建築金物商が建てた昭和七年の自社ビル

堀商店は、東京都港区新橋二丁目の角地に建つ昭和7年(1932年)竣工の鉄筋コンクリート造建築で、平成10年(1998年)4月21日に登録有形文化財(建造物)となった。錠前と建築金物の製造販売を行う堀商店が、明治23年(1890年)から商いを続けてきた同じ角地に建てた自社ビルである。通称は堀ビル。

文化庁の国指定文化財等データベースは、構造を鉄筋コンクリート造4階建塔屋付、建築面積173平方メートル、員数1棟と記す。一方、2020年以降の保存活用に関わった事業者の資料は地下1階地上5階建としており、塔屋階と地下を算入するかどうかで数え方が分かれている。敷地は狭く、建物は外堀通りと赤レンガ通りの交差点角をほぼ埋めるかたちで建つ。

竣工年が意味を持つ。大正12年(1923年)の関東大震災はこの一帯を焼き払い、復興は木造の店舗を耐火構造へ置き換えていった。堀商店の再建はその9年後にあたる。間口の狭い敷地に4、5階を積み、タイルで覆う。震災後の都心に現れた中小規模オフィスビルの典型的な姿である。

造形の規範 ― 装飾とモダニズムの同居

登録番号は13-0009、第9回登録。告示は平成10年6月9日。東京都からの登録としてはごく初期に属する。適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」で、景観寄与を根拠とする登録より評価の水準が高い。

文化庁の解説文は、評価点をかなり具体的に挙げている。スクラッチタイル貼りの外壁。水平線を強調した窓廻り。西端に設けられた階段室と塔屋には、逆に垂直線を強調した窓が入る。そして軒廻りの装飾を「特異」と表現する。既存の様式図集に対応しない、この建物固有の処理という意味だろう。

二つの語法が同居している。窓の水平帯と装飾を抑えた量塊は、昭和初期に流入したモダニズムの語彙に属する。対して軒下の装飾帯、玄関廻りの造形、内部に残る金物類は、それ以前の装飾的な習慣に連なる。錠前とドアハンドルを売る会社にとって、建具金物は商品そのものでもあった。

設計者について、文化庁台帳に記載はない。二次資料は公保敏雄と実兄の小林正紹による共同設計、施工を安藤組とする。小林は大蔵省・内務省の営繕部門に在籍し、国会議事堂や神宮外苑聖徳記念絵画館の設計に関与した人物である。公保の名は資料により「敏雄」「敏夫」と表記が揺れ、この建物以外の作品もほとんど知られていない。評価の経緯は二段階で、平成元年(1989年)に東京都選定歴史的建造物、平成10年に国の登録有形文化財となった。

入れる文化財 ― 保存活用の現在

登録有形文化財のなかでは珍しく、中に入って腰を下ろせる建物である。堀商店が業務を移したのち、所有者は令和2年(2020年)に竹中工務店とマスターリース契約を結び、改修を経て2021年4月1日にシェアオフィス「GOOD OFFICE 新橋」として再開した。6フロアに約20室、ラウンジ、キッチン付き会議室、屋上テラスを備える。2025年7月11日には1階に直営カフェ「goodcoffee 新橋 by goodroom」が開業しており、コーヒー一杯で内部の空気に触れられる。

上階は会員専用で、通常は立ち入れない。東京建築祭のプログラムに組み込まれた際には1階ラウンジが特別公開され、保存活用を手がけた竹中工務店と運営者による上階案内が人数限定で実施された。内部をより深く見たい向きは、同祭の開催情報を追うのが現実的だ。

所在地は港区新橋2-5-2。東京メトロ銀座線新橋駅から徒歩1分、JR新橋駅烏森口から徒歩3分。外観は歩道から撮影できる。交差点の対角に立つと、階段室の垂直窓と塔屋、水平に走る窓廻りの対比が一度に視野に入る。かつて1階のショーウィンドウには自社の錠前や取っ手が並んでいたが、現在その展示はない。

Q&A

Q堀商店(堀ビル)の内部は見学できますか。
A1階は可能です。2025年7月に開業したカフェ「goodcoffee 新橋 by goodroom」が入っており、一般の利用ができます。上階はシェアオフィス「GOOD OFFICE 新橋」の会員専用で、東京建築祭などの特別公開時を除いて立ち入れません。
Q堀商店の所在地と最寄り駅はどこですか。
A東京都港区新橋2-5-2、外堀通りと赤レンガ通りの交差点角です。東京メトロ銀座線新橋駅から徒歩約1分、JR新橋駅烏森口から徒歩約3分です。
Q堀商店はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか。
A昭和7年(1932年)の竣工です。明治23年から同じ角地で営業していた堀商店が、関東大震災後に鉄筋コンクリート造へ建て替えました。平成元年(1989年)に東京都選定歴史的建造物、平成10年(1998年)4月21日に国の登録有形文化財となりました。
Q堀商店は4階建てですか、5階建てですか。
A資料により異なります。文化庁の台帳は「鉄筋コンクリート造4階建塔屋付、建築面積173平方メートル」と記載します。2020年の保存活用事業に関わった事業者の資料は地下1階地上5階建としており、塔屋階と地下階の数え方の違いによるものと考えられます。
Q堀商店の外観で注目すべき点はどこですか。
A三点あります。光の当たり方で表情が変わるスクラッチタイルの外壁。角を回り込んで水平に連続する窓廻りの帯。そして西端の階段室で、こちらは垂直線を強調した窓が入り、塔屋と軒廻りの装飾が上部を締めています。

基本情報

名称堀商店(ほりしょうてん)/通称 堀ビル
所在地東京都港区新橋2-5-2
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号13-0009 第9回登録 登録基準:造形の規範となっているもの
指定年平成10年(1998年)4月21日登録/同年6月9日告示。平成元年(1989年)東京都選定歴史的建造物
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造4階建塔屋付、建築面積173平方メートル(二次資料では地下1階地上5階建)
所有者文化庁台帳に記載なし。堀商店が所有し、保存活用のため賃貸
公開状況外観は常時見学可。1階カフェは一般利用可、上階は会員制シェアオフィス

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「堀商店」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000525
文化遺産オンライン「堀商店」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/147135
竹中工務店 プレスリリース「港区新橋の登録有形文化財『堀ビル』の保存活用」
https://www.takenaka.co.jp/news/2020/12/02/index.html
東京建築祭「堀ビル(goodoffice新橋)」
https://tokyo.kenchikusai.jp/program/00199/

最終更新日: 2026.08.23