虎ノ門大坂屋砂場店舗:大正時代の木造建築に息づく江戸蕎麦の伝統

東京・虎ノ門のオフィスビルが立ち並ぶ一角に、大正時代の風情をそのまま残す木造二階建ての蕎麦屋があります。それが「虎ノ門大坂屋砂場」です。1923年(大正12年)に建てられたこの店舗は、2011年(平成23年)に国の登録有形文化財に登録されました。明治5年(1872年)の創業以来、稲垣家が六代にわたって守り続けてきた蕎麦の味と、400年以上の歴史を持つ「砂場」の伝統が、この趣ある建物の中で今も息づいています。関東大震災にも、第二次世界大戦の空襲にも耐え抜き、近年は道路拡幅工事に伴う曳家工事で約4メートル移動しながらも、その風格は一切損なわれていません。

歴史的背景:大坂城築城から虎ノ門へ

「砂場」という屋号の起源は、1583年(天正11年)に豊臣秀吉が大坂城の築城に着手した時代にまで遡ります。築城工事の資材置き場であった砂場の一角で、和泉屋という菓子屋が蕎麦屋を開店したことに由来し、この地名がそのまま屋号となりました。砂場は、藪や更科と並ぶ「江戸三大蕎麦」のひとつに数えられ、その歴史はもっとも古いとされています。

徳川家康が江戸に幕府を開くと、砂場の蕎麦も江戸に渡り、糀町(現在の麹町)に店を構えました。1872年(明治5年)、尾張国(現在の名古屋地方)出身の稲垣音次郎が、砂場本家「糀町七丁目砂場藤吉」から暖簾分けを受け、琴平町(現在の虎ノ門一丁目)に「琴平町砂場」(後の虎ノ門大坂屋砂場)を開業しました。店舗は旧大名家・阿部氏の敷地の一部を譲り受けて建てられ、武家との縁が深い場所でした。

音次郎の妻・よそは、徳川家と縁の深い武家・刈谷家の娘で、父は鍋島藩の剣術指南役を務めた人物でした。創業当初から、幕末・明治の剣術家として名高い「三舟」——山岡鉄舟、高橋泥舟、勝海舟——に贔屓にされ、山岡鉄舟から贈られたとされる書が現在も店内に残されています。

登録有形文化財としての価値

2011年(平成23年)7月25日、虎ノ門大坂屋砂場の店舗建築は国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。大正時代に建てられた木造商業建築が、都心の再開発の波を乗り越え、現在もなお当初の用途のまま使用され続けている点が高く評価されています。

建物は交差点の北西角地に位置し、角地に合わせたL字型の平面を基本に、隅を斜めに削った独特の形状をしています。屋根は切妻造桟瓦葺で、角部分には千鳥破風が飾られています。外壁は下見板張りとし、小壁を漆喰で仕上げるなど、伝統的な日本建築の技法が随所に見られます。二階は座敷となっており、開口部には欄干が設けられています。建築面積は約70平方メートルで、町のランドマークとして長く親しまれてきました。

建築の見どころと雰囲気

暖簾をくぐると、そこには大正時代にタイムスリップしたかのような空間が広がっています。年月を経た木材の温かみ、陶器の心地よい音、そして出汁の豊かな香りが調和し、時代を超えた落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

建築上の見どころとしては、まず角部の千鳥破風が挙げられます。城郭や社寺建築に多く見られるこの装飾が、庶民的な蕎麦屋に品格を与えています。下見板張りの外壁と白い漆喰壁のコントラストは、防火性と美観を兼ね備えた伝統的な意匠です。二階の座敷は夜の宴席として予約利用が可能で、欄干越しに街並みを眺めながら食事を楽しむことができます。

2020年から2021年にかけて、隣接する都道「愛宕下通り」の道路拡幅工事に伴い、日本の伝統的な「曳家」工法により建物全体が約4メートル西に移動されました。工事期間中は近隣の仮店舗で営業を行い、2022年3月に元の場所で営業を再開。歴史的建物は完全に保存されています。

蕎麦と食の伝統

虎ノ門大坂屋砂場では、蕎麦粉とつなぎの割合が10対2の「外二そば」を提供しています。北海道産の香り高い蕎麦粉を使用し、甘みのある濃いめんつゆと合わせることで、江戸蕎麦の伝統を今に伝えています。

稲垣家には「つゆだけは自分で作ること。蕎麦は板前に任せてもよいが、常に目を光らせていなければならない」という三代目からの教えが受け継がれています。つゆの味を守ることが店の命であるという信念は、江戸蕎麦の伝統そのものです。車海老の天せいろ蕎麦をはじめ、季節の変わり蕎麦、卵焼き、焼き鳥、旬の天ぷらなど、豊富なメニューが揃い、日本酒や焼酎とともに楽しむことができます。

現在は六代目の稲垣隆俊氏が店主を務め、家訓に定められた「唯一心に勤め励みて家門を思うべし」の精神で、伝統の味と空間を守り続けています。

ご来店にあたって

虎ノ門大坂屋砂場は、都心のアクセス至便な場所に位置しています。東京メトロ銀座線・虎ノ門駅B3出口から徒歩約5分、都営三田線・内幸町駅A3出口から徒歩約9分、JR新橋駅からも徒歩約10分です。日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅からもすぐの場所にあります。

昼時は近隣のビジネスパーソンで賑わうため、正午前後を少し外した時間帯のご来店がおすすめです。夜の宴席は予約制で、お電話にてご予約を承っています。蕎麦の価格帯は約700円から1,700円と、登録有形文化財の空間で伝統の味を楽しめることを考えると、大変お手頃な価格設定です。

周辺の見どころ

虎ノ門エリアには多くの見どころがあります。すぐ近くにある虎ノ門金刀比羅宮は、1660年(万治3年)に丸亀藩主・京極氏が四国の金刀比羅宮から勧請した神社で、江戸時代から庶民の信仰を集めてきました。また、徒歩圏内にある愛宕神社は、標高26メートルの愛宕山の山頂に鎮座し、急な石段「出世の石段」で知られています。

隣接する虎ノ門ヒルズは、商業施設やレストランが入る大規模複合施設です。日比谷公園は日本初の西洋式公園のひとつで、四季折々の花々を楽しめます。新橋方面に足を伸ばせば、多彩な飲食店が軒を連ねる繁華街が広がっています。美術に興味のある方には、大倉集古館もおすすめです。

Q&A

Q虎ノ門大坂屋砂場の建物はなぜ文化財に登録されたのですか?
A1923年(大正12年)に建てられたこの木造二階建ての店舗は、都心のオフィス街に残る貴重な大正時代の商業建築として、2011年に国の登録有形文化財に登録されました。千鳥破風を飾った切妻造の瓦屋根、下見板張りの外壁、漆喰仕上げの小壁、二階座敷の欄干など、伝統的な日本建築の技法が良好に保存されていることが評価されています。
Q「砂場」という名前の由来は何ですか?
A1583年に豊臣秀吉が大坂城を築城した際、工事用資材の砂置き場で和泉屋が蕎麦屋を開いたことに由来します。その場所が「砂場」と呼ばれていたことから屋号となりました。400年以上の歴史を持ち、藪・更科と並ぶ江戸三大蕎麦のひとつに数えられています。虎ノ門の店舗は1872年(明治5年)に砂場本家から暖簾分けを受けて創業しました。
Q道路拡幅工事で建物はどうなりましたか?
A2020年から2021年にかけて、隣接する愛宕下通りの道路拡幅工事に伴い、日本の伝統的な「曳家」工法により建物全体が約4メートル西に移動されました。工事中は近隣の仮店舗で営業を続け、2022年3月に元の場所で営業を再開しました。登録有形文化財である建物は完全に保存されています。
Qおすすめのメニューは何ですか?
A看板メニューは車海老の天せいろ蕎麦です。北海道産の香り高い蕎麦粉を使った外二蕎麦と、代々受け継がれてきた秘伝のつゆの組み合わせが絶品です。卵焼きや焼き鳥、季節の天ぷらなどのおつまみも豊富で、日本酒とともに楽しむ方も多くいらっしゃいます。蕎麦の価格帯は約700円から1,700円です。
Qアクセス方法を教えてください。
A東京メトロ銀座線・虎ノ門駅B3出口から徒歩約5分です。都営三田線・内幸町駅A3出口からは徒歩約9分、JR新橋駅からは徒歩約10分です。東京メトロ日比谷線・虎ノ門ヒルズ駅からもアクセスできます。

基本情報

名称 虎ノ門大坂屋砂場店舗
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)/登録年月日:2011年(平成23年)7月25日
建築年 1923年(大正12年)
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積約70㎡
創業 1872年(明治5年)
所在地 〒105-0001 東京都港区虎ノ門1丁目10-6
アクセス 東京メトロ銀座線・虎ノ門駅B3出口より徒歩約5分
電話番号 03-3501-9661
公式サイト https://www.toranomon-sunaba.com/

参考文献

虎ノ門大坂屋砂場店舗 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/194995
砂場の歴史 — 虎ノ門 大坂屋 砂場 公式サイト
https://www.toranomon-sunaba.com/history/
虎ノ門大坂屋砂場 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/虎ノ門大坂屋砂場
虎ノ門の老舗そば店「砂場」が曳家で移動 — 新橋経済新聞
https://shinbashi.keizai.biz/headline/2205/
大坂屋虎ノ門砂場 — 港区観光協会 VISIT MINATO CITY
https://visit-minato-city.tokyo/ja-jp/places/1157

最終更新日: 2026.03.29