明治38年の刻銘をもつ石造二階建
松浦家住宅石蔵は、宮崎県宮崎市大字柏原字高野迫にある明治38年(1905年)建造の石造二階建の蔵で、平成28年(2016年)2月25日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
建築面積は約25平方メートル。間口も奥行も5メートル前後という小規模な建物に、二階分の階高と瓦葺の屋根が載る。農家の蔵が守るのは、母屋が焼けても代えのきかないものである。籾や米、冠婚葬祭の膳椀、証文の類、副業の道具。石造にする理由はまず防火にあった。
柏原は宮崎市の中西部、生目地域に属する。市街地からは西へ直線で6キロほど。北へ2キロ足らずの跡江には、全長100メートルを超える前方後円墳を三基含む生目古墳群(国史跡)が広がっており、この一帯が古くから人の営みを受け止めてきた台地であることがわかる。
建造年は推定ではない。宮崎県の文化財情報によれば、石材そのものに明治38年の刻銘が残る。
登録基準は「再現することが容易でないもの」
登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。重要文化財の指定が現状変更に許可を要するのに対し、登録は届出制をとる。おおむね建設後50年を経た建造物を広く受け皿とし、使い続けながら残すことを前提とする仕組みで、実際に登録物件の多くは今も住まいや仕事場として使われている。
登録には三つの基準があり、松浦家住宅石蔵に適用されたのは「再現することが容易でないもの」であった。文化庁の解説文は本件を和洋意匠を混交した秀作と評し、当地域の石工による高い技術を表すとしている。基準の選択と解説文の力点が一致している例である。
宮崎県の記載はさらに具体的で、かつて高岡町などに石工が多数存在したため当地域には石蔵が多数残る、と地域的な背景を明示する。松浦家の蔵は第83回登録、登録番号45-0083の一つ手前にあたる45-0082。同じ回には西へ2キロほどの大字富吉に建つ土器屋家住宅石蔵と石塀が並んで登録されており、こちらも屋根下にロンバルド帯を巡らせ、隅石を強調するという同系の手法をとる。
一軒の趣味ではなく、施主と石工の層の厚さがあってはじめて成立する仕事だった。
壁面に読む和洋の意匠
まず軒下を見上げたい。屋根下に巡るのはロンバルド帯である。北イタリアのロマネスク建築に由来する小アーチの連続文様で、明治期の日本には西洋建築書や煉瓦造の技術とともに入った。宮崎の農村の蔵に、切石で刻まれたそれが載っている。
隅石は壁面から浮き上がらせて強調してある。一石ずつが独立した塊として読め、垂直の稜線に一日じゅう影の線が走る。
二階床の高さでは、石が帯状に張り出して建物を一周し、その帯に唐草文が彫り込まれている。出入口の脇には錫杖彫。僧や巡礼の持つ錫杖にちなむ彫りで、上のロンバルド帯とはまったく出自の異なる意匠である。
西洋の教会由来の連続アーチと、仏具に名を借りた彫刻と、和の唐草。それらが幅5メートルほどの壁面に同居する。石工は迷っていたのではなく、手持ちの技をすべて見せていたのだろう。
実際の見学については書いておく必要がある。松浦家住宅は個人の住宅であり、内部は公開されていない。受付も公開期間も設定されていない。見られるのは公道からの外観で、撮影も公道からの範囲にとどめたい。敷地には立ち入らないこと。交通は宮崎市街から車でおよそ30分弱、生目地域への路線バスは本数が限られるため、レンタカーかタクシーが現実的である。無料開放されている生目古墳群と組み合わせれば半日の行程になる。
Q&A
- 松浦家住宅石蔵は見学できますか。内部は公開されていますか。
- 個人の住宅であり、内部は公開されていません。受付や公開期間、拝観料の設定もありません。観光施設として運営されている物件ではないため、公道から外観を眺めるかたちになります。
- 松浦家住宅石蔵の写真撮影はできますか。
- 公道から外観を撮影する分には通常問題になりません。ただし敷地内に立ち入っての撮影や、塀越しに生活空間を写すことは避けてください。現に人が暮らしている住まいとして接するのが前提です。
- 松浦家住宅石蔵へは宮崎駅からどう行きますか。
- 柏原は宮崎駅から西へ直線で約6キロ、生目地域にあたります。車でおよそ30分弱です。この方面への路線バスは本数が限られるため、レンタカーかタクシーを利用するのが確実です。
- 松浦家住宅石蔵のロンバルド帯とは何ですか。
- 軒下に横一列に並ぶ小アーチの連続装飾で、北イタリアのロマネスク建築に由来します。明治期の日本には西洋建築の技術書や煉瓦造の実作を通じて伝わり、地方の石工にも新しい技術の指標として受け入れられました。
- 松浦家住宅石蔵の近くに同じような石造の登録有形文化財はありますか。
- 西へ2キロほどの大字富吉にある土器屋家住宅石蔵・石塀が、同じ平成28年2月25日に同じ回で登録されています。同じ敷地内の松浦家住宅門柱及び石塀も同時登録です。
基本情報
| 名称 | 松浦家住宅石蔵(まつうらけじゅうたくいしぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 宮崎県宮崎市大字柏原字高野迫986イ |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号45-0082/第83回登録 |
| 指定年 | 平成28年(2016年)2月25日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 石造2階建、瓦葺、建築面積25平方メートル/明治38年(1905年)建造 |
| 所有者 | 個人(国指定文化財等データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。公道から外観のみ |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 松浦家住宅石蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011027
- 文化遺産オンライン 松浦家住宅石蔵
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/221087
- みやざきの文化財情報(宮崎県) 松浦家住宅石蔵
- https://www.miyazaki-archive.jp/d-museum/mch/details/view/4026
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 土器屋家住宅石蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011029
最終更新日: 2026.08.06