土佐節の製造技術 ― 高知が磨いた枯れ節の系譜

仕上がった土佐節は、包丁では歯が立たないほど硬い。専用の削り器で薄く削って、ようやく出汁の素材になる。この硬さは、数か月に及ぶ工程の到達点である。カツオを煮て、小骨を抜き、薪の煙で焙り、良性のカビを付けては天日で干す。その繰り返しの果てに、枯れ節と呼ばれる硬質の鰹節ができあがる。土佐、すなわち現在の高知県で確立されたこの製法が、土佐節の製造技術である。

鰹節そのものの歴史は古い。表皮の残る荒節や、これを削った裸節を経て、近世後期の土佐でカビ付けによる鰹節が成立したとされる。カビ付けは鰹節の腐敗を防ぎ、生臭みを抑えて品質を高めるとともに、大坂や江戸といった遠隔地への流通を可能にした。土佐節の名は、こうして広く知られるようになった。

なぜ登録無形民俗文化財となったのか

土佐節の製造技術は、令和3年(2021年)9月30日、登録無形民俗文化財として文化財登録原簿に登録された。同じ日に登録されたのは、香川県の讃岐の醤油醸造技術ただ一件。両者は、この区分の第一号にあたる。

登録無形民俗文化財は、当時できたばかりの枠組みである。令和3年6月に施行された改正文化財保護法が新設したもので、重要無形民俗文化財の指定よりも規制の軽い「登録」の仕組みを、無形の民俗文化財にも広げた。指定には至らないが記録や継承の支援が望まれる文化財を、価値が失われる前に登録原簿へ記し、保存と活用を後押しする制度である。

登録が評価したのは、土佐節が果たした役割である。我が国の鰹節製造は土佐で改良され、その技術は各地の鰹節づくりに大きな影響を与えた。とりわけカビ付けは、節の水分を放出させ、良性のカビによって腐敗を防ぐ保存の技術であり、鰹節の品質を高めると同時に全国的な流通を支えた。魚さばきやカビ付けには今も熟練を要する技が継承されており、我が国における海産物加工の技術がどのように移り変わってきたかを考えるうえで注目される。保護団体は特定されておらず、登録は高知県に受け継がれてきた製法そのものを対象としている。

伝承によれば、紀州の漁民がカツオ漁と初期の製法を土佐の浦にもたらし、のちに改良された土佐節が安房や伊豆へと伝えられたという。土佐藩は鰹節を交易品とするため、製法を他国に漏らさぬよう厳しく守ったとも伝わる。人物名や年代は資料によって異同があるが、土佐で磨かれた技術が沿岸各地へ広がり、伊豆節や焼津節の母体となった流れは、おおむね一致している。

製造の工程と見どころ

工程は、豪快な所作から始まる。「土佐切り」と呼ばれる吊るし切りで、カツオを手際よく節におろす。続いて釜で煮る「煮熟」、小骨を一本ずつ取り除く「バラ抜き」と進む。

次が煙の工程である。焚納屋でカツオを薪の煙にあて、「焙乾」を重ねて水分を抜いていく。ここで節は黒く締まり、樹脂のような艶を帯びるが、まだ仕上がりではない。

この製法を特徴づけるのがカビ付けである。良性のカビ菌を吹き付けて生やし、「日乾」と呼ぶ天日干しにかける。カビ付けと日乾を交互に繰り返すたびに、節の芯から水分が抜け、旨みが深まっていく。完成までには数か月を要する。最高級の本枯節では、カビ付けと天日干しを四度ほど重ね、半年近くをかけるという。生のカツオおよそ10キロが、仕上がりでは2キロを切る。

急ぐことのできない、根気のいる仕事である。

土佐市・宇佐と高知のカツオ文化

改良土佐節の歴史的な中心地は、高知県土佐市の宇佐町である。太平洋に面したこの漁師町では古くからカツオが水揚げされ、今も昔ながらの製法で鰹節をつくる作り手がわずかに残る。昭和30年代以降、カツオの漁獲が減ると加工業者の多くは廃業や移転を余儀なくされ、本節を手がける工房は数軒にまで減った。それでも宇佐の本枯節は評価が高く、全国の品評会で農林水産大臣賞を受けた作り手もいる。

高知では、カツオは地域の誇りである。藁の炎で表面を強く焼く「カツオのたたき」は、塩やゆず・すだちの酸味で供され、高知市内や沿岸の町で広く味わえる。土佐節そのものを見学できる施設ではないが、削りたての鰹節や、それでひいた出汁を口にすれば、この技術が何を生み出してきたかが分かる。

高知市内の市場や専門店では、本枯節や削り節が手に入る。台所で削り器を引くひと手間は、土佐の作り手が数か月かけた仕事の、最後の一工程でもある。

Q&A

Q製造の様子を見学できますか。
A製造は観光施設ではなく小規模な工房で行われ、作業にも季節があるため、一般の見学は基本的に受け付けていません。土佐節に触れるなら、高知で本枯節や削り節を求めるか、地元の料理店でその出汁を味わうのが現実的です。
Q市販の花かつおと土佐節は何が違うのですか。
A日常使いの削り節の多くは、燻して乾かすだけでカビ付けをしない荒節です。土佐節はカビ付けと天日干しを繰り返して仕上げる枯れ節で、より硬く乾き、まろやかな風味と高い保存性を備えます。
Qなぜカビを付けるのですか。安全なのでしょうか。
A付けるのは意図的に用いる良性のカビで、腐敗の兆候ではありません。節の水分を抜き、悪いカビの発生を抑える働きがあり、これによって長期保存に耐える硬い節になります。数か月かけてこの工程を重ねることが、本枯節の深い風味につながります。
Q登録無形民俗文化財とは、重要無形民俗文化財とどう違うのですか。
A登録無形民俗文化財は、令和3年の文化財保護法改正で新設された、指定より規制の軽い区分です。厳しい制約を課すのではなく、生きた民俗技術を記録し継承を後押しする仕組みで、土佐節はこの区分の第一号二件のうちの一つです。
Qどこで買えますか。味わえますか。
A高知市内の市場や専門店で本枯節や削り節が手に入り、土佐市宇佐町が歴史的な産地です。高知のカツオ文化をより広く味わうなら、県内各地で供される「カツオのたたき」もおすすめです。

基本情報

名称土佐節の製造技術(とさぶしのせいぞうぎじゅつ)
指定区分登録無形民俗文化財
分類民俗技術
登録年月日令和3年(2021年)9月30日
特記讃岐の醤油醸造技術とともに、この区分の第一号登録
所在地高知県(歴史的な中心地は土佐市宇佐町)
保護団体特定せず
公開状況技術そのものの一般公開はなし。製品は高知県内で販売

参考文献

文化遺産オンライン(NII):土佐節の製造技術
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/547208
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/322/00001019
文化庁:登録無形民俗文化財の第一号登録について
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/93421601.html
文化庁:民俗文化財
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/minzoku/

最終更新日: 2026.06.18