺第二世住職)
所在寺院 鷲峰山 覚園寺(真言宗泉涌寺派)
所在地 神奈川県鎌倉市二階堂421
アクセス JR鎌倉駅東口より京急バス「大塔宮」行き終点下車、徒歩約10分
拝観料 大人500円、小中学生200円
拝観時間 10:00〜16:00
公開状況 大燈塔は通常非公開(境内最奥の墓所に所在)

参考文献

覚園寺 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%9A%E5%9C%92%E5%AF%BA
鎌倉覚園寺大燈塔納置品 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/206880
鎌倉覚園寺開山塔納置品 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/213149
覚園寺【日本遺産】 - 鎌倉市観光協会
https://www.trip-kamakura.com/place/japanheritage/93.html
「武家の古都・鎌倉」を構成した文化財 - 神奈川県ホームページ
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ar3/cnt/f417245/p442593.html
覚園寺 | 鎌倉の寺院と札所巡り by鎌倉PRESS
https://kamakura.press/tera/kakuonji/
〈史跡〉鎌倉市の国宝・指定文化財(建造物) - 鎌倉タイム
https://kamakura-guide.jp/kokuhou-juubun
鎌倉 覚園寺 公式サイト
https://kamakura894do.com/

最終更新日: 2026.04.17