類聚国史巻第廿五:菅原道真が遺した古代日本史の至宝

仙台市にある東北大学の厳重に管理された収蔵庫には、日本の歴史学にとって計り知れない価値を持つ国宝が眠っています。それが「類聚国史巻第廿五」です。平安時代を代表する学者・菅原道真が宇多天皇の勅命を受けて編纂したこの大規模な歴史書は、古代日本の正史を主題別に分類・再編した画期的な著作であり、現存するわずかな巻のひとつとして、日本の文化遺産の中でもとりわけ重要な位置を占めています。

892年(寛平4年)に完成した類聚国史は、宮廷の政務において先例を調べるための実用的な参考書として、また学術的な歴史資料として編纂されました。東北大学が所蔵する巻第廿五は「帝王部」第五に該当し、古代天皇の退位や崩御、追号に関する貴重な記録を伝えています。

類聚国史とは

類聚国史は、日本の六国史——『日本書紀』『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』——に記された内容を、年代順ではなく主題別に分類・編纂した歴史書です。中国の唐代に盛んに作られた「類書」の手法に倣い、菅原道真がその膨大な知識と学識をもって完成させました。

現存する分は、神祇・帝王・後宮・人・歳時・音楽・賞宴・奉献・政理・刑法・職官・文・田地・祥瑞・災異・仏道・風俗・殊俗の18の分類(類聚)にまとめられています。元来は本文200巻、目録2巻、帝王系図3巻の合計205巻から成っていたとされますが、応仁の乱(1467〜1477年)をはじめとする戦乱によりその大半が散逸し、現在は約62巻が伝わるのみです。

類聚国史の特筆すべき点は、原文主義を貫いていることです。道真は六国史の記事を引用する際、原文をそのまま転載し、余計な文章の改変を一切排しました。このため、特に大部分が失われている『日本後紀』の内容を復元するための資料として、極めて重要な価値を持っています。

巻第廿五の内容:帝王部第五

東北大学が所蔵する巻第廿五は、帝王部の第五にあたります。帝王部の第一から第四は、歴代天皇の誕生・即位・崩御・譲位などの記事が収められていたと考えられていますが、その多くは現存していません。

巻第廿五の前半は「太上天皇」の項目で、持統天皇以下11人の退位と崩御に関する記事が記されています。後半は「追号天皇」の項目で、岡宮御宇天皇(草壁皇子)をはじめとする4人が没後に天皇号を贈られた経緯などが収録されています。これらの記録は、古代日本の皇位継承や宮廷の儀礼に関する貴重な歴史的証拠を提供しています。

国宝に指定された理由

類聚国史巻第廿五は、1952年(昭和27年)11月22日に国宝に指定されました。その背景には、複数の重要な要因があります。

第一に、この写本は平安時代後期に書写された古写本であり、類聚国史の現存する写本の中でも最も古い部類に属します。寸法は縦約27.9cm、横約159.4cmの巻子装で、一人の手によるものではなく、数人の書き手によって書写されたことが判明しており、当時の写本文化を知る上でも興味深い資料です。

第二に、全200巻のうち約62巻しか現存しない中で、各巻が持つ学術的価値は計り知れません。特に六国史の本文校訂や、散逸した『日本後紀』の復元に不可欠な資料です。

第三に、本巻の来歴が極めて由緒あるものです。もともと壬生官務家(みぶかんむけ)の所蔵でした。壬生家は太政官の事務を司る弁官首座(官務)の職を継承した小槻氏の家柄であり、公文書の管理と先例調査を職務としていたため、類聚国史のような参考書を所蔵していたのは必然でした。その後、明治・大正期の碩学・狩野亨吉(1865〜1942)の収集を経て、東北大学の所蔵に帰しました。

菅原道真:学問の神様と類聚国史

菅原道真(845〜903)は、平安時代前期を代表する文人官僚です。優れた漢詩人・学者として名声を博し、右大臣にまで昇進しましたが、政治的陰謀によって大宰府に左遷され、その地で没しました。没後、都では落雷や疫病などの天変地異が相次ぎ、これが道真の怨霊によるものと恐れられたため、やがて「天神様」として神格化されました。現在、全国に約12,000社あるとされる天満宮・天神社は、学問の神様として受験生をはじめ多くの人々の信仰を集めています。

類聚国史の編纂は、道真の学者としての最大の業績のひとつです。宇多天皇の信任を受けた道真は、六国史という膨大な史料群を主題別に整理するという壮大な事業を成し遂げました。原文を忠実に保存するという編纂方針は、千年以上の時を超えて現代の歴史研究に貢献し続けています。

狩野文庫と東北大学

巻第廿五が仙台の地に伝わった経緯も、日本の学術コレクション史における興味深い一章です。この巻を含む膨大な蔵書を収集したのは、旧制第一高等学校校長や京都帝国大学文科大学長を歴任した狩野亨吉です。

狩野の親友であった澤柳政太郎(東北帝国大学初代総長)の尽力により、蔵書は一括して東北大学に譲渡されました。その際、狩野は蔵書を分散させず東北大学に永久に保管することを条件としたと伝えられています。その後、追加購入や寄贈を含め、約108,000冊に及ぶ大コレクションが形成されました。

「古典の百科全書」「江戸学の宝庫」とも称される狩野文庫には、和漢書古典を主体とした幅広い領域の資料が含まれています。その中でも国宝2点——類聚国史巻第廿五と延久5年(1073)写の『史記』孝文本紀第十——は、コレクションの至宝として大切に守られています。現在、東北大学はデジタルアーカイブの整備を進めており、一部の貴重資料は高精細画像で世界中から閲覧できるようになっています。

仙台とその周辺の魅力

類聚国史巻第廿五が所蔵されている東北大学片平キャンパスは、JR仙台駅から西へ約1kmの場所に位置しています。キャンパス内には大正・昭和初期の歴史的建造物が多く残り、中国の文豪・魯迅が医学を学んだ旧仙台医学専門学校の階段教室もあります。メタセコイアの並木道や桜並木は「仙台市緑の名所100選」にも選ばれ、散策にも最適です。

「杜の都」仙台は東北地方最大の都市であり、歴史・文化・グルメを楽しめる観光都市です。伊達政宗が築いた仙台城(青葉城)跡からは市街地を一望でき、近くには国宝・大崎八幡宮の華麗な桃山建築も見られます。日本三景のひとつ・松島はJR仙石線で約30分とアクセスも便利で、遊覧船クルーズや瑞巌寺の参拝など、見どころが豊富です。仙台名物の牛タン料理やずんだ餅も、ぜひお楽しみください。

訪問のご案内

国宝・類聚国史巻第廿五は極めて繊細な文化財であるため、常設展示は行われていません。東北大学では、特別展示の機会に公開されることがあります。展示スケジュールについては、東北大学附属図書館のウェブサイトをご確認いただくか、直接お問い合わせください。

仙台へは東京から東北新幹線で約1時間半とアクセスが良好です。片平キャンパスへはJR仙台駅西口から徒歩約15分、または仙台市地下鉄東西線「大町西公園駅」下車徒歩約5分です。市バス「東北大正門前」下車もご利用いただけます。仙台駅周辺には観光案内所があり、英語をはじめ多言語でのサポートが受けられます。

Q&A

Q類聚国史巻第廿五の実物を見ることはできますか?
A厳重な温湿度管理のもと保管されているため、常設展示は行われていません。ただし、東北大学では特別展示の際に公開されることがあります。展示予定については東北大学附属図書館のウェブサイトをご確認ください。また、東北大学デジタルアーカイブでは高精細画像を閲覧することも可能です。
Q類聚国史はなぜ重要なのですか?
A類聚国史は菅原道真が六国史の記事を主題別に分類・編纂した歴史書で、宮廷での先例調査に活用されました。原文を忠実に保存しているため、特に大部分が散逸した『日本後紀』の復元に不可欠な資料として、現代の歴史研究においても極めて高い価値を持っています。
Q東北大学片平キャンパスへのアクセス方法は?
AJR仙台駅西口から徒歩約15分です。仙台市地下鉄東西線「大町西公園駅」からは徒歩約5分、市バス「東北大正門前」バス停からもアクセスできます。東京からは東北新幹線で約1時間半で仙台駅に到着します。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A仙台城(青葉城)跡、仙台市博物館、国宝・大崎八幡宮、一番町商店街などが近くにあります。少し足を延ばせば、日本三景のひとつ松島へもJR仙石線で約30分です。仙台名物の牛タンやずんだ餅もぜひお楽しみください。
Q外国語での案内はありますか?
A東北大学のデジタルアーカイブは日本語と英語に対応しています。仙台駅周辺の観光案内所では英語をはじめ多言語でのサポートが受けられます。図書館の貴重書閲覧については事前にメールでお問い合わせいただくことをお勧めします。

基本情報

名称 類聚国史巻第廿五(るいじゅうこくしまきのだいにじゅうご)
文化財指定 国宝(1952年〈昭和27年〉11月22日指定)
種別 書跡・典籍
時代 平安時代後期(写本)、原本は892年(寛平4年)完成
編纂者 菅原道真(845〜903)
形態 巻子装 1巻、縦約27.9cm × 横約159.4cm
所有者 国立大学法人東北大学
所在地 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
アクセス JR仙台駅西口から徒歩約15分、仙台市地下鉄東西線「大町西公園駅」下車徒歩約5分
公開 特別展示時のみ(東北大学附属図書館ウェブサイトにて要確認)
デジタルアーカイブ 東北大学総合知デジタルアーカイブ(touda.tohoku.ac.jp)にて閲覧可能

参考文献

東北大学総合知デジタルアーカイブコレクションデータベース — 国宝展示
https://touda.tohoku.ac.jp/collection/database/library/exhibition/20240325_natl_treas
東北大学文学研究科デジタルミュージアム「歴史を映す名品」— 類聚国史巻二十五
https://www.sal.tohoku.ac.jp/digital_museum/04.html
宮城県公式ウェブサイト — 指定文化財〈国宝〉類聚国史巻第廿五
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bunkazai/01kokusi.html
文化遺産オンライン — 類聚国史巻第廿五
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/150231
東北大学総合知デジタルアーカイブ — 狩野文庫
https://touda.tohoku.ac.jp/collection/database/library/collection/kano
Wikipedia — 類聚国史
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%9E%E8%81%9A%E5%9B%BD%E5%8F%B2

最終更新日: 2026.03.20