法文学部の記憶を留める唯一の校舎
東北帝国大学法文学部は大正11年(1922年)に設置された、帝国大学として初めて法・文・経済の三分野を一学部に統合した組織である。自由闊達な学風で知られたこの学部の校舎建築のうち、現存するのは昭和2年(1927年)竣工の第二研究室ただ一棟にすぎない。令和3年(2021年)10月14日、国の登録有形文化財に登録された(登録番号04-0200)。
建物が残ったのは幸運の産物でもあった。昭和20年(1945年)7月の仙台空襲では三階の研究室のいくつかが焼失したものの、延焼を免れて全焼には至らなかった。戦後、屋上に木造の研究室が増築された時期があるが、のちに撤去され、外観は建設当初に近い姿へ戻っている。
矢筈貼りの煉瓦タイルが飾る正面意匠
登録基準は「造形の規範となっているもの」。その評価の核心は南正面の構成にある。正面中央を張り出して玄関部とし、頂部に切妻破風を掲げる。この中央部にアーチ窓と矩形窓を縦に積み、窓間の壁面に煉瓦タイルを矢筈に貼って充填する。矢筈貼は矢の末端の切込みに由来する斜め交互の貼り方で、遠目には壁面に細かな綾が走るように見える。
両翼の壁面は吹付仕上として二連の矩形窓を規則的に並べるにとどめ、装飾を中央に集中させることで小規模ながら求心的な立面を実現している。窓枠を煉瓦で縁取る手法も各所に用いられ、文化庁の解説文はこれらのアクセントを備えた校舎を「愛らしい」と形容する。建築面積374平方メートル、内部は中廊下式に諸室を並べる堅実な平面である。
平成16年(2004年)の改修を経て、現在は東北大学会計大学院の研究棟として使用されている。
片平キャンパス散策の中で
片平キャンパスは東北帝国大学開学の地であり、構内は一般に開放されている。ただし本建物は会計大学院の研究室・事務室として現役で使われているため、内部の見学はできない。鑑賞は外観が中心となる。
南正面を全体として眺めると、簡素な両翼、装飾を凝らした中央部、その頂部を締める切妻破風という三段の構成が読み取れる。徒歩数分の距離には半円アーチのロマネスク風でまとめた旧附属図書館閲覧室、柱形の垂直線を強調した旧理学部化学教室棟が立ち、昭和初年前後の大学建築が示した意匠の幅を一度の散策で比較できるのが片平の面白さである。
地下鉄東西線青葉通一番町駅、南北線五橋駅から徒歩約10分。
Q&A
- 内部を見学することはできますか。
- できません。会計大学院の研究棟として現役で使用されているためです。片平キャンパスの構内は開放されているので、外観は自由に見学できます。
- 矢筈貼とはどのような貼り方ですか。
- 矢の末端の弦を受ける切込み(矢筈)の形に由来する、タイルを斜めに交互に組む貼り方です。本建物では正面中央の窓間壁に煉瓦タイルの矢筈貼が用いられています。
- なぜこの建物が貴重なのですか。
- 帝国大学初の法・文・経済統合学部であった東北帝国大学法文学部の校舎建築として、現存する唯一の建物だからです。意匠面でも登録基準「造形の規範となっているもの」に該当すると評価されています。
- 戦災の影響はありましたか。
- 昭和20年(1945年)の仙台空襲で三階の研究室の一部が焼失しましたが、全焼は免れ、戦後も校舎として使い続けられました。
基本情報
| 名称 | 旧東北帝国大学法文学部第二研究室 |
|---|---|
| 所在地 | 宮城県仙台市青葉区片平二丁目1-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 令和3年(2021年)10月14日登録 登録番号04-0200 |
| 登録基準 | 造形の規範となっているもの |
| 構造・規模 | 鉄筋コンクリート造3階建、建築面積374平方メートル |
| 建設年代 | 昭和2年(1927年)/平成16年(2004年)改修 |
| 所有者 | 国立大学法人東北大学 |
| 公開状況 | 外観のみ見学可(会計大学院研究棟として使用中のため内部非公開) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース — 旧東北帝国大学法文学部第二研究室
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013912
- 東北大学 — 東北大学の登録有形文化財
- https://www.bureau.tohoku.ac.jp/somu/bunkazai/kenzobutsu/
最終更新日: 2026.07.02