表屋造の表屋を、洋館に置き換える

旧寺江家住宅店舗及び主屋は、京都市中京区新町通六角下る六角町にある昭和10年(1935年)建築の木造2階建住宅で、令和3年(2021年)6月24日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。新町通に西面し、瓦葺、建築面積は153平方メートルである。

京都の商家が長く用いてきた平面形式に表屋造がある。通りに面した表屋に店を構え、その奥に独立した居住棟を置き、両者を玄関棟でつなぐ。間口が狭く奥行の深い京都の敷地に、商いと暮らしを分けて収める解法だった。寺江家の建物もこの構成をそのまま踏襲している。

踏襲していないのは、表屋の外観である。格子や虫籠窓の代わりに現れるのは洋館で、装飾を削ぎ落とした立面に水平線を強く効かせ、大きなガラス窓を並べる。内部には間仕切がなく、上下階ともそれぞれ一室のみ。その背後で屋根は瓦に戻る。通りの向かい側に立って見上げると、ひとつの敷地に二つの時代が前後に積まれている様子が読み取れる。

登録の根拠と、中廊下という指標

登録番号は26-0632、第99回登録。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。文化庁による解説は短く、昭和初期の京都における近代住宅の潮流を示すもの、と評価している。

その評価の具体は、後方の居住部にある。一階南寄りには土間が通り、京町家の通り庭の系譜がそのまま生きている。ところが北側は違う。中廊下を軸として、南北に居室が配される中廊下式の平面が採られている。

この中廊下が、平面上の分岐点にあたる。従来の町家では、居室は数珠つなぎに連続し、奥へ行くには手前の部屋を通り抜けるほかなかった。個室の独立性は襖の開け閉てに委ねられていたわけである。中廊下式は、大正から昭和初期にかけての住宅改良運動を通じて西洋の平面計画から取り込まれたもので、各室に独立した出入口を与えた。土間を残したままの京都の商家に、この形式が同居している点に登録の理由がある。

設計・施工については、京都モダン建築祭が公開している建築情報が橋本工務店の橋本嘉三郎の名を挙げている。文化庁データベースの「その他参考となるべき事項」は空欄であり、この帰属は建築祭側の調査に拠るものとして扱うのが妥当だろう。

見学の実際と、七月の新町通

個人の住宅であり、常時公開はされていない。ただし外観は公道に接しているため、いつでも自由に眺められる。通りを挟んだ反対側の歩道に立てば、洋館部と後方の瓦屋根の取り合いまで一望できる。街路からの外観撮影に制限はない。

内部は、京都モダン建築祭のパスポート公開の対象となったことがある。文化庁の京都移転記念事業として令和4年(2022年)に始まったこの催しは、毎年秋の限られた日程で市内各所の近代建築を一斉に開く。寺江家住宅は2022年、2024年、2025年の各回に参加し、公開範囲は主屋と通り庭であった。2022年には裏千家茶道教室の社中による茶の湯の稽古が座敷で行われ、各日先着20名に呈茶があった。参加建築は年ごとに入れ替わるため、訪問を計画する際は当年の公式プログラムを確認したい。

六角町にはもうひとつの顔がある。この町が所有する山鉾が北観音山で、7月19日早朝から新町通の建物の前で組み立てが始まる。20日午後に曳初、24日には後祭の巡行で先頭近くを進む。その数日間、寺江家の洋館が向き合うのは、車の走る道路ではなく、真松を立てた曳山である。

交通は阪急京都線烏丸駅、地下鉄烏丸線四条駅からいずれも徒歩約8分。市バス四条西洞院、四条烏丸の各停留所からはさらに近い。同じ敷地の奥には、同日に登録された離れが建つ。

Q&A

Q旧寺江家住宅店舗及び主屋はどこにありますか。内部を見学できますか。
A京都市中京区新町通六角下る六角町にあり、阪急烏丸駅・地下鉄四条駅から徒歩約8分です。個人住宅のため通常は非公開ですが、京都モダン建築祭のパスポート公開の対象となった年があり、2022年・2024年・2025年に主屋と通り庭が公開されました。
Q旧寺江家住宅店舗及び主屋はいつ、誰によって建てられたのですか。
A昭和10年(1935年)の建築です。設計・施工は橋本工務店の橋本嘉三郎とされますが、これは京都モダン建築祭が公開する建築情報に基づくもので、文化庁の国指定文化財等データベースには設計者の記載がありません。
Q旧寺江家住宅店舗及び主屋の表屋造とは、どのような形式ですか。
A通りに面した表屋に店舗を置き、その奥に独立した居住棟を建て、玄関棟でつなぐ京都の商家の平面形式です。寺江家住宅はこの構成を保ちながら、表屋部分を水平線を強調した洋館に置き換えており、その内部は上下階とも一室です。
Q旧寺江家住宅店舗及び主屋の登録有形文化財とは、重要文化財とどう違いますか。
A登録有形文化財は平成8年(1996年)に設けられた制度で、築50年以上の建造物を対象とし、届出制を基本とする緩やかな保護を行います。許可制で現状変更が厳しく制限される重要文化財と異なり、使い続けながら守ることを前提とした仕組みです。
Q旧寺江家住宅店舗及び主屋の周辺には、ほかに見どころがありますか。
A新町通沿いには登録有形文化財を含む商家建築が点在します。北へ数町の八竹庵(旧川崎家住宅)は大正15年(1926年)建築の京町家で、有料で一般公開されています。7月には北観音山をはじめ後祭の山鉾が新町通に建ち並びます。

基本情報

名称旧寺江家住宅店舗及び主屋(きゅうてらえけじゅうたくてんぽおよびおもや)
所在地京都府京都市中京区新町通六角下る六角町355・354-1合併
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 26-0632
指定年令和3年(2021年)6月24日 登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積153平方メートル
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の公表なし)
公開状況通常非公開。外観は公道から見学可。2022年・2024年・2025年の京都モダン建築祭で内部公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧寺江家住宅店舗及び主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013826
文化遺産オンライン「旧寺江家住宅店舗及び主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/542568
京都モダン建築祭2022「旧寺江家住宅店舗及び主屋」
https://2022.kenchikusai.jp/event/architecture_detail.php?id=912
京都モダン建築祭 公式サイト
https://kyoto.kenchikusai.jp/
六角会(北観音山保存会)
https://rokkakukai.org/

最終更新日: 2026.08.06