北村謹次郎が「きたむら」の名を託した茶苑
北村美術館四君子苑は、京都府京都市上京区梶井町にある実業家・茶人北村謹次郎の旧邸で、昭和19年(1944年)に完成した数寄屋の建物群と茶苑からなり、そのうち4棟が平成13年(2001年)に、主屋が令和2年(2020年)に国の登録有形文化財となった。読みは「しくんしえん」。鴨川の西岸、賀茂川と高野川が合流して川幅がいちばん広がるあたりに位置し、隣に同じ財団が運営する北村美術館が建つ。
「四君子」は、菊・竹・梅・蘭を草木のなかの君子にたとえる中国由来の雅称である。美術館の説明では、この4つの頭の音をつなぐと「きたむら」と読めることから、その品格にあやかろうと謹次郎が苑の名に選んだという。自分の姓を植物の雅称に重ねた、茶人らしい言葉遊びが名前の出発点にある。
謹次郎(1904〜1991年)は、奈良県吉野の大和上市で山林業を営む北村又左衞門家の次男に生まれた。家業のかたわら夫妻で茶の湯と美術品の収集に打ち込み、その収集品を守るために昭和50年(1975年)に財団法人北村文華財団が設立され、昭和52年(1977年)に北村美術館が開館した。四君子苑は、その収集家が暮らし、茶会で客を迎えた場所である。
北村捨次郎の数寄屋と吉田五十八の主屋
建物は二つの時期に分かれる。表門、玄関・寄付、渡廊下・外腰掛、離れ茶席の4棟は、京数寄屋の名棟梁とうたわれた北村捨次郎の晩年の仕事で、昭和15年(1940年)に着工し、戦時下の昭和19年に完成した。丸太や竹の素材感を前に出し、細部に工夫を重ねた木造の数寄屋である。
主屋だけは戦後の建物になる。美術館によれば、昭和38年(1963年)に近代数寄屋建築の第一人者である吉田五十八の手で母屋が建て替えられた。国立国会図書館のレファレンス協同データベースが紹介する文献には、旧母屋が戦後に進駐軍に接収され、返還後に取り壊されたこと、謹次郎が長唄を通じて親交のあった吉田に新しい母屋を依頼したことが記されている。こうして一つの敷地に、戦中の手仕事による数寄屋と、鉄筋コンクリート造の近代数寄屋が並ぶことになった。
庭は京都の庭師、佐野越守の作庭と伝えられる。美術館は四君子苑を石造物の庭として紹介しており、苑内には約60点の石造美術品が据えられている。そのうち嘉禎3年(1237年)の銘をもつ石燈籠、旧報恩寺形の本歌とされる八角形の石燈籠、「鶴の塔」の通称をもつ宝篋印塔の3点は重要文化財である。嘉禎3年銘の燈籠について、美術館は年銘の入った石燈籠として日本最古と位置づけている。
表門から離れ茶席へ ― 苑内の配置
四君子苑の建物は、茶会の客の動きに沿って並んでいる。正門にあたる表門をくぐると前庭があり、その先に玄関・寄付が建つ。寄付は、茶会に招かれた客が到着して身支度を整える部屋である。寄付からは瓦を四半敷にした渡廊下が東へ延び、途中で折れながら、離れ茶席に付く外腰掛へ至る。離れ茶席は苑のいちばん奥に独立して建っている。
主屋は謹次郎の住まいで、庭に面した側に和室を並べ、北側に洋室の居間、2階に茶室を置く。美術館によれば、苑内の茶室には鴨川の向こうに大文字を正面に望む広間「看大」や、主茶席の小間「珍散蓮」がある。
石燈籠や宝篋印塔などの石造物は、建物のあいだの庭に点々と配されている。建物と石造物をあわせて一つの景色として見るよう組み立てられた庭であり、建物だけを追うと見落とすものが多い。
登録・指定の内訳
四君子苑の建物5棟は、いずれも登録基準の「造形の規範となっているもの」により国の登録有形文化財となっている。平成13年(2001年)11月20日に「離れ茶席」「玄関・寄付」「表門」「渡廊下・外腰掛」の4棟が登録され、登録番号は26-0094から26-0097まで続く。昭和38年に建て替えられた「主屋」は、令和2年(2020年)4月3日に登録番号26-0595として加わった。
庭の石造物のうち、宝篋印塔(鶴の塔)は昭和36年(1961年)に重要文化財に指定された。2基の石燈籠も重要文化財である。
見学方法とアクセス
四君子苑は通常は公開されておらず、春と秋の数日間だけ苑内と建物の内部が公開される。令和8年(2026年)秋の公開は10月20日から25日までで、開苑時間は午前11時から午後4時。入苑料は2,000円で、開催中の北村美術館の展覧会の入館料を含む。
令和8年秋の公開から完全入替制が導入された。観覧は1日3回、1回90分で、各回の定員は45名。整理券は各回の入苑時刻の1時間前から配られ、1人1枚に限られる。整理券がなければ入苑できない。美術館は初日の午前と最終日の午後に混雑が集中すると案内している。待ち時間には美術館の展示を見られる。
苑内では写真・動画の撮影ができず、携帯電話などの電子機器も使えない。建物には靴を脱いで上がるので、素足は避けたい。小学生以下の子どもは入苑できず、苑内では車椅子や杖も使えない。10名以上の団体は断られる場合があり、グループで訪れる場合は事前の連絡が求められる。美術館によれば、苑内の鑑賞にかかる時間は平均60分ほどである。
公開期間外でも、北村美術館が開いていれば苑の一部を見ることはできる。美術館2階のエントランスホールからは、ガラス越しに四君子苑の玄関と前庭を見下ろせる。令和8年の秋季展「晩秋有朋」の会期は9月5日から12月6日まで、開館は午前10時から午後4時30分(入館は午後4時まで)、休館日は月曜日と祝日の翌日、入館料は一般600円である。
交通は、JR京都駅から京都市バス4・7・205系統に乗り「河原町今出川」で降りて徒歩2分。京阪電車は終点の出町柳駅から鴨川を渡って徒歩5分、地下鉄烏丸線は今出川駅から徒歩18分ほど。京都駅からタクシーを使う場合、河原町今出川の交差点までおよそ15分が目安である。美術館の住所は「河原町今出川南一筋目東入」と表記され、河原町今出川の交差点から一筋南の通りを東へ入った先にある。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)北村美術館四君子苑表門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002554
- 国指定文化財等データベース(文化庁)北村美術館四君子苑玄関・寄付
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002553
- 国指定文化財等データベース(文化庁)北村美術館四君子苑離れ茶席
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002552
- 国指定文化財等データベース(文化庁)北村美術館四君子苑渡廊下・外腰掛
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002555
- 国指定文化財等データベース(文化庁)北村美術館四君子苑主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013276
- 北村美術館 四君子苑のご案内
- https://www.kitamura-museum.com/shikunshien.html
- 北村美術館 美術館概要
- https://kitamura-museum.com/kitamura.html
- 北村美術館 トップページ(四君子苑の公開日程・入苑要領)
- https://kitamura-museum.com/
- 北村美術館 ご利用案内
- https://kitamura-museum.com/howto.html
- 北村美術館 交通のご案内
- https://kitamura-museum.com/access.html
- レファレンス協同データベース(国立国会図書館)北村美術館の四君子苑に関する資料
- https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000323248&page=ref_view
最終更新日: 2026.09.24
基本情報
| 名称 | 北村美術館四君子苑 |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京都市上京区御車道通清和院口上る梶井町448-4 |
| 所有者 | 公益財団法人北村文華財団 |
| 指定 | 重要文化財 1件・登録有形文化財 5件 |
| 座標 | 35.02795, 135.77043 |