御所のために建てられたポンプ室

旧御所水道ポンプ室は、京都市山科区の琵琶湖疏水沿いに建つ明治45年(1912年)竣工の煉瓦造施設で、令和7年(2025年)8月27日、琵琶湖疏水施設の構成物件として国の重要文化財に指定された。

指定の経緯は明記しておきたい。刊行物やウェブ上の情報にはまだ食い違いがあるためである。本件は令和2年(2020年)4月3日にいったん登録有形文化財となった。その後、令和7年8月27日の官報告示により琵琶湖疏水施設24か所が一件として指定され、うち5か所が国宝、残りが重要文化財となった。本件は竣工当時の名称「旧御所水道大日山水源地喞筒所」として重要文化財の構成物件に含まれている。文化財保護法上、登録有形文化財が重要文化財に指定されると登録は抹消されるため、従前の登録区分はすでに効力を持たない。

建設の目的はきわめて具体的である。京都御所には高圧の防火用水がなかった。鴨川と疏水分線から引く従来の御所用水は、水量にも水質にも問題を抱えていた。そこで宮内省は専用の系統を築く。疏水の蹴上船溜付近から取水し、大日山に設けた貯水池まで汲み上げ、その高低差を使って御所へ高圧送水する。この建物は、その汲み上げを担うポンプを据えた施設である。

明治45年に取水を始め、平成4年(1992年)に停止した。八十年にわたり、火災に備えて待機し続けたことになる。

宮廷建築家が設計した機械小屋

設計は宮内省内匠寮。担当は片山東熊と山本直三郎と伝わる。この建物の姿を決めたのは片山である。

片山は工部大学校造家学科の第一期生で、宮内省において皇室関係の建築を手がけた中心人物であった。京都帝室博物館、現在の京都国立博物館は彼の作である。東京の赤坂離宮、現在の迎賓館赤坂離宮も同じく彼の設計で、日本で試みられたネオ・バロック建築としては最も本格的なものにあたる。その建築家をポンプ室に充てたという事実は、御所に付属する設備を宮内省がどう位置づけていたかを示している。

できあがったのは、疏水に向かって東面する煉瓦造平屋建。屋根はスレート葺で一部を銅板葺とし、建築面積は182平方メートル、地下にろ過施設を備える。文化庁の解説文は構成を的確に拾う。寄棟造の屋根の各所にドーマー窓を配し、煉瓦造の壁の隅は石積みとする。正面にはポーティコを付し、その両側に階段を置く。上部をアーチとした縦長窓が垂直方向の調子をつくり、円柱付きバルコニーが正面を締める。

隅部における石と煉瓦の対比は、多くの人が最初に気づく細部だろう。煉瓦だけで済む部分にわざわざ石を積んでいる。壁に輪郭を与えるためであり、それは宮廷建築家が壁に輪郭を与えるやり方である。

水上から見る

内部は非公開で、常時の拝観制度はない。平成28年(2016年)に実施された耐震診断では、地震により倒壊する危険性が高く耐震補強の検討を要すると判定されており、この結果が京都市の対応を方向づけてきた。平成31年(2019年)4月には京都市上下水道局が保存・活用基本構想をまとめている。

確実に見られるのは、びわ湖疏水船からである。大津と蹴上を結ぶ第1疏水の観光船で、運航は春と秋に限られ、一便あたりの定員もごく少ない。ポンプ室は蹴上の乗下船場のすぐ脇に建つため、乗り降りの際に間近で見ることができ、専門ガイドの案内でも触れられる。予約は各シーズンのかなり前に受付が始まり、短期間で埋まる。

乗船が日程に合わない場合は、近くの大神宮橋から陸上越しに眺められる。費用はかからず、時間の制約もない。蹴上一帯にはインクライン、ねじりまんぽ、蹴上発電所、蹴上浄水場第1高区配水池が集まり、その多くが令和7年の同じ告示で指定を受けた。徒歩1時間ほどで疏水の土木遺産をひととおり見て回れる。

内部については、京都モダン建築祭のパスポート公開会場となるなど、特別公開の機会が設けられたことがある。いずれも個別に告知されるもので、恒常的な制度ではない。

Q&A

Q旧御所水道ポンプ室は登録有形文化財ですか、重要文化財ですか
A現在は重要文化財です。令和2年(2020年)4月3日に登録有形文化財となりましたが、令和7年(2025年)8月27日に琵琶湖疏水施設の構成物件として重要文化財に指定され、これに伴い従前の登録は抹消されています。
Q旧御所水道ポンプ室の内部は見学できますか
A内部は非公開で、常時の拝観制度はありません。京都モダン建築祭などの機会に特別公開が行われたことがありますが、都度の告知によります。
Q旧御所水道ポンプ室を見るにはどうすればよいですか
Aびわ湖疏水船が確実です。蹴上の乗下船場のすぐ脇に建つため乗降時に間近で見られます。運航は春秋のみで定員も限られます。陸上からは近くの大神宮橋から無料で眺められます。
Q旧御所水道ポンプ室の設計者は誰ですか
A宮内省内匠寮の設計で、片山東熊と山本直三郎が担当したと伝わります。片山は京都国立博物館や迎賓館赤坂離宮を手がけた宮廷建築家です。
Q旧御所水道ポンプ室は何のための施設でしたか
A第1疏水から大日山の貯水池へ水を汲み上げ、その高低差を使って京都御所へ防火用水を高圧送水するための施設です。明治45年に取水を開始し、平成4年に停止しました。

基本情報

名称旧御所水道ポンプ室(指定名称は琵琶湖疏水施設のうち「旧御所水道大日山水源地喞筒所」)
所在地京都府京都市山科区日ノ岡夷谷町17-5他
指定区分重要文化財(建造物) 琵琶湖疏水施設の構成物件/従前は登録有形文化財、指定に伴い登録抹消
指定年令和7年(2025年)8月27日指定告示(登録は令和2年4月3日)
員数1棟
寸法煉瓦造平屋建、スレート葺一部銅板葺、建築面積182平方メートル、地下ろ過施設付
所有者京都市
公開状況内部非公開(びわ湖疏水船乗下船場および大神宮橋から外観見学可)

参考文献

京都市上下水道局 琵琶湖疏水施設 国宝・重要文化財への正式指定について
https://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000344878.html
日本遺産 琵琶湖疏水 旧御所水道ポンプ室
https://biwakososui.city.kyoto.lg.jp/place/detail/21
日本遺産 琵琶湖疏水 琵琶湖疏水関連施設が国宝・重要文化財へ
https://biwakososui.city.kyoto.lg.jp/episode/detail/51
滋賀県 国宝・重要文化財(建造物)の新指定について
https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/koho/e-shinbun/oshirase/345909.html
文化庁 日本遺産ポータルサイト
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/5142/

最終更新日: 2026.08.08