類聚古集――万葉集を再編纂した唯一現存する国宝写本

京都・龍谷大学大宮図書館が所蔵する「類聚古集」(るいじゅうこしゅう)は、日本の国宝に指定された貴重な書跡・典籍です。平安時代に編纂された本書は、日本最古の歌集『万葉集』の歌を主題別・形式別に分類し直した、現存する唯一の写本として知られています。日本の古典文学の源流に触れたい方にとって、その歴史的・学術的価値は計り知れません。

類聚古集とは

『万葉集』は759年頃に成立した、4,500首以上の歌を収めた日本最古の歌集です。しかし、その歌の配列には統一的な規則がなく、後世の読者にとって特定のテーマの歌を探すのは容易ではありませんでした。

平安時代後期、宮廷の学者であった藤原敦隆(ふじわらのあつたか、?~1120年)は、万葉集の全歌を体系的に再編纂するという壮大な事業に着手しました。まず長歌・短歌・旋頭歌(せどうか)という歌の形式ごとに大きく分類し、さらに春・夏・秋・冬・天地・山水などの題材によって細分化しました。季節の部では風物や行事の推移に従って配列し、その中を「雨」「桜」「雪」といった具体的な題目ごとにまとめています。

こうして完成した類聚古集は、特定の主題に関する歌をすぐに参照できる、いわば万葉集の「主題別索引」とも呼べる画期的な著作でした。

なぜ国宝に指定されたのか

類聚古集は昭和28年(1953年)3月31日に国宝に指定されました。龍谷大学の公式解説によれば、その卓越した価値は三つの柱に支えられています。

第一に、現在伝わっている類聚古集の写本は本書ただ一点のみであることです。藤原敦隆が記した原本はすでに失われていますが、本書は原本に近い時期に書写されたもので、世界にただ一つの孤本として唯一無二の存在です。

第二に、類聚古集は万葉集の歌を分類・再編纂した最初の書物であることです。これ以前に万葉集を体系的に整理し直した著作は知られておらず、日本文学研究史上、独自の位置を占めています。

第三に、本書には万葉仮名とともに仮名の読みが併記されていることです。万葉集の原文はすべて漢字(万葉仮名)で記されていますが、類聚古集では万葉仮名の本文に当時の仮名による読みが添えられており、万葉集成立に近い時代の読み方や発音を知ることができる貴重な資料となっています。

見どころと特徴

現存する類聚古集は、もともと全20冊あったうちの16帖(じょう)で、約3,834首の歌が収められています。各帖は縦約22.3cm、横約14.2cmの冊子本で、伝統的な和紙に流麗な筆致で書写されています。

特に注目されるのは、巻3・巻4の巻末に記された「一見了」(いちけんりょう=「目を通した」の意)という書き入れです。これは鎌倉時代の伏見天皇(1265~1317年)の宸筆(しんぴつ=天皇ご自身の直筆)とされる花押で、本写本が何世紀にもわたって日本の最高位の文化人に尊ばれてきたことを物語っています。

さらに、各ページには朱による書き込みや傍記、異本の読みなど、歴代の学者たちが残した注釈が重層的に見られ、一つの写本が長い歳月をかけて研究され続けてきた歴史を体感することができます。

伝来と所蔵

類聚古集は長く西本願寺の大谷家に所蔵されていました。西本願寺は浄土真宗本願寺派の本山であり、日本を代表する仏教寺院の一つです。その後、大谷家のご好意により龍谷大学に収蔵されました。龍谷大学は1639年に西本願寺の学寮として創立された長い歴史を持つ大学で、現在は大宮図書館において国宝にふさわしい万全の環境で保存されています。

ご覧いただける機会

国宝である類聚古集は常設展示されていません。特別展などの機会に、龍谷ミュージアムで公開されることがあります。龍谷ミュージアムは世界文化遺産・西本願寺の正面に位置する日本初の仏教総合博物館で、仏教美術の名品や貴重な学術資料を展示しています。

展示の際には帖替え(展示する冊の入れ替え)やページ替えが行われるため、全帖を一度に観覧することは難しい場合があります。ご訪問の前に、龍谷ミュージアムの公式ウェブサイトで最新の展覧会スケジュールをご確認ください。

また、龍谷大学では貴重資料画像データベースを通じて、類聚古集の全丁のモノクロ画像をオンラインで公開しています。来館が難しい方も、インターネットを通じてこの国宝の姿に触れることができます。

周辺情報

龍谷ミュージアムは京都の中心部に位置しており、周辺には数多くの見どころがあります。正面にはユネスコ世界文化遺産の西本願寺があり、壮麗な唐門や豪華絢爛な書院建築をご覧いただけます。東へ少し歩くと東本願寺があり、巨大な御影堂は世界最大級の木造建築として知られています。

京都駅までは徒歩約12分で、ショッピングや食事にも便利です。駅前の京都タワーからは市内を一望できます。さらに足を延ばせば、東山方面の京都国立博物館では日本美術の至宝を鑑賞でき、類聚古集が過去に展示されたこともある名門博物館です。

Q&A

Q類聚古集はいつでも見ることができますか?
Aいいえ。国宝であるため、常設展示はされていません。龍谷ミュージアムの特別展などで数年に一度程度公開されます。ご訪問前に龍谷ミュージアムの公式サイトで展覧会情報をご確認ください。
Q龍谷ミュージアムには英語の案内がありますか?
A龍谷ミュージアムでは一部英語の展示解説やパンフレットが用意されています。常設のベゼクリク石窟復元展示には多言語の説明があります。ただし、個別の写本に関する詳細な解説は日本語のみの場合があります。
Q類聚古集と万葉集の関係を教えてください。
A類聚古集は、日本最古の歌集『万葉集』(759年頃成立)の歌を、歌の形式(長歌・短歌・旋頭歌)と題材(季節・自然など)によって分類・再編纂した著作です。統一的な配列のない万葉集を、主題から検索できるようにした最初の試みとして知られています。
Q実物を見られない場合、他に類聚古集に触れる方法はありますか?
A龍谷大学図書館の貴重資料画像データベースで、全丁のモノクロ画像をオンラインで閲覧できます。また、思文閣より刊行されている『龍谷大学善本叢書20 類聚古集』では、高精度の影印(複製写真)と翻刻が対照で収録されています。
Q龍谷ミュージアムへのアクセス方法は?
AJR・近鉄・地下鉄烏丸線「京都」駅から徒歩約12分です。市バスの場合は「西本願寺前」バス停下車、徒歩約2分です。西本願寺の正面に位置しているため、迷いにくい立地です。

基本情報

名称 類聚古集(るいじゅうこしゅう)
指定区分 国宝(昭和28年〔1953年〕3月31日指定)
種別 書跡・典籍
時代 平安時代(1120年以前に成立、写本も近い時期に書写)
編者 藤原敦隆(ふじわらのあつたか、?~1120年)
員数 16帖(もとは全20冊)
法量 縦約22.3cm × 横約14.2cm
収録歌数 約3,834首
所有者 龍谷大学
所在地 京都府京都市伏見区深草塚本町67
展示会場 龍谷ミュージアム(京都市下京区堀川通正面下る)
開館時間 10:00~17:00(最終入館16:30)/月曜休館
アクセス JR・近鉄・地下鉄烏丸線「京都」駅から徒歩約12分/市バス「西本願寺前」下車徒歩約2分

参考文献

国宝 類聚古集:資料解説 — 龍谷大学図書館 貴重資料画像データベース
https://da.library.ryukoku.ac.jp/collections/ruijyukosyu.html
類聚古集 — 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/126077
国宝-書跡典籍|類聚古集[龍谷大学/京都] — WANDER 国宝
https://wanderkokuho.com/201-00683/
龍谷大学大宮図書館所蔵 国宝『類聚古集』公開のお知らせ — 龍谷大学
https://www.ryukoku.ac.jp/news/detail.php?id=9115
龍谷ミュージアム 公式サイト
https://museum.ryukoku.ac.jp/
類聚古集(龍谷大学善本叢書20)— 思文閣出版
https://www.shibunkaku.co.jp/publishing/list/4784210415/
万葉集 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%87%E8%91%89%E9%9B%86

最終更新日: 2026.03.21