長柄桜山古墳群:神奈川県最大の前方後円墳が語る古代の物語

逗子市と葉山町の境界にまたがる丘陵の上に、約1,600年の眠りから覚めた二つの巨大な前方後円墳が静かに佇んでいます。長柄桜山古墳群(ながえさくらやまこふんぐん)は、4世紀後半に築造された現存する神奈川県最大の前方後円墳2基からなる古墳群で、2002年に国の史跡に指定されました。三浦半島で唯一知られている前方後円墳であり、相模湾から江の島、富士山、そして東京湾から房総半島まで見渡せる絶景の丘に位置するこの古墳群は、古代の歴史ロマンと自然の美しさを同時に味わえる、東京からわずか1時間の隠れた歴史スポットです。

長柄桜山古墳群とは

長柄桜山古墳群は、前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん)と呼ばれる鍵穴のような形をした2基の大型古墳で構成されています。前方後円墳は円形の後円部と台形の前方部を持つ日本独自の墳墓形式で、古墳時代(3世紀~6世紀)において最も有力な支配者や一族の長のために築造されたものです。これほどの規模の古墳を築くには膨大な人手と資材が必要であり、大和朝廷の中枢である畿内地域と深いつながりを持つ有力な一族がこの地に存在していたことを物語っています。

第1号墳は標高約120メートルの丘陵上に位置し、全長91.3メートルを測ります。後円部は径51メートル、高さ7メートル、前方部は長さ39メートル、幅31.5メートルです。丘陵の岩盤を削り出した上に約1.5メートルの盛土を施して築造されており、後円部の中心には長さ約7メートル、幅約1.6メートルの落ち込み(埋葬施設)が確認されています。ここには粘土で覆われた木棺が安置されていたと考えられています。

第2号墳は第1号墳から西へ約500メートル、標高約100メートルの地点に位置し、全長88メートルを測ります。第1号墳にはない葺石(ふきいし)が墳丘表面に施されているのが特徴です。下部には海岸から運ばれた黄色い泥岩、上部には相模川や多摩川方面から運ばれたとみられる白い砂岩が使われており、築造者たちの高い資材調達能力がうかがえます。両古墳からは壺形埴輪や円筒埴輪、土師器などが出土しています。

1999年の劇的な発見

長柄桜山古墳群の最も興味深い点の一つは、その発見が極めて近年であることです。1999年まで、この巨大な古墳の存在は誰にも知られていませんでした。物語は1994年頃に始まります。葉山町にお住まいだった考古学愛好家の故・東家洋之助さんが、地形図に見える丘陵の形状から古墳ではないかと考えるようになったのがきっかけでした。

転機は1999年3月に訪れます。この丘陵上で携帯電話の中継基地建設のために小規模な森林伐採が行われた際、東家さんが土中から埴輪の破片を採集しました。この発見を受けて、逗子市・葉山町・神奈川県の各教育委員会が合同で緊急調査を実施。全長約90メートルの大型前方後円墳であることが確認され、中継基地の建設工事は直ちに中止されました。

同年4月、県内の考古学研究者が約500メートル西にある丘陵のピーク部にも前方後円墳らしい地形があることを指摘。6月の試掘調査で葺石と埴輪が確認され、第2号墳の存在が明らかになりました。県内最大級の前方後円墳2基の発見は、三浦半島の考古学的理解を根本から覆す画期的な出来事でした。

なぜ国の史跡に指定されたのか

長柄桜山古墳群は2002年12月19日に国の史跡に指定されました。その文化的価値が認められた理由は複数あります。

第一に、これらは神奈川県内に現存する最大の前方後円墳であり、三浦半島では唯一知られている前方後円墳です。その規模と形式は、それまで存在が確認されていなかったこの地域の有力な支配者層の存在を示し、古墳時代前期の関東地方の政治的景観に関する理解を根本から変えるものでした。

第二に、古墳は戦略的に重要な場所に位置しています。第1号墳からは東京湾と房総半島を、第2号墳からは相模湾と富士山を望むことができます。古代の官道・古東海道のルートの一つが田越川沿いを通っていたと考えられており、陸路と海路の交差点にあたるこの地に有力者の拠点があったことは理にかなっています。

第三に、古墳の保存状態が極めて良好です。周辺では1960年代以降の宅地開発により地形が大きく改変されましたが、古墳本体とその周辺の自然環境は各種法令に基づく開発規制によって守られ、豊かな自然が今も残されています。

見どころ・魅力

第1号墳:丘の上の大パノラマ

2024年の保存整備工事完了に伴い、第1号墳は初めて一般に公開されました。逗子市制70周年・葉山町制100周年の記念事業としてオープニングセレモニーが開催され、以来、誰でも墳丘の上に登ることができるようになっています。頂上には埴輪のレプリカが配置され、古墳本来の姿をしのばせます。墳頂からの眺望は圧巻で、眼下に逗子湾が広がり、遠くに江の島、晴れた日には富士山が悠然とそびえる大パノラマが楽しめます。また、頂上には木棺の埋葬位置が色分けして表示されており、解説板とともに古墳の構造を学ぶことができます。

第2号墳:築造当時の姿を伝える緑の古墳

蘆花記念公園の裏山にあたる第2号墳は、緑豊かな自然環境の中で築造当時の姿をよく残しています。周囲の自然林と静謐な雰囲気が、かつてこの墳墓がいかに神聖な場所であったかを想像させます。前方部の正面に立つと、第1号墳と同様に逗子湾から江の島、そして富士山まで見渡すことができ、1,600年前と変わらぬ景色を楽しむことができます。

ふれあいロード:2基の古墳をつなぐ尾根道

第1号墳と第2号墳は「ふれあいロード」と名づけられたハイキングコースでつながっています。約500メートルの森の尾根道を15~20分ほどで歩くことができ、静かな林間の散策を楽しみながら、古代の景観に思いを馳せることができます。蘆花記念公園から葉桜団地までの全行程は約2.3km、標高差約115メートルの適度なハイキングコースです。

周辺情報

長柄桜山古墳群の周辺には、半日から一日かけて楽しめる観光スポットが充実しています。

蘆花記念公園 — 第2号墳のふもとに位置する、明治の文豪・徳冨蘆花ゆかりの公園です。文学碑が点在する散策路、美しい紅葉、そして相模湾と江の島を望む眺望が魅力です。園内には、大正時代に建てられた徳川家16代家達公の別邸を利用した逗子市郷土資料館もあります。

六代御前の墓 — 蘆花記念公園の入口近くにある、平清盛の曾孫にあたる平高清(六代御前)の墓と伝えられる史跡です。平氏滅亡の悲劇を今に伝える静かな場所です。

逗子海岸 — 相模湾に面した美しい砂浜で、古墳エリアからも近い距離にあります。夏は海水浴やSUPで賑わい、それ以外の季節も江の島と富士山を背景にした夕景が楽しめる人気のスポットです。

葉山しおさい公園・博物館 — 葉山御用邸に隣接する公園で、日本庭園や潮だまり、そして相模湾の海洋生物を展示する博物館があります。

鎌倉 — 逗子からJR横須賀線でわずか2駅の日本の古都。鎌倉大仏をはじめ、数十に及ぶ歴史的な寺社が点在しています。

訪問のためのアドバイス

古墳は森に覆われた丘陵上にあり、到達するにはある程度の坂道を登る必要があります。グリップの良い歩きやすい靴を履き、特に夏場は水分と虫除けスプレーを持参してください。ハイキングコース上にはトイレや自動販売機はありません。最寄りの公衆トイレは蘆花記念公園と六代御前の墓付近にあります。

入場は無料で、年間を通じて見学可能です。春は桜や新緑、秋は紅葉が美しく、冬の澄んだ空気の日には富士山の眺望が格別です。案内板や解説パネルは日本語ですが、ハイキングコースの標識は分かりやすく整備されていますので、言語に関わらず迷うことはほとんどありません。

Q&A

Q東京から長柄桜山古墳群へはどのように行けますか?
A東京駅からJR横須賀線で逗子駅まで約60分(乗り換えなし)。逗子駅東口から京急バス「葉桜」行き(逗17系統)に乗車し終点下車(約10分)、徒歩約10分で第1号墳に到着します。第2号墳へは逗子駅から京急バスで「富士見橋」下車、蘆花記念公園を経由して登山道を約15分で到着します。
Q入場料はかかりますか?
Aいいえ、長柄桜山古墳群の見学は無料です。丘陵上の公共空間に位置しており、年間を通じていつでも自由に見学できます。
Q2基の古墳を見学するのにどのくらい時間がかかりますか?
A2基の古墳とふれあいロードのハイキングを含めて、往復で約2~3時間が目安です。蘆花記念公園や六代御前の墓も合わせて散策する場合は、半日程度を見ておくのがおすすめです。
Q古墳・前方後円墳・埴輪とは何ですか?
A古墳は3世紀から6世紀にかけて日本で築造された墳墓(お墓)です。前方後円墳は円形の後円部と台形の前方部を持つ鍵穴のような形状の古墳で、最も有力な支配者のために築かれました。埴輪は古墳の上や周囲に並べられた素焼きの土製品で、円筒形のものや壺形、人物・動物を模したものなどがあります。長柄桜山古墳群では壺形埴輪と円筒埴輪が出土しています。
Q古墳見学と他の観光を組み合わせることはできますか?
Aもちろんです。午前中に古墳ハイキングを楽しみ、昼食は逗子や葉山の海辺のレストランで、午後は逗子海岸を散策し、さらにJRで2駅の鎌倉まで足を延ばして大仏や名刹を巡る――といった充実した一日プランが組めます。

基本情報

正式名称 長柄桜山古墳群(ながえさくらやまこふんぐん)
指定 国指定史跡(2002年〈平成14年〉12月19日指定)
時代 古墳時代前期・4世紀後半(約1,600年前)
種別 前方後円墳2基
第1号墳 全長91.3m、後円部径51m・高さ7m、標高約120m
第2号墳 全長88m、葺石あり、標高約100m
所在地 神奈川県逗子市桜山/三浦郡葉山町長柄
アクセス JR横須賀線「逗子駅」東口 → 京急バス「葉桜」行き(逗17)終点下車(約10分)→ 徒歩約10分で第1号墳。または「富士見橋」バス停下車 → 蘆花記念公園経由で第2号墳まで徒歩約15分。
入場料 無料(通年公開)
設備 第1号墳に解説板・階段・園路整備済み(2024年整備完了)。コース上にトイレなし。最寄りのトイレは蘆花記念公園内。

参考文献

長柄桜山古墳群 ながえさくらやまこふんぐん|逗子市公式サイト
https://www.city.zushi.kanagawa.jp/shiminkatsudo/bunkazai/1004577/1004578.html
国指定史跡長柄桜山古墳群(ながえさくらやまこふんぐん)|葉山町
https://www.town.hayama.lg.jp/soshiki/shougaigakushuu/7/1/1121.html
長柄桜山古墳群 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/192582
長柄桜山古墳群(逗子市・三浦郡葉山町)|かながわ考古学財団
https://www.kaf2.org/josetsu/kofun/kofun_iseki/kofun_nagae
長柄桜山古墳群 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/長柄桜山古墳群
長柄桜山古墳群|逗子と葉山にまたがる2基の神奈川県最大の前方後円墳
https://miurahantou.jp/nagae-sakurayama-kofungun/
長柄桜山古墳群(第1号墳)|逗子旅
https://www.zushitrip.com/spot/detail_251.html

最終更新日: 2026.03.03