旧藤田家住宅
間仕切りの柱に「天明七未歳十二月吉日」と刻まれている。この刻銘によって、建てられた年が天明7年(1787年)の暮れと特定できる。建築年がはっきりわかる民家としては、宮崎県内で最も古い一棟である。
もとは宮崎県北西部、熊本・大分との県境に近い山あいの五ヶ瀬町大字三ヶ所に建っていた。いまその場所に建物はない。昭和52年(1977年)10月から翌53年9月にかけて解体・移築され、宮崎市の宮崎県総合博物館に隣接する民家園へ移された。来館者が目にするのは博物館本館から歩いてすぐの林の中であり、もともと建っていた山村ではない。
桁行はおよそ11.6メートル、梁間はおよそ7.8メートル。床面積は約90平方メートルで、豪農や武家の屋敷に比べれば小ぶりな茅葺きの一棟である。
重要文化財に指定された理由
国による重要文化財の指定は昭和48年(1973年)2月23日。評価されたのは規模や装飾ではなく、地域からほとんど失われた山村民家の古い形式を、その間取りが保っている点にある。
日本の農家の多くは土間を中心に構成される。土間は煮炊きや脱穀、農具の収納など、土の持ち込まれる作業のための広い空間である。藤田家住宅にはこの土間がない。内部は「オモテ」と「ヘンヤ」と呼ばれる二室だけで、いずれも板敷きである。土間を持たない古い農家は珍しく、二室構成の簡素さは、のちに一般化する複雑な間取りよりも古い建築の系譜を示している。
この間取りは、五ヶ瀬町を含む高千穂地方に見られる並列型に属する。これほどの古さと形式を備えた民家が九州中南部にわずかしか残っていないため、当時の山間部の暮らしと建築を知るうえで、藤田家住宅は基準となる資料に位置づけられている。
見どころ
はじめに目を引くのは屋根である。寄棟造に深い茅を葺き、出入口は妻側ではなく軒の長い平側に設けられている。葺き替えを重ねてきた茅の大きな勾配が小さな建物に確かな重みを与え、五ヶ瀬の高地の雪や寒さを思わせる。
内部へ近づくと、土間がないことそのものが見どころになる。薄暗い土の入口があるはずの場所から、すぐに板の間が始まる。二室は接客と作業を分ける構成ではなく、ひと続きの居住空間として読みとれる。
刻銘のある間仕切柱を探してほしい。この一本があるからこそ、建築年を1787年と正確に置くことができる。地方の建物がみずからの建造年をこれほど明快に記す例は多くない。柱まわりの仕口や、煙にいぶされた木肌も、立ち止まってじっくり眺めたい。
周辺の見どころとアクセス
藤田家住宅は、民家園に集められた四棟のうちの一棟である。隣に建つ高原町の旧黒木家住宅も国の重要文化財で、椎葉村の民家と西米良村の米良の民家は宮崎県指定の有形文化財にあたる。県内各地の建築様式を、数分の歩みでひと通り見渡せる構成になっている。
民家園のそばには宮崎県総合博物館が建ち、自然史・歴史・民俗の常設展示室を備える。常設展は無料で入館できる。この一帯は神武天皇を祀る宮崎神宮の杜の中にあり、参道の静かな木立とあわせて訪ねると過ごしやすい。
最寄りはJR日豊本線の宮崎神宮駅で、徒歩およそ10分。木造茅葺きの建物のため、公開日や見学の条件は変わることがある。訪問前に博物館の最新情報を確認しておくとよい。
Q&A
- 建てられた五ヶ瀬町で見ることはできますか。
- できません。昭和52〜53年(1977〜1978年)に五ヶ瀬町から移築され、現在は宮崎市の宮崎県総合博物館の民家園に建っています。
- 天明7年の建築とどうしてわかるのですか。
- 内部の間仕切柱に天明7年(1787年)十二月の刻銘があり、これによって建築年が定まっています。
- この建物のどこが珍しいのですか。
- 多くの農家にある土間がありません。内部は板敷きの「オモテ」「ヘンヤ」の二室のみで、山間部の古い民家形式を反映した構成です。
- 入館料は必要ですか。
- 博物館の常設展示は無料で入館できます。公開日や民家の見学条件は変わることがあるため、博物館へ直接ご確認ください。
- 近くに他に見るものはありますか。
- 民家園には旧黒木家住宅など三棟の歴史的民家が並びます。宮崎県総合博物館と宮崎神宮の杜も隣接しています。
基本情報
| 名称 | 旧藤田家住宅(旧所在 宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町) |
|---|---|
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 昭和48年(1973年)2月23日指定 |
| 員数 | 1棟 |
| 建築年代 | 天明7年(1787年)頃、江戸時代後期 |
| 構造・規模 | 寄棟造・平入・茅葺 桁行約11.6m、梁間約7.8m、床面積約90.44m² |
| 旧所在地 | 宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町大字三ヶ所 |
| 現所在地 | 宮崎県宮崎市神宮二丁目4番4号(宮崎県総合博物館 民家園) |
| 移築 | 昭和52年(1977年)10月〜昭和53年(1978年)9月 |
| 所有者 | 宮崎県(旧所有者:藤田平雄氏) |
| アクセス | JR日豊本線 宮崎神宮駅から徒歩約10分 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3623
- 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/196280
- 宮崎県総合博物館 民家園「五ヶ瀬町 旧藤田家住宅」
- https://www.miyazaki-archive.jp/museum/minkaen/gokase/
- 宮崎県総合博物館「民家園とは」
- https://www.miyazaki-archive.jp/museum/minkaen/
最終更新日: 2026.06.02