瓜生野八幡のクスノキ群
宮崎市北部、瓜生野地区にある八幡神社の境内には、目通り幹回り9.6メートルに達するクスノキの巨樹が立っている。根回りは約16メートル、樹高は約25メートル。社殿の右後方にそびえるこの一本を含め、社殿を取り囲むように生育する16本のクスノキの大樹が、昭和26年(1951年)6月9日に国の天然記念物に指定された。単木の巨樹としてではなく、有数の「群」として認められた点に、この社叢の特異性がある。
16本の内訳は、目通り9.6メートル超が1本、6.6メートル以上9.6メートル未満が3本、3メートル以上6.6メートル以下が8本、3メートル以下が4本。樹高30メートルを超えるものもある。クスノキの間にはアラガシ、ナギ、シロダモ、ヤマビワ、ヤブツバキ、バクチノキ、カゴノキ、タブノキ、ヒイラギなどの常緑広葉樹が混生し、かつて南九州の沿岸部に広がっていた照葉樹林の姿を、社叢という形でとどめている。
樹より古い、神社の創建
八幡神社(旧称・瓜生野八幡宮)の創建は、社蔵の棟札によれば天平9年(737年)、聖武天皇の御代にさかのぼる。祭神は足仲彦命(仲哀天皇)、誉田別命(応神天皇)、息長足姫命(神功皇后)の八幡三神。一帯はかつて豊前国・宇佐八幡宮の荘園「瓜生野別府」が広がっており、その鎮守として勧請されたものと考えられている。
所蔵の棟札は再興の記録もとどめており、延長2年(924年)、元久元年(1204年)、慶長16年(1611年)、寛文8年(1668年)、寛延3年(1750年)と、千年余にわたって繰り返し社殿が造営し直されてきた。明治4年(1871年)の神社制度改革によって現在の「八幡神社」に改称され、郷社に列せられた。
地元では今も「瓜生野八幡宮」「瓜生野八幡さん」と親しみを込めて呼ばれている。
「群」としての貴重性
クスノキの巨樹を国の天然記念物に指定する例は珍しくない。鹿児島・蒲生の大クスや愛知・熱田神宮の大クスなど、単木として指定された巨樹は全国に複数存在する。一方、これだけの規模のクスノキが「群」として密集している例は限られており、瓜生野八幡の社叢が選ばれたゆえんがそこにある。
指定基準は文化財保護法に基づく「(一)名木、巨樹、老樹、畸形木、栽培植物の原木、並木、社叢」。瓜生野八幡のクスノキ群は、このうち巨樹・老樹・社叢の三項目を同時に満たしている。
クスノキ(Cinnamomum camphora)は西日本では古くから神木として尊ばれてきた樹種である。樹齢千年を超える個体もあり、樟脳を含む芳香性の樹脂が腐朽や虫害を防ぐため、寺社の境内で長く生き延びる。飛鳥・奈良時代の仏像彫刻にクスノキ材が好んで用いられたのも、その耐久性と扱いやすさによる。「クスノキ」という名は、不思議さや薬効を意味する古語「クスシ」に由来するとも言われる。
境内で目を向けたいもの
最大の巨樹は社殿の右後方にあり、根元に立つと幹の太さに気圧される。大人数人が手をつないでも回りきれないほどで、地上数メートルから水平方向へ伸びる大枝は、それ自体が一本の樹木のような厚みを持つ。樹齢は約800年と推定されており、平安時代末期から鎌倉時代初期の発芽と考えられている。
古いクスノキの幹の内部には大きな空洞を生じているものもある。樹齢を重ねた個体に起きる心材の腐朽現象だが、外側の生きた組織で長く自立できるため、構造的に脆弱になっているとは限らない。
同じく社殿の後方には、半壊した古墳の封土が残されている。盛り土の形は崩れているものの、人工の構造物であることは見て取れる。神社が古墳の近辺に立地している例は珍しくなく、八幡信仰が広まる以前からこの場所が祭祀の対象であった可能性を示唆している。
境内を歩きながら足元の落ち葉に注目すると、独特のすがすがしい香りに気づく。葉を指でつぶすと一段と強くなるこの香りは、樟脳の主成分カンファーによるもので、防虫剤や鎮痛薬として古くから利用されてきた。クスノキだけでなくアラガシ、シロダモ、タブノキなど照葉樹林を構成する樹種が混生する境内は、農地化や伐採が進む以前の宮崎平野の植生をとどめた、生きた標本でもある。
社宝として、仏光背一面が伝えられている。神仏習合期の名残を示す遺品で、通常は非公開。
参拝の実用情報
境内は終日開放されており、参拝料は不要。授与所や社務所は常駐ではないため、御朱印などを希望する場合は事前に確認するのが確実である。乗用車数台分の駐車スペースがある。最寄りの鉄道駅からは距離があり、宮崎市中心部から車で約25分というアクセス方法が一般的である。
クスノキの香りが強まるのは春から初夏。新葉が出る5月前後の境内は、樟脳の清涼感がもっとも際立つ。常緑樹のため通年で深い緑に包まれているが、午前中の斜光が枝葉のあいだから差し込む時間帯が、写真撮影には最も向いている。
近隣の見どころ
宮崎市内には、瓜生野八幡と併せて訪れる価値のある神社・公園が点在している。神武天皇を祀る宮崎神宮は車で20分ほど南。境内の狭野杉の森と、春に開花する国指定天然記念物のオオシラフジで知られる。隣接する県立平和台公園には、高さ37メートルの平和の塔と、約400体の埴輪レプリカを並べた「はにわ園」がある。
もう少し足を伸ばすなら、海岸線沿いに21キロほど南下した青島がある。「鬼の洗濯板」と呼ばれる隆起海床と、ビロウ樹の亜熱帯ジャングルに囲まれた青島神社が一帯のシンボルである。瓜生野の照葉樹林と青島の亜熱帯植生を一日で巡れば、宮崎の温暖な気候が育てた信仰の風景を対比的に体験できる。
Q&A
- クスノキの樹齢はどれくらいですか。
- 最大のクスノキは推定樹齢約800年とされ、平安時代末期から鎌倉時代初期の発芽と見られる。他の大型個体も同程度の樹齢を持つと考えられているが、小型の個体はそれより若い。
- 参拝はいつでもできますか。
- 境内は終日開放されており、参拝料は不要。ただし社務所は常駐ではないため、御朱印や授与品が必要な場合は事前に確認するのが安全。
- 公共交通機関でアクセスできますか。
- 徒歩圏内に鉄道駅はなく、路線バスの便も限られる。実質的には宮崎市中心部から自家用車またはタクシーで約25分という経路が一般的。
- なぜ神社にクスノキが多いのですか。
- 樹齢千年を超える個体も少なくない長寿の樹種であること、芳香成分カンファーが腐朽や虫害を防ぐこと、古くから神聖視されてきた信仰上の経緯などが重なっている。西日本では社殿より古くから境内に立つクスノキも珍しくない。
- 社殿後方の古墳は何ですか。
- 古墳時代(3〜7世紀)にさかのぼると考えられる土盛りの半壊遺構。正式な発掘調査は行われていないが、天平9年(737年)の創建以前からこの場所が祭祀の対象であった可能性を示唆する。
基本情報
| 名称 | 瓜生野八幡のクスノキ群(うりうのはちまんのくすのきぐん) |
|---|---|
| 所在地 | 〒880-0045 宮崎県宮崎市大瀬町5714(八幡神社境内) |
| 指定区分 | 国指定天然記念物 |
| 指定年月日 | 昭和26年(1951年)6月9日 |
| 指定基準 | (一)名木、巨樹、老樹、畸形木、栽培植物の原木、並木、社叢 |
| 本数 | クスノキ16本(最大個体目通り9.6メートル) |
| 最大個体 | 社殿右後方の1本、目通り幹回り約9.6メートル、根回り約16メートル、樹高約25メートル、推定樹齢約800年 |
| 関連神社 | 八幡神社(旧称・瓜生野八幡宮)/祭神:足仲彦命・誉田別命・息長足姫命/社伝による創建:天平9年(737年)/明治4年(1871年)に郷社 |
| 参拝 | 境内自由、終日開放 |
| アクセス | JR宮崎駅から車で約25分 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース「瓜生野八幡のクスノキ群」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/2940
- 文化遺産オンライン「瓜生野八幡のクスノキ群」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/206813
- 宮巡(宮崎県神社庁)「八幡神社(はちまんじんじゃ)(瓜生野)」
- https://www.m-shinsei.jp/m_shrine/八幡神社(はちまんじんじゃ)(瓜生野)/
- 宮崎市「瓜生野八幡神社のクスノキ群」
- https://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/institution/list/item648/
- 宮崎市「国指定天然記念物」
- https://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/culture/art/207.html
最終更新日: 2026.05.20