横浜市開港記念会館:「ジャックの塔」— 横浜の国際的な歴史を象徴する重要文化財

横浜の歴史的な関内地区の中心に堂々と佇む横浜市開港記念会館は、大正時代を代表する公会堂建築であり、国の重要文化財に指定されています。高さ約36メートルの優美な時計塔は「ジャックの塔」の愛称で親しまれ、100年以上にわたり横浜の港町としての発展を見守り続けてきました。

この会館は、横浜開港50周年を記念し、市民からの寄付によって建設されました。大正6年(1917年)7月1日の開港記念日に開館して以来、横浜市民にとってかけがえのないシンボルであり続けています。神奈川県庁本庁舎(「キングの塔」)、横浜税関本関庁舎(「クイーンの塔」)とともに「横浜三塔」の一つに数えられ、横浜港のシンボルとして広く愛されています。

歴史的背景:開港の地に建つ市民の殿堂

横浜市開港記念会館の歴史は、近代日本の歩みそのものと深く結びついています。嘉永6年(1853年)、ペリー提督率いる「黒船」が浦賀に来航し、翌年には日米和親条約が締結されました。さらに安政5年(1858年)の日米修好通商条約により、安政6年(1859年)7月1日に横浜港が開港。これを機に、静かな漁村にすぎなかった横浜は、日本と西洋世界を結ぶ国際貿易港として急速に発展を遂げました。

会館の建つ敷地には、かつて明治7年(1874年)に建設された町会所(のちの横浜会館)が立っていました。設計はR.P.ブリジェンスによる木骨石造2階建ての洋風建築で、3層の時計塔を備え、横浜市民に「時計台」として深く親しまれていました。なお、この地は岡倉天心の父が営んだ越前藩の生糸商店「石川屋」があった場所でもあり、天心はここで誕生したと伝えられています。

明治39年(1906年)に旧町会所が失火により焼失すると、市民の間でその跡地にふさわしい記念建造物を建てようという機運が高まりました。明治42年(1909年)の開港50周年祭で新たな公会堂の建設が正式に決定し、市民や貿易商人から50万円の寄付金が集められました。大正2年(1913年)には横浜初の公開建築コンペが実施され、東京市技師・福田重義の案が一等に選ばれました。旧町会所の時計台のイメージを継承した原案をもとに、横浜市技師・山田七五郎を中心とするスタッフが実施設計を行い、清水組(現・清水建設)が施工を担当。大正6年(1917年)6月30日に竣工し、翌7月1日に「開港記念横浜会館」として華々しく開館しました。

重要文化財に指定された理由

横浜市開港記念会館は、平成元年(1989年)9月2日に国の重要文化財に指定されました。その価値は多岐にわたります。

建築様式は、赤煉瓦に白い花崗岩を縞模様に配した「辰野式フリークラシック」と呼ばれるスタイルを採用しています。東京駅を設計した建築家・辰野金吾が確立したこの様式の到達点ともいえる作品であり、通りに面した3つの隅部に時計塔(南東隅)、八角ドーム(南西隅)、角ドーム(北西隅)を配した構成は、赤煉瓦建築における意匠の最高水準を示しています。

また、石材装飾にはウィーン・セセッション(分離派)様式の反映が見られ、明治期の赤煉瓦建築の延長線上にありながら、大正期独自の造形美を兼ね備えている点も高く評価されています。

さらに、大正12年(1923年)の関東大震災で屋根と内部を焼失した後、煉瓦造の建物に鉄筋コンクリートによる構造補強を施した日本における初期の事例として、建築技術史上の意義も認められています。復旧された内部の意匠も建物全体と調和しており、その文化的価値を一層高めています。

建築の見どころ

時計塔 —「ジャック」

高さ約36メートルの時計塔は、鉄骨煉瓦造による大正期の煉瓦構造技術の粋を集めた傑作です。四面に時計を備え、かつての町会所の時計台と同様に横浜の街に時を告げ続けています。「ジャック」という愛称は、昭和10年代(1930年代)に横浜港を訪れた外国人船員たちがトランプのカードになぞらえて名付けたものと伝えられています。

ステンドグラス

2階広間のステンドグラスは、日本のステンドグラスの歴史においても極めて価値の高い作品とされています。中央の窓には横浜市の市章「ハマ菱」を抱く鳳凰が描かれ、左側の「呉越同舟」、右側の「箱根越え」はいずれも開港当時の交通の様子を表現しています。また、貴賓階段室のステンドグラスにはペリー提督の旗艦「ポーハタン号」が星条旗とともに描かれており、横浜開港の原点を象徴する作品となっています。

講堂

メインの講堂は当初1,200人を収容する大空間として設計され、開館以来、数々の講演会、文化行事、市民集会の会場として活用されてきました。アーチ状の梁が美しい天井と格調高い空間は、現在も市民の集いの場として大切にされています。

外観の意匠

赤煉瓦と白い花崗岩の縞模様が織りなすリズミカルなファサード、各所に配されたドーマー窓や尖塔、精緻な石材装飾など、外観の隅々に大正期の建築家たちの技と美意識が凝縮されています。平成元年(1989年)に復元された天然スレートの屋根と銅板葺きのドーム群は、創建当時の華やかな姿を現代に蘇らせました。

見学案内

横浜市開港記念会館は無料で見学できます。通常の見学時間内であれば、2階のステンドグラス、歴史パネル展示、建築の細部などを自由にご覧いただけます。毎月15日(休日の場合は翌平日)には特別公開が実施され、講堂など通常は見学できない区画も開放されます。ボランティアガイドによる館内案内も行われており、約15分間で建物の歴史や見どころをわかりやすく説明していただけます。

なお、建物は現在も中区の公会堂として会議、講演会、各種催事に利用されているため、一部の部屋は行事の開催中に見学できない場合があります。公開エリアでの写真撮影は基本的に可能です。

周辺の観光スポット

横浜市開港記念会館は、横浜の歴史遺産が集中する関内・日本大通りエリアの中心に位置しており、周辺散策の起点として最適です。

  • 神奈川県庁本庁舎(「キングの塔」) — 日本大通りを挟んで向かい側に立つ昭和3年(1928年)竣工の庁舎。五重塔を模した塔は「帝冠様式」の先駆けとして知られています。
  • 横浜税関本関庁舎(「クイーンの塔」) — 昭和9年(1934年)に完成したイスラム風ドームが美しい建物。館内には無料の税関資料室があり、横浜港の貿易の歴史を学べます。
  • 横浜開港資料館 — 日米和親条約が締結された場所に建つ資料館で、横浜の開港と近代化に関する豊富な資料を展示しています。
  • 日本大通り — 日本初の西洋式街路で、イチョウ並木と歴史的建造物が連なる美しい散歩道です。
  • 大さん橋(横浜港大さん橋国際客船ターミナル) — 横浜三塔を同時に眺められる絶好のビュースポット。「三塔を一度に見ると願いが叶う」という伝説でも知られています。
  • 横浜赤レンガ倉庫 — 明治末期から大正初期に建設された倉庫群を再生した商業施設で、ショッピングやグルメ、イベントを楽しめます。
  • 山下公園 — 横浜港を一望できる海沿いの公園。氷川丸が係留展示されており、港町横浜の雰囲気を満喫できます。

Q&A

Qなぜ「ジャックの塔」と呼ばれているのですか?
A昭和10年代(1930年代)に横浜港を訪れた外国人船員たちが、港から見える3つの塔をトランプのカードになぞらえて呼んだことが始まりとされています。開港記念会館の時計塔が「ジャック」、神奈川県庁本庁舎が「キング」、横浜税関が「クイーン」と名付けられ、合わせて「横浜三塔」として親しまれるようになりました。
Q見学は無料ですか?
Aはい、入館は無料です。通常の見学時間(おおむね9:00~18:00、冬季は16:00まで)に、2階のステンドグラスや歴史展示などを自由にご覧いただけます。毎月15日には特別公開が行われ、講堂などもご見学いただけます。
Qアクセス方法を教えてください。
A最寄り駅はみなとみらい線「日本大通り駅」で、1番出口より徒歩約1分です。JR京浜東北・根岸線「関内駅」南口、または横浜市営地下鉄ブルーライン「関内駅」1番出口からは徒歩約10分です。なお、専用駐車場はありません。
Q関東大震災では被害を受けましたか?
A大正12年(1923年)の関東大震災により、屋根と内部が全焼し、時計塔と外壁のみが残りました。昭和2年(1927年)に復旧されましたが、財政上の理由からドームは省略され、内装も簡素化されました。創建当時のドームが復元されたのは平成元年(1989年)のことで、同年に国の重要文化財に指定されています。
Q「横浜三塔物語」とは何ですか?
Aキング(神奈川県庁)、クイーン(横浜税関)、ジャック(開港記念会館)の3つの塔を同時に見ることができるスポットを巡ると願いが叶うという都市伝説です。認定されているスポットは3か所あり、日本大通りの県庁正面付近、大さん橋、赤レンガ倉庫パークにそれぞれ目印のプレートが設置されています。

基本情報

名称 横浜市開港記念会館(よこはましかいこうきねんかいかん)
愛称 ジャックの塔
指定 国指定重要文化財(平成元年9月2日指定)
建築様式 辰野式フリークラシック
設計 福田重義(コンペ当選案)、山田七五郎ほか横浜市技師(実施設計)
施工 清水組(現・清水建設)
竣工 大正6年(1917年)6月30日
構造 煉瓦・鉄骨煉瓦及び鉄筋コンクリート造、地上2階・地下1階、塔屋付、スレート及び銅板葺
建築面積 1,536.93 m²
時計塔の高さ 約36メートル
所在地 〒231-0005 神奈川県横浜市中区本町一丁目6番地
所有 横浜市
開館時間 9:00~22:00(見学可能時間:9:00~18:00、冬季は16:00まで)
一般公開日 毎月15日(休日の場合は翌平日)
休館日 毎月第2水曜日(休日の場合は翌平日)、年末年始
入館料 無料
アクセス みなとみらい線「日本大通り駅」1番出口より徒歩約1分/JR「関内駅」南口より徒歩約10分/市営地下鉄「関内駅」1番出口より徒歩約10分
電話番号 045-201-0708

参考文献

横浜市開港記念会館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/144288
会館の歴史 — 横浜市中区
https://www.city.yokohama.lg.jp/naka/madoguchi-shisetsu/riyoshisetsu/kaikokinenkaikan/history.html
横浜市開港記念会館 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/横浜市開港記念会館
横浜市開港記念会館 公式サイト
https://www.kaikokinenkaikan.com/
横浜市開港記念会館 — NOVARE Archives 清水建設歴史資料館
https://www.shimzarchives.jp/heritage/heritage_964/
横浜市開港記念会館(旧開港記念横浜会館) — 三幸エステート
https://www.sanko-e.co.jp/read/memory/yokohamashi-kaiko-kinenkan/

最終更新日: 2026.03.27