敷地の最奥に建つ28平方メートル

旧寺江家住宅離れは、京都市中京区新町通六角下る六角町にある昭和10年(1935年)建築の木造2階建の附属建物で、令和3年(2021年)6月24日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。建築面積は28平方メートル、通りに面する店舗及び主屋の約5分の1にあたる。

建つ位置は敷地東奥、主屋の後方である。棟は南北に通り、屋根は切妻造の桟瓦葺。西面には庇を掛け、その下の壁面を日射と雨から守る。壁は真壁造で、柱を塗り込めず現したまま仕上げる。開口部にはガラス戸が建て込まれている。

小さく、簡素で、表側の意匠とは比べるべくもない。その簡素さこそが、この建物の性格を示している。

休むための離れではなかった

離れという語は、普通はもう少し違うものを指す。日常の動線から少し離して建てる別棟、隠居の間、客用の座敷、庭を渡って行く茶室といったあたりである。ここでの離れは、位置を示す便宜的な呼称にとどまる。

一階は土間の玄関と板間の商品置場からなる。二階は二室を配し、従業員の休憩所などにあてられた。文化庁の解説は理由を端的に述べている。寺江家が生業としていたのは染色業であり、この建物はその店舗の業態を伝える附属建物である、と。

京都の染織は分業で成り立っていた。白生地が一枚の着物になるまでには、市中に散在する職方の手をいくつも渡り、工程ごとに移動を繰り返す。新町通や室町通に並ぶ問屋・商家は、その流通の結節点に位置していた。したがって商家の敷地には三種の場所が要る。客を迎える表、荷を乾いた状態で整理しておく置場、そして職人や店員が腰を下ろす場所である。

離れが担ったのは後の二つだった。主屋と同日、登録番号26-0633として同じ基準のもとに登録されたことは、この敷地をひとつの働く単位として捉えたことを意味する。京都には見事な表構えが数多く残る。一方、装飾のためではなく必要のために建てられ、必要が続く限り使われてきた裏方の建物が、原形をとどめて登録に至る例は多くない。

見学の可否と、周辺の歩き方

先に率直に記しておくと、直接目にできる機会はごく限られる。離れは私有地の奥、主屋の背後に位置するため、新町通からその姿は見えない。京都モダン建築祭が令和4年(2022年)に当住宅を公開した際も、公開範囲は主屋と通り庭であり、離れは対象に含まれていなかった。2024年、2025年にも参加しているが、公開箇所は所有者の判断により毎年設定されるため、当年のプログラムで確認する必要がある。

現状で最も確実に姿を確認できるのは、文化庁の国指定文化財等データベースが掲載する写真である。西から見た2階外観が撮られており、切妻の妻面、庇、ガラス戸の並びが判別できる。公開日に敷地内へ入る機会があれば、主屋背後の屋外作業空間と離れの取り合いに目を向けたい。作業の場と置場の関係が、この建物の主題そのものである。

周辺は歩く価値がある。六角町の町名は六角通に由来し、その六角通は東方にある頂法寺の六角堂に因む。同じ新町通を北へ数町進めば、大正15年(1926年)建築の八竹庵(旧川崎家住宅)が有料で公開されており、同じ町並みの、ほぼ同世代の内部を見ることができる。7月下旬には、この町が所有する北観音山が通りに建つ。

交通は阪急京都線烏丸駅、地下鉄烏丸線四条駅からいずれも徒歩約8分。市バス四条西洞院、四条烏丸の各停留所がより近い。

Q&A

Q旧寺江家住宅離れとは、どのような建物ですか。
A京都市中京区六角町の商家敷地の最奥、主屋の後方に建つ昭和10年(1935年)建築の木造2階建で、建築面積は28平方メートルです。切妻造桟瓦葺、真壁造の壁にガラス戸を建て込み、令和3年(2021年)6月24日に登録有形文化財となりました。
Q旧寺江家住宅離れを見学することはできますか。
A通りからは見えません。私有地の奥にあり、2022年の京都モダン建築祭で当住宅が公開された際も、対象は主屋と通り庭のみでした。公開箇所は所有者の判断で毎年決まるため、秋の建築祭の公式プログラムを確認してください。
Q旧寺江家住宅離れは、なぜ商品置場なのに「離れ」と呼ばれるのですか。
A離れは本来、隠居部屋や客座敷、茶室など住居用の別棟を指しますが、ここでは主屋から離れた位置を示す呼称として用いられています。実際の用途は、一階が土間の玄関と板間の商品置場、二階の二室が従業員休憩所などでした。
Q旧寺江家住宅の寺江家は、何を生業としていたのですか。
A染色業です。文化庁は離れの評価の中でこの点に触れ、染色業の店舗の業態を伝える附属建物と位置づけています。敷地は新町通に面し、京都の染織・呉服流通の中心域にあたります。
Q旧寺江家住宅離れが登録有形文化財になったことには、どのような意味がありますか。
A登録有形文化財は届出制を基本とする緩やかな保護制度で、使い続けることを前提としています。表構えだけでなく裏方の附属建物まで主屋と同日に登録されたことで、敷地全体がひとつの働く単位として評価されました。

基本情報

名称旧寺江家住宅離れ(きゅうてらえけじゅうたくはなれ)
所在地京都府京都市中京区新町通六角下る六角町355・354-1合併
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 26-0633
指定年令和3年(2021年)6月24日 登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積28平方メートル
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の公表なし)
公開状況非公開。通りからは視認不可。2022年の京都モダン建築祭の公開範囲にも含まれず

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧寺江家住宅離れ」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013827
文化遺産オンライン「旧寺江家住宅離れ」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/597799
京都モダン建築祭2022「旧寺江家住宅店舗及び主屋」
https://2022.kenchikusai.jp/event/architecture_detail.php?id=912
文化庁「有形文化財(建造物)」登録制度の解説
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/
京都モダン建築祭 公式サイト
https://kyoto.kenchikusai.jp/

最終更新日: 2026.08.06