福岡醤油店 ― 伊賀の山里に息づく明治の百年蔵
三重県伊賀市島ヶ原の山あいに静かにたたずむ福岡醤油店は、明治28年(1895年)の創業以来、130年にわたり伝統の手造り醤油を守り続ける老舗の醤油蔵です。国の登録有形文化財に指定された醸造蔵には、百年を超える杉の大桶やおそらく日本で唯一現役のキリン式圧搾機が残り、蔵全体が生きた産業遺産として貴重な存在となっています。海外からのお客様にも蔵見学を通じて日本の発酵文化の奥深さを体感していただける、まさに「本物」に出会える場所です。
明治時代に始まる醤油づくりの歴史
福岡醤油店は、明治28年(1895年)に福岡長太氏によって、当時の阿山郡島ヶ原村に創業されました。島ヶ原は古くから大和(奈良)・山城(京都)・伊勢(三重)を結ぶ交通の要衝として栄えた集落であり、連山に囲まれた豊かな自然と清らかな水に恵まれた土地です。こうした環境は、ゆっくりとした自然発酵を必要とする醤油づくりに最適でした。
現在の蔵は明治37年(1904年)に建築された木造平屋建・瓦葺の建物で、建築面積は約204平方メートルです。蔵の中には麹室(こうじむろ)やボイラー室が設けられ、醤油醸造に必要な機能がひとつの建物に集約されています。昭和28年(1953年)に付近一帯が大きな水害に見舞われた際も、この蔵は難を逃れ、現在まで創業当時の姿を保ち続けています。
平成16年(2004年)に法人化し、現在は株式会社福岡醤油店として、小規模ながらも品質にこだわった醤油づくりを続けています。
登録有形文化財としての価値
平成10年(1998年)4月21日、福岡醤油店の醸造蔵は文化庁により登録有形文化財(建造物)に登録されました。明治期に建てられた醤油醸造用建物として、麹室やボイラー室を含む構造が良好に保存されている点が評価されています。
特に注目されるのが、蔵内に設置されている「キリン式圧搾機」です。約6メートルのケヤキの木をテコの原理で用いた搾り装置で、その長い棒の先に重りをつけた姿がキリンの首に似ていることからこの名が付きました。もろみに強い力をかけると余分な雑味が出てしまうため、このキリン式圧搾機はゆっくりとした自重によって優しく搾ることで、雑味のない澄んだ生醤油を生み出します。現役として使用されているキリン式圧搾機は、おそらく日本国内でここだけと考えられており、極めて貴重な産業遺産です。
見どころ・魅力
百年蔵の圧倒的な空間
蔵の扉をくぐると、そこはまるで明治時代にタイムスリップしたかのような空間が広がります。薄暗い蔵内には20本近い杉の大桶が所狭しと並び、土塀の壁や太い梁からは長い歳月の重みが感じられます。蔵全体に染みついた酵母菌や乳酸菌は福岡醤油店の醤油の味の源であり、屋根瓦が真っ黒に変色しているのもこれらの微生物が棲みついている証拠です。蔵を建て替えたり桶を新調したりすれば、この味は二度と再現できないのだといいます。
キリン式圧搾機
蔵見学の最大の見どころとなるのが、登録有形文化財にも指定されたキリン式圧搾機です。100年以上にわたって現役で使い続けられているこの装置は、蔵の中で圧倒的な存在感を放っています。てこの原理を利用してゆっくりともろみを搾る仕組みを間近で見学でき、日本の伝統的な醸造技術の精巧さを肌で感じることができます。
手造りの麹づくり
ほとんどの醤油メーカーが脱脂加工大豆を使用する中、福岡醤油店では昔ながらの丸大豆(三重県産)と小麦を原料に用いています。大釜で蒸した大豆と小麦に麹菌を混ぜ合わせ、「麹蓋(こうじぶた)」と呼ばれる木製の浅箱に広げ、温度と湿度を管理した製麹室(せいきくしつ)で3日間かけて麹を育てます。仕込まれたもろみは杉の大桶の中で1年半から2年以上をかけてじっくりと熟成されます。
蔵見学と体験プラン
福岡醤油店では年間を通して蔵見学を受け付けています。電話での事前予約制で、無料の見学案内のほか、「アソビュー!」や「じゃらん」を通じた有料体験プランも用意されています。約80分の蔵仕事体験プラン(1人3,000円程度)では、より深く醸造の世界を体感でき、約30分の見学+お土産付きプラン(1人1,500円程度)も人気です。さらに、伊賀上野の分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 伊賀上野 城下町」との共同企画として、宿泊者限定の醤油搾り体験やマイポン酢づくり体験も提供されています。
看板商品「はさめず」
福岡醤油店の看板商品「はさめず」は、「箸ではさめないひとつの料理」という意味が込められた醤油です。調味料でありながらそれ自体がひとつの料理であるという自信を名前に表しています。深みのある旨味が特徴で、つけ・かけ・煮物と幅広く使える万能醤油として愛されています。はさめずシリーズのほか、ポン酢醤油、味噌、ドレッシング、卵かけごはん専用醤油なども製造しています。平成25年(2013年)には他社に先駆けてハラル認証を取得し、イスラム圏のお客様にも安心してお使いいただける商品を展開しています。
周辺情報
島ヶ原は伊賀市の中でも特にのどかな山里で、昔ながらの日本の風景が残る地域です。福岡醤油店の周辺には以下のような観光スポットがあります。
- 観菩提寺(正月堂):福岡醤油店からほど近い場所にある古刹。天平勝宝3年(751年)に奈良東大寺の実忠和尚によって開創されました。楼門・本堂・秘仏の十一面観音立像は国の重要文化財に指定されており、毎年2月に行われる修正会(しゅしょうえ)は東大寺二月堂のお水取りに先立って行われることで知られています。
- 島ケ原温泉やぶっちゃ:福岡醤油店から約3.5kmに位置する天然温泉施設。源泉かけ流しの大浴場や展望露天風呂を備え、キャンプや農産物直売所も併設されています。蔵見学の後の休憩にぴったりです。
- 岩谷峡:木津川と小山川の合流地点にある景勝地。清流が流れる美しい渓谷で、散策を楽しむことができます。
- 伊賀上野城・伊賀流忍者博物館:島ヶ原から約12km。高石垣で知られる伊賀上野城と忍者体験ができる博物館があり、伊賀を代表する観光エリアです。
Q&A
- 外国語での案内はありますか?
- 蔵見学は基本的に日本語での案内となりますが、海外からのお客様も多数訪れています。百年蔵の空間や杉桶、キリン式圧搾機は言葉を超えて感動を伝えてくれます。翻訳アプリの活用や日本語ができる方との同行をおすすめします。事前にお電話でご相談ください。
- 見学に予約は必要ですか?
- はい、事前予約が必要です。お電話(0595-59-3121、9:00〜17:00)でご希望の日時をお伝えください。「アソビュー!」や「じゃらん」からの有料プラン予約も可能です。
- ハラル対応の商品はありますか?
- はい。福岡醤油店は平成25年(2013年)にハラル認証を取得しており、認証マーク付きの商品を販売しています。店頭およびオンラインショップでお求めいただけます。
- 公共交通機関でのアクセス方法は?
- JR関西本線「島ケ原駅」から徒歩約25分です。三重交通バスで「正月堂/東」バス停まで行けば徒歩約3分です。お車の場合は名阪国道「大内IC」から国道163号線経由で約15分です。
- 商品の購入はできますか?
- はい。蔵に併設された店舗ではさめずシリーズをはじめとする各種商品をお買い求めいただけます。公式オンラインショップ(hasamezu.com)やAmazonでも購入可能です。
基本情報
| 名称 | 福岡醤油店(ふくおかしょうゆてん) |
|---|---|
| 所在地 | 〒519-1711 三重県伊賀市島ヶ原1330 |
| 電話番号 | 0595-59-3121(9:00〜17:00) |
| 公式サイト | https://www.hasamezu.com/ |
| 創業 | 明治28年(1895年) |
| 蔵の建築年 | 明治37年(1904年) |
| 構造 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積約204㎡ |
| 文化財指定 | 登録有形文化財(建造物)、平成10年(1998年)4月21日登録 |
| 蔵見学 | 年中受付(電話またはオンライン予約による事前予約制) |
| アクセス | JR関西本線「島ケ原駅」から徒歩約25分/三重交通バス「正月堂/東」下車 徒歩約3分/名阪国道「大内IC」から車で約15分 |
参考文献
- 福岡醤油店 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/176756
- はさめずの醸造蔵 福岡醤油店(公式サイト)
- https://www.hasamezu.com/
- 福岡醤油店 — 観光三重(かんこうみえ)
- https://www.kankomie.or.jp/spot/4722
- 明治期の醤油蔵へタイムスリップ! — 観光三重 取材レポート
- https://www.kankomie.or.jp/report/1920
- 創業128年の醤油店が整えつつある"飛躍への準備" — TKC
- https://www.tkc.jp/ao/topics/202305_interview/
- 福岡醤油店(三重県伊賀市) — 職人醤油
- https://s-shoyu.com/kura/fukuoka/
- 株式会社福岡醤油店 — みえの企業まるわかりNAVI
- https://www.oshigoto.pref.mie.lg.jp/kigyonavi/3417
最終更新日: 2026.03.26