画家が設計した離れ
去木庵(こもくあん、長谷川家住宅離れ)は、京都市南区東九条東札辻町5-1にある大正2年(1913年)建築の木造建物で、平成29年(2017年)6月28日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
長谷川家の敷地南東隅に建つ。木造2階建の一部が平屋、屋根は瓦葺、建築面積は65平方メートル。二階は通りに面した隅の部分に高欄付の縁を廻らせており、塀の内に引きこもらず、道を歩く人へ向かって開かれた構えをとる。
意匠の基調は和風で、数寄屋の手法が寸法や材の選び方に加わる。ただし、それだけでは説明のつかない要素がある。ガラスだ。本来なら紙や彫刻の木で構成される障子や欄間に、ここではガラスが多用される。それを支える組子は、さまざまな幾何学のかたちに割り付けられている。長谷川家自身はこの割り付けをアールデコ風と紹介しており、印象としては的を射た言い方だが、様式そのものが流行するのはこの建物が建った次の十年である点は押さえておきたい。
長谷川良雄という設計者
文化庁の解説は設計者を「画家」とだけ記す。長谷川家の側はその人物を明かしている。十一代当主・長谷川良雄(明治17年〜昭和17年)である。
長谷川家は室町期からこの東九条で農を営み、江戸時代を通じて公家の庭田家に仕えた地主だった。米のほか藍や九条ねぎといった商品作物を育て、高瀬川の舟運で御所周辺の公家屋敷へ年貢を運んだ家である。良雄は明治35年9月、創立まもない京都高等工芸学校に第1期生として入学した。師はフランス留学から帰国したばかりの洋画家・浅井忠と、当時最も発明的な建築家のひとりだった武田五一。この二人から絵画と図学を同じ教室で学んだ経歴は、去木庵の性格をかなりの部分説明してくれる。
長谷川家の記述によれば、良雄はこの建物を兄の養生宅として設計した。用途は平面とよく合っている。広い敷地の隅に独立して置かれ、二方向から光を受け、紙であるべきところにガラスが入る小さな建物は、長い時間を屋内で過ごさねばならない人のためのものとして理にかなう。
良雄が主に描いたのは水彩で、展覧会への出品はごく稀だった。大正7年(1918年)に家督を継ぎ、晩年は地元の京都市立陶化小学校の校章・校旗をデザインし、産土神である宇賀神社の総代などを務めた。この離れに適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」である。
敷地全体を見る
去木庵だけを取り出して見ることはできないし、その必要もない。同じ敷地には登録有形文化財が三件ある。寛保2年(1742年)建築の主屋、土蔵、表門である。主屋の登録は平成25年6月21日。それに先立つ修復工事は一年余を要し、地盤沈下が南側で約15センチ、北側で約10センチ生じていたため、百数十本の柱をジャッキで持ち上げる作業が必要だった。鴨川の洪水常襲地域という立地の帰結である。
工事を終えた敷地は現在、「歴史・文化・交流の家 長谷川家住宅」として運営されている。開館は毎週土曜日の10時から16時のみ。展示替えのため年に二度の長期休館があり、夏期は7月第3土曜から9月第2土曜まで、冬期は12月第2土曜から3月31日まで閉じる。入館料は大人600円、小学生300円。15名以上の団体はそれぞれ540円、270円となる。
主屋には良雄の水彩画、歴代当主が集めた江戸期の書籍や屏風が並び、手織り教室も開かれている。座敷に展示された絵巻は、第十代当主・長谷川清之進が13歳のときに描いたもので、元治元年(1864年)に東九条へ野営した会津藩の隊列198名を、家老・神保内蔵助に率いられた姿として記録している。近くの床柱には、そのとき武具が擦れてついたと伝わる跡が残る。
行き方
京都駅からは市営地下鉄烏丸線で一駅、十条駅下車。1番出口を出て十条通を東へ、竹田街道を北へ進み、点滅信号を東に折れて突き当たり。徒歩8分ほどである。京都駅烏丸口バスターミナルC4から市バス81番に乗れば「札の辻」下車、徒歩3分。八条口から歩き通しても15分程度で着く。
駐車場は河原町側、エネオス向かいにある。利用する場合は事前に075-606-1956へ連絡してほしいとのこと。この番号は、土曜以外の開館についての問い合わせ先でもある。
市立の博物館ではなく個人の住宅であることを踏まえ、撮影は入口で可否を尋ねてからにしたい。
Q&A
- 去木庵(長谷川家住宅離れ)は見学できますか。開館日と入館料は?
- 毎週土曜日の10時から16時のみ公開されています。夏期(7月第3土曜〜9月第2土曜)と冬期(12月第2土曜〜3月31日)は展示替えのため休館。入館料は大人600円、小学生300円です。
- 去木庵を設計したのは誰ですか。
- 長谷川家十一代当主で水彩画家の長谷川良雄です。京都高等工芸学校で浅井忠と武田五一に師事しました。長谷川家の記録によれば、兄の養生のための住宅として設計したとされます。
- 去木庵はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか。
- 大正2年(1913年)の建築で、平成29年(2017年)6月28日に登録されました。登録番号は26-0521。同じ敷地の主屋はそれより早く、平成25年6月21日に登録されています。
- 京都駅から去木庵へはどう行きますか。
- 地下鉄烏丸線で十条駅まで一駅、1番出口から徒歩8分ほどです。市バス81番なら「札の辻」下車で徒歩3分。八条口から徒歩でも15分程度です。
- 去木庵で特に注目すべき箇所はどこですか。
- ガラスを多用した障子と欄間、そしてそれを割り付ける幾何学的な組子です。二階隅を廻る高欄付の縁は、中に入る前に通りから見上げておくとよいでしょう。
基本情報
| 名称 | 去木庵(長谷川家住宅離れ)/こもくあん |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京都市南区東九条東札辻町5-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 26-0521 |
| 指定年 | 平成29年(2017年)6月28日登録(第87回) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階一部平屋建、瓦葺、建築面積65平方メートル |
| 所有者 | 長谷川家(個人所有) |
| 公開状況 | 「歴史・文化・交流の家 長谷川家住宅」として毎週土曜10:00〜16:00公開(夏期・冬期休館あり) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 去木庵(長谷川家住宅離れ)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011732
- 文化遺産オンライン — 去木庵(長谷川家住宅離れ)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/245528
- 歴史・文化・交流の家 長谷川家住宅 — 去木庵
- https://hasegawake.net/house/an/
- 歴史・文化・交流の家 長谷川家住宅 — 長谷川良雄
- https://hasegawake.net/hasegawayoshio/
- 歴史・文化・交流の家 長谷川家住宅 — ご利用案内
- https://hasegawake.net/access/
最終更新日: 2026.08.08