銀座ライオンビル:日本のビール文化を今に伝える生きた記念碑
東京・銀座の目抜き通り「中央通り」に面した銀座七丁目の角地に、ひときわ風格を漂わせる建物が佇んでいます。1934年(昭和9年)に竣工した「銀座ライオンビル」は、1階に現存する日本最古のビヤホールを擁し、90年以上にわたり銀座の歴史とともに歩んできた貴重な近代建築です。2022年(令和4年)2月17日には国の登録有形文化財(建造物)に登録され、その建築的・文化的価値が公式に認められました。
歴史的背景:大日本麦酒の本社ビルからビヤホールの聖地へ
銀座ライオンビルは、当時日本最大のビール会社であった大日本麦酒株式会社の本社ビルとして建設されました。設計を手がけたのは、美術建築家として知られる菅原栄蔵(すがわらえいぞう、1892〜1967年)です。菅原はフランク・ロイド・ライトの影響を受けた建築家であり、先代の新橋演舞場などの設計でも知られています。施工は竹中工務店が担当し、1934年4月8日に竣工しました。
1階のビヤホールは同年4月26日に営業を開始。大日本麦酒の社長であった馬越恭平の「天下一の建物に。後世まで残る日本を代表するビヤホールに」という熱い想いが込められた空間として誕生しました。当時としては破格の贅を尽くした内装は、建築家をはじめ多くの人々から絶大な賞賛を集めました。
第二次世界大戦中、東京大空襲により多くのビヤホールが焼失または解体されましたが、当ビルは奇跡的に戦火を免れました。終戦後の1945年9月11日からは進駐軍に接収され、連合国軍専用のビヤホールとして使用されました。1952年1月に接収が解除されて一般営業が再開し、以来今日まで途切れることなく営業を続けています。
文化財指定の理由:なぜ国の登録有形文化財に選ばれたのか
文化審議会は銀座ライオンビルを「我国ビヤホールの一大傑作」と評し、文部科学大臣に登録を答申しました。登録に至った主な理由は以下の通りです。
- 大正8年(1919年)公布の市街地建築物法による「百尺規制」(約30.3メートル)に基づく近代建築物が、銀座の目抜き通りに現存していること自体が極めて希少であること。
- 外観の1階部分やパラペット(屋上の立ち上がり部分)にフランク・ロイド・ライト調の意匠が残されていること。
- 1階ビヤホールの内装が創建当時からほぼそのまま保存されており、タイル張りの壁面や梁型の装飾、そして圧巻のガラスモザイク壁画が一体となった空間は、再現不可能とされる芸術的価値を有すること。
- 6階の銀座クラシックホールも竣工当時の雰囲気を残していること。
- 80年以上にわたり銀座の歴史を伝える建造物として、世代を超えて多くの人々に愛され続けてきたこと。
建築の見どころ:「豊穣と収穫」の世界に浸る
1階のビヤホールに一歩足を踏み入れると、約6メートルの高い天井とアーチを描く梁が作り出す荘厳な空間が広がります。「まるで教会のようだ」と評されるこの空間は、菅原栄蔵が「豊穣と収穫」をテーマに細部まで設計したものです。
ガラスモザイク壁画
ビヤホールの象徴ともいえるのが、店内正面奥に飾られた大型ガラスモザイク壁画です。縦2.75メートル、横5.75メートルの壮大な作品は、菅原栄蔵が原案を描き、ガラス工芸家の大塚喜蔵が制作を担当しました。完成までに3年を要したとされるこの壁画には、古代ギリシャ風の衣装をまとった女性たちが大麦を収穫する様子が、約250色の国産ガラスを用いて描かれています。アカンサス(地中海大アザミ)の花やたわわに実る葡萄も配され、遠景にはかつて恵比寿にあったビール工場の煙突も見えます。すべてのガラスが国産で制作された、日本のガラスモザイク芸術の先駆的作品です。店内には大小合わせて12枚のガラスモザイクが配置されており、それぞれに異なる植物や収穫のモチーフが描かれ、よく見ると花瓶から伸びる花の上に昆虫が隠れているという遊び心も込められています。
柱・壁面・照明
店内の太い柱には、ビールの原料である大麦の穂を表現した濃緑色のタイルが施されています。これらのタイルは、著名な陶芸家・小森忍の手によるものです。壁面は「豊かな実りを育む大地」をイメージした赤褐色のレンガタイルで覆われ、温かみのある雰囲気を醸し出しています。天井から吊るされた照明は、葡萄の房をモチーフにしたシャンデリアと、ビールの泡を表した水玉模様のペンダントライトの2種類があり、それぞれが幻想的な光を放っています。
外観と上層階
建物の外観は1階部分やパラペットにアールデコやプレーリースタイルの影響が見られます。昭和14年(1939年)と昭和54年(1979年)に大規模な改修・改造が行われ、平成15年(2003年)には耐震壁工事も実施されましたが、1階ビヤホールと6階ホールの内装は創建当時の姿をほぼそのまま残しています。6階の「銀座クラシックホール」は、竣工当時は会議室として使用され、現在はパーティー会場として利用されています。
現在のビヤホールを楽しむ
銀座ライオンビルは現在、サッポロホールディングスのグループ企業である株式会社サッポロライオンが運営しています。1階のビヤホールライオン銀座七丁目店では、サッポロ生ビール黒ラベルをはじめとする各種ドラフトビールのほか、ワイン、日本酒、カクテルなども提供しています。フードメニューには、20年以上の歴史を持つ名物「銀座ローストビーフ」、ソーセージ、からあげなどのビヤホール定番料理が揃います。
熟練のバーテンダーによる「一度注ぎ」の技術も見どころの一つです。生ビールを一気に注ぎ切ることで自然な泡の冠が形成され、苦味を抑えたまろやかな味わいが楽しめます。ビル内には各階に異なるコンセプトのレストランが入っており、2024年4月には3階に「和食ビヤホール 枡々益(ますみ)」がオープンし、和の趣を取り入れた新しいビヤホール体験を提供しています。
アクセス・来訪情報
銀座ライオンビルは、銀座の中央通り沿い、銀座六丁目交差点のすぐ近くに位置しています。東京メトロ銀座駅(銀座線・丸ノ内線・日比谷線)から徒歩約3分、JR新橋駅銀座口から徒歩約7分と、アクセスに大変便利です。1階ビヤホールは予約不要で利用できますが、夕方以降や週末は混雑することがあります。英語メニューも用意されており、海外からのお客様にも対応しています。
周辺の見どころ
銀座ライオンビルは東京でも有数の繁華街の中心に位置しており、徒歩圏内に多彩な文化・商業施設が揃っています。
- GINZA SIX — 銀座ライオンビルのすぐ隣に位置する大型商業施設。240以上のブランドショップやアートインスタレーション、屋上庭園を楽しめます。
- SEIKO HOUSE GINZA(旧和光本館) — 1932年竣工の銀座を代表するランドマーク。時計塔で知られるアールデコ建築も登録有形文化財です。
- 歌舞伎座 — 日本の伝統芸能・歌舞伎の殿堂。晴海通りを東へ徒歩数分の場所にあり、一幕見席で気軽に歌舞伎を体験できます。
- 築地場外市場 — 新鮮な魚介類やストリートフードが楽しめる市場。銀座ライオンビルから徒歩約10分です。
- 浜離宮恩賜庭園 — 東京湾に面した江戸時代の大名庭園。徒歩約15分で、銀座の都会的なエネルギーとは対照的な静寂の空間を味わえます。
Q&A
- 銀座ライオンビルはなぜ歴史的に重要なのですか?
- 1934年竣工の銀座ライオンビルは、1階に現存する日本最古のビヤホールを擁しています。銀座の中央通り沿いに残る数少ない戦前の商業建築の一つであり、2022年に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。文化審議会からは「我国ビヤホールの一大傑作」と評価されています。
- 予約なしでも利用できますか?
- はい、1階のビヤホールライオン銀座七丁目店は予約なしで来店できます。ただし、特に夕方以降や週末は大変混雑するため、お待ちいただく場合があります。営業時間は毎日11時30分からです。
- 内装の見どころは何ですか?
- 最大の見どころは、店内正面奥にある約250色の国産ガラスで制作された大型ガラスモザイク壁画です。大麦を収穫する女性たちを古代ギリシャ風に描いたこの作品は、完成まで3年を要しました。また、大麦の穂をイメージした緑色タイルの柱、葡萄房型のシャンデリア、ビールの泡を模した水玉照明、そして壁面の12枚のモザイクパネルに隠された昆虫のモチーフもぜひ探してみてください。
- 戦争中にビルはどのようにして残ったのですか?
- 第二次世界大戦中の東京大空襲で多くのビヤホールが焼失しましたが、銀座ライオンビルは奇跡的に被害を免れました。終戦後は1945年9月から進駐軍に接収され、1952年1月に接収解除となり一般営業が再開されました。
- ビル内にはどのような店舗がありますか?
- 1階がビヤホールライオン銀座七丁目店、2階がビヤ&ワイングリル銀座ライオン、3階が和食ビヤホール枡々益、4階が和食・うま酒入母屋、6階が銀座クラシックホール(貸切パーティー会場)となっています。各階で異なるコンセプトの食事を楽しむことができます。
基本情報
| 名称 | 銀座ライオンビル(ぎんざらいおんびる) |
|---|---|
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物)/登録年月日:2022年(令和4年)2月17日 |
| 設計 | 菅原栄蔵(すがわらえいぞう、1892〜1967年) |
| 施工 | 竹中工務店 |
| 竣工 | 1934年(昭和9年) |
| 構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造 地下1階・地上6階建、塔屋付/建築面積512㎡ |
| 所在地 | 〒104-0061 東京都中央区銀座七丁目9番20号 |
| 所有者 | 株式会社サッポロライオン |
| 営業時間(1Fビヤホール) | 11:30〜22:00(金・土・祝前日は〜22:30) |
| 定休日 | 年中無休 |
| アクセス | 東京メトロ銀座駅より徒歩約3分/JR新橋駅銀座口より徒歩約7分 |
| 電話番号 | 03-3571-2590 |
| 公式サイト | https://www.ginzalion.jp/shop/brand/lionginza7/ |
参考文献
- 銀座ライオンビル — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/545051
- 銀座ライオンビル — 中央区ホームページ
- https://www.city.chuo.lg.jp/a0052/bunkakankou/rekishi/kunibunkazai/041021.html
- 現存する日本最古のビヤホール 銀座ライオンビル 登録有形文化財(建造物)に指定 — サッポロホールディングス プレスリリース
- https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001842.000012361.html
- 現存する日本最古のビアホール!「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」が90年間持ち続ける誇り — おなじみ
- https://onaji.me/entry/2024/12/11
- 徹底取材『銀座ライオンビル』現存する最古のビヤホールの全フロア — syupo.com
- https://syupo.com/archives/61482
- 銀座に今も残る、1930年代築ビヤホールの美 — 東洋経済オンライン
- https://toyokeizai.net/articles/-/227124?page=2
最終更新日: 2026.03.29