中六店舗:伊雑宮門前に佇む昭和初期の登録有形文化財
伊勢神宮の別宮・伊雑宮(いざわのみや)の鳥居前に堂々と構える中六店舗は、昭和4年(1929年)に旅館として建築された木造二階建ての建造物です。平成23年(2011年)に志摩市初の国の登録有形文化財に登録され、伊雑宮門前の歴史的景観を今に伝えています。現在は地元で愛される鰻料理の名店として営業を続けており、文化財建築の中で絶品の鰻丼を味わうという贅沢な体験ができる、全国的にも稀有な場所です。
歴史的背景
中六の歴史は江戸時代にまで遡ります。伊雑宮への参宮客をもてなす旅館として営まれてきた当店の屋号は、伊雑宮の御師(おんし)であった「中六太夫」に由来しています。御師とは、神社への参拝者を世話する案内役のことであり、この屋号からも当店と伊雑宮との深い結びつきが窺えます。
現在の建物が建てられた昭和4年以前は、伊雑宮の式年遷宮(20年に一度行われる社殿の建て替え)に合わせて建物を建て替えるのが慣例でした。しかし昭和4年以降はこの慣例を改め、補修を重ねながら建物を維持してきました。昭和30年代の旅館中六は8つの客室を有し、個人客35名・団体客60名を収容可能で、テレビ・麻雀・囲碁・将棋などの娯楽設備を備えていたと記録されています。
志摩市磯部町は古くから鰻料理の名所として知られています。磯部町を流れる川の上流で天然のウナギが獲れたことや、近くに養鰻場があったことが背景にあります。町内には天保元年(1830年)創業の老舗「川うめ」をはじめとする鰻料理店が軒を連ねており、中六も旅館時代から炭火焼きの鰻料理で評判を高めてきました。
文化財としての価値
平成23年(2011年)10月28日、中六店舗は国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。これは志摩市において初めての登録有形文化財であり、同年11月25日には志摩市長から所有者に登録証が手渡されました。
登録の理由として、昭和初期の門前町における商業建築の特徴を良好に伝えている点が評価されました。「集客を意識した開放的な外観」は、参宮客を迎え入れる門前の旅館としての機能を建築に反映したものであり、当時の門前町の賑わいを今に伝える貴重な存在です。隣接する神武参剣道場(同じく登録有形文化財)とともに、伊雑宮門前の歴史的景観の形成に大きく寄与しています。
建築の見どころ
中六店舗は木造二階建て、建築面積172平方メートルの建造物です。屋根は入母屋造(いりもやづくり)の桟瓦葺(さんがわらぶき)で、L字形の棟が特徴的です。一階には小さな入母屋造の角屋(つのや)が付設されており、外観に変化と奥行きを与えています。
建物は伊雑宮側に妻面(つまめん)を見せる配置となっており、二階には大きな掃き出し窓が設けられています。この開放的な窓の意匠が建物全体に軽快で親しみやすい印象を与えており、参拝客を自然と引き寄せるような佇まいを作り出しています。
一階には玄関・厨房・控室などが配され、二階には八畳間を主とした客室が並びます。かつての旅館の面影を色濃く残す座敷からは、伊雑宮の緑豊かな境内を眺めることができ、歴史ある空間で食事を楽しむという格別の趣があります。
訪問案内
現在の中六は鰻料理専門店として営業しています。メニューは鰻丼のみという潔さで、鰻の切れ数(3切れ・4切れ・5切れ)を選んで注文するスタイルです。ウナギは串を刺さずに一本のまま竹炭で焼き上げ、外はパリッと中はふんわりとした食感に仕上げます。甘めのタレは代々継ぎ足しながら使われてきた秘伝のもので、ご飯はタレをあらかじめ混ぜ合わせた「まぶしご飯」となっています。全品に漬物と肝吸いが付きます。
営業時間はおおむね11時から13時までで、不定休のため事前の電話確認をお勧めします。全席座敷席です。店舗裏手に駐車場が2台分ありますが、満車の場合は伊雑宮の駐車場を利用できます(その際は必ず参拝もお願いいたします)。
最寄り駅は近鉄志摩線の上之郷駅で、徒歩約5分です。車の場合は第二伊勢道路の白木インターチェンジから国道167号線を経由して約10分の距離にあります。
周辺の見どころ
中六店舗のすぐ隣には伊雑宮が鎮座しています。伊勢神宮内宮の別宮14社のうち伊勢国外に所在する唯一の別宮であり、古くから「志摩一の宮」と称えられてきました。毎年6月24日に行われる「磯部の御神田」(おみた)は、日本三大御田植祭のひとつとして国の重要無形民俗文化財に指定されています。境内には「きんちゃくぐす」と呼ばれる巾着形の大楠も見どころです。
隣接する神武参剣道場は、大正時代に建てられた剣道場で、中六店舗とともに登録有形文化財に登録されています。二つの文化財建造物が並ぶ門前の景観は、伊雑宮参拝の際にぜひご覧いただきたい風景です。
志摩市内にはこのほかにも、英虞湾を一望できる横山展望台、登録有形文化財の大王埼灯台や安乗埼灯台、志摩スペイン村、そして海女文化や真珠養殖の伝統が息づく豊かな海の文化圏が広がっています。伊勢志摩の歴史と自然を満喫する旅の一環として、ぜひ中六店舗にもお立ち寄りください。
Q&A
- 中六店舗とはどのような建物ですか?
- 中六店舗は、三重県志摩市磯部町上之郷にある木造二階建ての建造物です。昭和4年(1929年)に旅館として建築され、平成23年(2011年)に志摩市初の国の登録有形文化財に登録されました。入母屋造桟瓦葺のL字形の棟を持ち、集客を意識した開放的な外観が特徴です。現在は鰻料理店として営業しています。
- 「中六」という名前の由来は何ですか?
- 屋号の「中六」は、隣接する伊雑宮の御師(参拝者の案内・世話をする役職)であった「中六太夫」に由来しています。江戸時代から旅館として存在が確認されていますが、それ以前の歴史は定かではありません。
- 中六店舗で食事はできますか?
- はい。現在は鰻料理専門店として営業しており、鰻丼を提供しています。鰻の切れ数(3切れ・4切れ・5切れ)を選んで注文するスタイルです。串を使わず竹炭で焼き上げた鰻と、代々受け継がれてきた甘めのタレが特徴です。営業時間はおおむね11時~13時、不定休のため事前の電話確認をお勧めします。
- すぐ隣の伊雑宮はどのような神社ですか?
- 伊雑宮(いざわのみや)は伊勢神宮内宮の別宮で、別宮14社のうち伊勢国外に所在する唯一の社です。古くから「志摩一の宮」と称えられ、毎年6月24日に行われる御田植祭「磯部の御神田」は日本三大御田植祭のひとつとして国の重要無形民俗文化財に指定されています。
- 中六店舗へのアクセス方法を教えてください。
- 近鉄志摩線の上之郷駅から徒歩約5分です。車の場合は第二伊勢道路の白木インターチェンジから国道167号線経由で約10分です。店舗裏手に駐車場が2台分ありますが、満車の場合は伊雑宮の駐車場を利用できます(参拝もお忘れなく)。
基本情報
| 名称 | 中六店舗(なかろくてんぽ) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成23年(2011年)10月28日 |
| 建築年 | 昭和4年(1929年)/昭和41年~平成元年改修 |
| 構造 | 木造2階建、入母屋造桟瓦葺、建築面積172㎡ |
| 所在地 | 〒517-0208 三重県志摩市磯部町上之郷字上ノ里392他 |
| アクセス | 近鉄志摩線 上之郷駅より徒歩約5分/第二伊勢道路 白木ICより車で約10分 |
| 電話番号 | 0599-55-0028 |
| 営業時間 | おおむね11:00~13:00(不定休・事前に電話確認推奨) |
参考文献
- 中六 (三重県) - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%85%AD_(%E4%B8%89%E9%87%8D%E7%9C%8C)
- 中六店舗 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/241303
- 志摩市の文化財 - 志摩市ホームページ
- https://www.city.shima.mie.jp/kakuka/kyouiku/syogaigakusyusportska/bunkazaimaizobunkazai/1454320303491.html
- うなぎ御料理 旅館 中六 - 志摩市観光協会
- https://www.kanko-shima.com/purpose/1313/
- 支部内の登録有形文化財 - 三重県建築士会志摩支部
- https://shima-kenchikushikai-mie.jimdofree.com/
- 伊雑宮 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E9%9B%91%E5%AE%AE
最終更新日: 2026.04.13