はじめに:京都・東山のシンボル「八坂の塔」

京都市東山区の風情ある町並みの中に、ひときわ高くそびえる五重塔があります。法観寺五重塔、通称「八坂の塔」です。高さ約46メートルのこの塔は、北の八坂神社と南の清水寺のほぼ中間に位置し、東山エリアのランドマークとして古くから親しまれてきました。

国の重要文化財に指定されたこの塔は、東寺・興福寺の五重塔に次ぐ国内第3位の高さを誇る木造五重塔です。さらに特筆すべきは、重要文化財に指定された五重塔としては日本で唯一、内部に入り二層目まで拝観できることです。八坂通りの石畳の坂道から見上げる塔の姿は、京都を代表する景観として映画やドラマにも数多く登場し、訪れる人々の心に深い感動を与え続けています。

歴史的背景

法観寺の歴史は、日本仏教の黎明期にまで遡ります。寺伝によれば、崇峻天皇2年(589年)、聖徳太子が如意輪観音の夢のお告げを受け、心柱の礎石に仏舎利(釈迦の遺骨)三粒を納めた五重塔を建立したのが始まりとされています。

聖徳太子の創建説は、暦応元年(1338年)に渡来僧の清拙正澄が記した『山城州東山法観禅寺佛舎利塔記』に基づいていますが、学術的には議論もあります。しかし、平安京遷都(794年)以前からこの地に寺院が存在したことは確実であり、朝鮮半島系の渡来氏族・八坂氏の氏寺として創建されたとする説が有力です。境内から出土する瓦の様式から、創建は7世紀に遡ると考えられています。

「八坂寺」の名は、承和4年(837年)の『続日本後紀』に初めて登場します。平安時代には『延喜式』の盂蘭盆供養料を受ける七寺の一つに数えられ、官寺に準ずる扱いを受けていました。

五重塔は幾度もの災禍と再建を繰り返しています。治承3年(1179年)には清水寺と祇園社(八坂神社)の争いに巻き込まれて焼失し、建久2年(1191年)に源頼朝の援助で再建されました。正応4年(1291年)に落雷で再び焼失した後、延慶2年(1309年)に後宇多天皇の支援で再興されています。

仁治元年(1240年)には建仁寺第8世の済翁証救が入寺し、真言宗から臨済宗建仁寺派の禅寺へと改められました。暦応元年(1338年)には、夢窓疎石の勧めにより足利尊氏が全国に建立した利生塔の一つとして、都の利生塔に選ばれ、仏舎利が奉納されました。

現在の塔は、永享8年(1436年)の焼失後、永享12年(1440年)に室町幕府第6代将軍・足利義教の援助により再建されたものです。その後の応仁の乱(1467年~1477年)では他の伽藍がすべて焼失しましたが、この五重塔だけは奇跡的に焼失を免れ、580年以上にわたって東山の空にその美しいシルエットを刻み続けています。

重要文化財としての価値

法観寺五重塔は、明治30年(1897年)12月28日という極めて早い時期に重要文化財に指定されました。日本の文化財保護制度の草創期に選ばれた建造物の一つであり、その建築的・歴史的価値の高さがうかがえます。

建築様式としては、三間五重塔婆・本瓦葺の純然たる和様建築です。白鳳時代の建築様式を今に伝えるとされ、方約6メートル・高さ約46メートルの堂々たる姿は、室町時代の優れた塔建築を代表するものです。

特に注目されるのは、縁(えん)と高欄(こうらん)が五重目にのみ設けられている独特の意匠です。他の五重塔にはあまり見られないこの構造は、塔全体にすっきりとした印象を与え、そのシルエットの美しさを際立たせています。

須弥壇の下には、創建当初の松香石製の中心礎石が現存しており、中央には舎利器を納めた三重の凹孔が残っています。15世紀の再建でありながら、古代寺院の礎石がそのまま使用されている点は、この塔の歴史的連続性を物語る貴重な証拠です。

塔内には本尊・五智如来像五体が安置されています。大日如来を中心に、東方に阿閦如来、南方に宝生如来、西方に阿弥陀如来、北方に不空成就如来が四方に配置されています。寺宝としては、紙本著色八坂塔絵図(法観寺参詣曼荼羅)、足利義教画像、法観雑記などの貴重な文化財も所蔵されています。

見どころと拝観の魅力

八坂の塔の最大の魅力は、重要文化財指定の五重塔としては日本で唯一、内部に入り二層目まで登ることができる点です。初層に足を踏み入れると、心柱を囲むように安置された五智如来像が出迎えてくれます。荘厳な空間で室町時代の仏教美術を間近に拝観できる貴重な体験です。

急な階段を上った二層目からは、京都の街並みと東山の山々を望む素晴らしい眺望が広がります。狭い窓からのぞく景色には、現代の京都と中世の建築が溶け合う不思議な感覚があります。

外観もまた格別です。八坂通りの西側から東を向いて見上げる構図——石畳の両側に町家が並び、その奥に五重塔が空に向かってそびえる光景——は京都で最も美しい風景のひとつとして知られています。夕暮れ時や夜間のライトアップ時には、幻想的な雰囲気に包まれ、多くの人々を魅了します。

境内には五重塔のほか、薬師如来・日光菩薩・月光菩薩を安置する薬師堂、聖徳太子像を祀る太子堂、鎮守社の八坂稲荷神社、そして平安時代末期の武将・木曾義仲の首塚(朝日塚)などがあります。また、茶室「聴鐸庵」は、五重塔の風鐸(ふうたく)の音を聞くことができることからその名が付けられました。

なお、内部拝観は不定期で、寺院関係者の都合により公開日が決まります。通常の拝観時間は10:00~16:00ですが、天候や諸事情により早めに閉鎖されることもあります。確実に内部を拝観されたい場合は、事前に電話(075-551-2417)でご確認ください。拝観料は中学生以上400円で、急階段のため小学生以下のお子様は拝観できません。

周辺情報

八坂の塔は、京都随一の散策エリアである東山地区の中心に位置しており、周辺には数多くの名所が集まっています。

すぐ近くには、カラフルなくくり猿で知られる八坂庚申堂(金剛寺)があります。南へ二寧坂・産寧坂の風情ある坂道を歩けば、世界遺産・清水寺に至ります。北へ向かえば、豊臣秀吉の正室・北政所(ねね)が建立した高台寺があり、美しい庭園と季節のライトアップが楽しめます。

高台寺に隣接する「ねねの道」は、石畳が美しい散策路で、レストランや茶房、工芸品店が軒を連ねます。この道を北へ進むと円山公園、八坂神社へと続きます。清水寺から八坂の塔を経て八坂神社に至る東山の散策ルートは、京都の歴史と文化を凝縮した約1キロメートルの道のりで、古都の魅力を存分に味わうことができます。

Q&A

Q八坂の塔の内部は見学できますか?
Aはい。八坂の塔は、重要文化財に指定された五重塔としては日本で唯一、初層と二層目の内部を拝観できます。初層では五智如来像を間近に拝観でき、二層目からは京都の街並みを望むことができます。ただし、公開日は不定期で寺院関係者の都合により決まるため、確実に拝観されたい場合は事前に電話(075-551-2417)でご確認ください。拝観料は中学生以上400円で、急階段のため小学生以下は拝観できません。
Q八坂の塔はいつ建てられたのですか?
A寺伝では崇峻天皇2年(589年)の聖徳太子による創建とされていますが、現在の五重塔は永享12年(1440年)に室町幕府第6代将軍・足利義教の援助で再建されたもので、580年以上の歴史があります。なお、塔の下には創建当初の礎石が現存しています。
Q八坂の塔の高さは?他の五重塔と比べてどうですか?
A八坂の塔の高さは約46メートルで、日本の木造五重塔としては東寺(約55メートル)、興福寺(約50メートル)に次いで国内第3位の高さです。
Q八坂の塔へのアクセス方法は?
A京都駅から市バスに乗り、「東山安井」または「清水道」バス停で下車、徒歩約5分です。八坂神社と清水寺の中間、八坂通り沿いに位置しており、東山散策の途中で自然に立ち寄ることができます。
Q撮影や見学に最適な時間帯はいつですか?
A写真撮影には、人通りが少なく柔らかい光が差す早朝がおすすめです。八坂通りの西側から東を向いて撮影すると、石畳と町家の奥に塔がそびえる定番の構図が楽しめます。夜間はライトアップされた塔の幻想的な姿も魅力的です。内部拝観を希望される場合は、春や秋のシーズン中の週末が公開される可能性が比較的高いですが、確実ではないため事前確認をおすすめします。

基本情報

名称 法観寺五重塔(八坂塔)
正式名称 霊応山 法観禅寺(れいおうざん ほうかんぜんじ)
宗派 臨済宗建仁寺派
文化財指定 国指定重要文化財(明治30年〈1897年〉12月28日指定)
建築年代 永享12年(1440年)再建 — 室町時代中期
構造・様式 三間五重塔婆、本瓦葺、純和様建築
高さ 約46メートル
本尊 五智如来(大日如来・阿閦如来・宝生如来・阿弥陀如来・不空成就如来)
所在地 〒605-0862 京都府京都市東山区八坂通下河原東入八坂上町388
電話番号 075-551-2417
拝観時間 10:00~16:00(内部拝観は不定期、要電話確認)
拝観料 中学生以上 400円(小学生以下拝観不可)
アクセス 市バス「東山安井」または「清水道」下車 徒歩約5分
所有者 法観寺

参考文献

法観寺 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%A6%B3%E5%AF%BA
国指定文化財等データベース — 法観寺五重塔(八坂塔)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1728
法観寺(八坂の塔) — 京都市公式 京都観光Navi
https://ja.kyoto.travel/tourism/single01.php?category_id=7&tourism_id=518
法観寺・八坂の塔 — 京都市公式 京都観光Navi(駒札)
https://ja.kyoto.travel/tourism/single02.php?category_id=9&tourism_id=248
法観寺(八坂の塔)の歴史
https://inariage.com/history/hokanji.html
八坂の塔 [法観寺] — ふらふら京都散歩
https://furafurakyoto.com/houkanji/

最終更新日: 2026.04.12