新高瀬川の河畔に残る伏見の酒造場
松本酒造は、京都府京都市伏見区横大路三栖大黒町にある寛政3年(1791年)創業の酒造会社で、その酒造場と居宅に残る明治後期から昭和29年(1954年)頃までの建物7件が国の登録有形文化財に登録されている。英語では Matsumoto Sake Brewery、ローマ字では Matsumoto Shuzo と表記される。
創業者は初代松本治兵衛で、京都の東山で「澤屋」の屋号を掲げて酒造りを始めたと伝える。創業の地については、伏見酒造組合の紹介と社の沿革が東山の八坂弓矢町を挙げ、京都市の認定理由は東山七条としている。
伏見に酒造場を構えた年も、資料によって書き方が違う。京都市の認定理由と社の沿革は大正11年(1922年)に現在地へ移ったとし、京都市の選定理由と伏見酒造組合は大正12年(1923年)に名水を求めて酒造場を増設したと記す。伏見はもともと「伏水」とも書かれた土地で、松本酒造は敷地内で汲み上げる地下水を仕込み水にしている。
このとき松本酒造は、製薬会社の工場だった建物を買い取った。京都市によれば、明治末期の煉瓦倉庫と煉瓦煙突、大正前期の事務所がそのまま酒造場の施設として引き継がれ、その横に大正12年の大黒蔵、大正13年(1924年)の酒蔵ホール(旧純米酒蔵)、同じ頃の吟醸酒蔵が新しく建てられた。昭和29年頃には居宅として万暁院が建ち、建仁寺の塔頭正伝院から移されたと伝わる正門も同じ頃に移築・改修されている。
明治の工場建築、大正の酒蔵、戦後の和風住宅。三つの時代の建物が一つの酒造場の中に重なって残る点を、京都市は酒造工場としてきわめて貴重だと評価している。
登録された7件と、登録から外れた1件
国の登録は2回に分かれている。平成20年(2008年)7月8日に万暁院と正門が、平成25年(2013年)12月24日に大黒蔵・酒蔵ホール・吟醸酒蔵・煉瓦倉庫・煉瓦煙突の5件が登録された。登録基準は、万暁院が「造形の規範となっているもの」、残る6件が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
平成25年には製薬会社から引き継いだ事務所も登録されたが、文化庁の抹消一覧によれば、令和7年(2025年)11月17日に解体等を理由として登録が抹消された。事務所は現在、登録有形文化財ではない。
国の登録のほかにも、松本酒造の建物はいくつもの枠組みで評価を受けてきた。伏見酒造組合の紹介によれば、平成9年(1997年)に京都市の歴史的意匠建造物、平成19年(2007年)に経済産業省の近代化産業遺産、平成21年(2009年)に京都市の景観重要建造物となった。京都市の「京都を彩る建物や庭園」にも選定・認定されている。
酒造場の配置と眺める位置
登録された建物は、酒造場の側と居宅の側の二つにまとまっている。酒造場の建物は敷地の西側、新高瀬川に面した河畔に集まり、居宅の万暁院と正門は所在地の表記が恵美酒町となる東側にある。いちばん離れた建物どうしでも100メートルに満たない。
酒造場の中心は、川沿いに南北に長く延びる大黒蔵である。その北側には酒蔵ホールが東西棟で川に面し、吟醸酒蔵がホールと並ぶ。大黒蔵の南側には明治の煉瓦倉庫が東西棟で建ち、その近くに高さ18メートルの煉瓦煙突が立つ。万暁院は庭園の北側に建ち、正門は東の通りに向いて開く。
京都市は、新高瀬川越しに見える酒蔵や煉瓦煙突を地域を代表する景観として挙げている。川を挟んだ西側の堤防に立つと、竪板張の大黒蔵と酒蔵ホールが一続きの壁面をつくり、その端から煉瓦の煙突が立ち上がる構図になる。春には河原一面に菜の花が咲くことで知られ、この時期の眺めを目当てに訪れる人が多い。
見学とアクセス
松本酒造は蔵見学を受け付けていない。京都府観光連盟の案内によれば、敷地で行っているのは酒の販売のみで、平日の午前8時から午前11時までと午後1時から午後4時30分までに限られ、見学はできない。登録された7件はいずれも内部非公開で、外観は敷地の外から眺めることになる。撮影も公道や川沿いからに限られる。
最寄り駅は京阪本線の伏見桃山駅で、徒歩13分ほど。近鉄京都線の桃山御陵前駅からは徒歩15分ほどかかる(京都府観光連盟)。どちらの駅からも伏見の酒蔵が集まる一帯を西へ抜けていく道筋になり、濠川を渡ったさらに先、新高瀬川の手前に松本酒造がある。敷地内に数台分の駐車場があるとされる。電話は075-611-1238。
正門は通りに面しているので、万暁院の側から歩き始めて門を見たあと、敷地の外周を回って新高瀬川の堤防へ出ると、登録された建物を順に見ることができる。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 松本酒造大黒蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009786
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 松本酒造万暁院
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007235
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 松本酒造正門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007236
- 京都を彩る建物や庭園(京都市文化市民局)— 松本酒造
- https://kyoto-irodoru.city.kyoto.lg.jp/fushimi/matsumoto_shuzo-n.html
- 文化庁 — 登録有形文化財(建造物)の抹消件数
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/massho/pdf/94409101_02.pdf
- 京都府観光連盟 — 松本酒造株式会社
- https://www.kyoto-kankou.or.jp/info_search/3997
- 伏見酒造組合 — 「桃の滴」松本酒造株式会社
- https://www.fushimi.or.jp/brewery/matsumoto.html
- 松本酒造株式会社 — 会社概要・沿革
- https://matsumotoshuzo.com/about/
- KYOTOdesign — 松本酒造
- https://kyoto-design.jp/spot/22468
最終更新日: 2026.09.26
基本情報
| 名称 | 松本酒造 |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京都市伏見区横大路三栖大黒町2他 |
| 所有者 | 松本酒造株式会社 |
| 指定 | 登録有形文化財 7件 |
| 座標 | 34.93335, 135.75446 |