芦沢川に連なる明治の石積堰堤4基

芦澤石積堰堤は、長野県東筑摩郡麻績村麻の芦沢川に明治20年(1887年)に内務省が築いた4基の石積の砂防堰堤で、平成26年(2014年)10月7日にそろって国の登録有形文化財に登録された。読みは「あしざわいしづみえんてい」。下流から第一号・第二号・第三号・第四号と番号が振られ、登録は1基ずつ別々に行われている。

芦沢川は信濃川水系麻績川の流域にあり、麻績村の根尾地区で山あいの沢筋をつくる。第二号は第一号の90メートル上流、第三号はそこから190メートル上流、第四号はさらに300メートル上流に位置し、第一号から第四号までは沢に沿っておよそ580メートルになる。

文化庁の記録による4基の規模は次のとおりである。

  • 芦澤第一号石積堰堤:堤長10メートル、堤高4.2メートル
  • 芦澤第二号石積堰堤:堤長12メートル、堤高3.8メートル
  • 芦澤第三号石積堰堤:堤長16メートル、堤高4.0メートル
  • 芦澤第四号石積堰堤:堤長15メートル、堤高6.8メートル

最上流の第四号だけが高さ6.8メートルと抜きん出ており、下の3基は堤高を4メートル前後に抑えている。

内務省の信濃川水源砂防と芦澤

芦澤石積堰堤は、明治政府が信濃川の上流で進めた砂防事業のなかで築かれた。長野県犀川砂防事務所によると、内務省は下流への土砂流出を抑え、荒れた水源の山地を治めるため、明治14年(1881年)から千曲川・犀川流域で土砂の流出が多い12の支川を選び、直轄の砂防工事に着手した。いまの犀川砂防事務所の管内では明治16年(1883年)に蜂ヶ沢で、明治20年(1887年)に芦澤で工事が始まり、石積堰堤のほか山腹の柵止工や積苗工が施された。

芦澤の工事は、内務省土木局が明治44年(1911年)にまとめた『山地砂防工事歴』の「信濃川水源砂防工事結果概略」に記録があり、明治20年の4月から12月にかけて行われた。文化庁は第四号の解説で、土木監督署の制度が敷かれた後に内務省が実施した最初期の公共事業の遺構として貴重だと述べている。

麻績村は筑北盆地の北にあり、新第三紀の地層からなる崩れやすい地質の土地である。築造から130年以上を経たいまも、芦澤石積堰堤の4基は砂防施設として働き、下流の人家や田畑を土砂から守っている。

六つ巻の空石積と近代的な立面

芦澤石積堰堤は、加工していない安山岩などの野面石を、「六つ巻」と呼ばれる空積の工法で積み上げている。石の大きさは径50〜120センチメートルほどで、モルタルで固めずに石どうしの噛み合わせだけで積石を自立させる。長野県は、この積み方には高度な技術が要り、現在では施工が難しいとしている。石材は麻績村内のものが使われた。

形の面では、中央の一段低い水通し部と両脇の袖部を、直線的な構成ではっきり分けている。文化庁はこれを4基に共通する近代的な立面形状と評価する。堤頂部は弧を描くように湾曲させてあり、アーチの効果を期待した積み方とされる。

配置にも考え方がある。文化庁は第三号の解説で、堤高を抑えた緩い勾配の石積堰堤を沢筋に連ねることで河道を安定させ、斜面の植生回復を助けたと記す。1基の高い堰堤で土砂を受け止めるのではなく、低い堰堤を段々に重ねて川床の勾配をならす発想である。登録の基準は4基とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、登録番号は20-0455から20-0458まで続く。

石積堰堤を残しながら進めた砂防整備

登録の一方で、芦澤石積堰堤は現行の砂防施設の設計基準を満たしていなかった。下流には人家や避難場所、緊急輸送路に指定された施設があるため、平成26年度(2014年度)に芦澤の砂防事業が事業化された。平成28年(2016年)10月から平成29年(2017年)1月にかけて、行政・文化財・砂防の有識者と地元住民による芦澤砂防計画検討委員会が3回開かれ、石積堰堤の価値を損なわない計画がまとめられた。

中心となったのは、昭和37年(1962年)と昭和49年(1974年)に造られたコンクリートの谷止工2基の改築である。上流の石積堰堤に影響を及ぼさないよう、かさ上げではなく下流側に断面を足す方法を選び、令和元年度から令和4年度(2019年度から2022年度)にかけて土石流に対応した堰堤に造り替えた。表面には麻績村産の石を張り、明治の石積と風合いをそろえている。さらに下流には令和5年度から令和6年度(2023年度から2024年度)に透過型の砂防堰堤が新設され、こちらも地元の石で仕上げられた。

一連の整備は令和7年度(2025年度)に完了した。沢沿いの散策路は砕石で舗装され、石積堰堤を間近に見るための丸太の階段や木道、各施設の歴史や働きを説明する7基の看板、駐車場が設けられた。いまの芦澤では、明治の空石積の堰堤と、現代の技術で補強した堰堤を、同じ沢筋で見比べることができる。

見学とアクセス

芦澤石積堰堤は屋外の砂防施設で、見学に予約や料金は要らない。長野県砂防課の資料は見学条件を「特になし」、見学に適した時期を春から秋としている。沢沿いには約1キロメートルの散策路があり、長野県のブログによると、麻績村総合運動場の駐車場から最上流の第四号まで往復1時間ほどで歩ける。下流側から順に、第一号・第二号・第三号と補強された堰堤を見ながら登り、最後に第四号に出る道筋である。

最寄り駅はJR篠ノ井線の聖高原駅で、芦澤石積堰堤は駅の西およそ1キロメートルにある。車の場合、長野県犀川砂防事務所は、総合運動場の入口から県道12号(丸子信州新線)を西へ約400メートル進み、麻績森林建設の角を北へ入る道順を案内している。2021年時点の案内では、右折して約600メートル先の道路脇に砂利敷きの駐車場があり、そこから歩いて10分ほどだった。整備にあわせて、長野自動車道の麻績インターチェンジからの誘導標識も設けられている。

県の資料ではトイレの欄に印がなく、現地にトイレは示されていない。長野県は、足元の悪い場所や落石・落枝の危険があることに注意を促しており、砂防堰堤には一般に安全面から近づかないよう呼びかけている。堤体や水通し部には下りず、散策路や木道から眺めたい。撮影についての定めは県の資料に示されていない。

参考文献

芦澤第一号石積堰堤(国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010145
芦澤第二号石積堰堤(国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010146
芦澤第三号石積堰堤(国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010147
芦澤第四号石積堰堤(国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010148
芦澤第三号石積堰堤(文化遺産オンライン)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/281720
麻績村芦澤の石積堰堤(長野県犀川砂防事務所)
https://www.pref.nagano.lg.jp/saisabo/jigyo/ashizawa201403.html
歴史的石積堰堤の保存と活用に向けた砂防計画(北陸地方整備局 事業研究発表会論文)
https://www.hrr.mlit.go.jp/library/happyoukai/R8/d/d-15.pdf
サイ砂防だより 令和3年度第2号その1(長野県犀川砂防事務所)
https://www.pref.nagano.lg.jp/saisabo/jigyo/documents/saisabodayorir3-2-1.pdf
安全安心の信州を目指して 第9編 土木のお宝 砂防関係施設(長野県砂防課)
https://www.pref.nagano.lg.jp/sabo/siryou/documents/sono9.pdf
めざせ近代化遺産カードマスターその8 No.2 芦澤の石積堰堤 編(長野県魅力発信ブログ 来て!観て!松本『彩』発見)
https://blog.nagano-ken.jp/matsuchi/recommend/viewspots/39197.html
美しく個性豊かな信州の砂防堰堤をめぐる(Go! NAGANO 長野県公式観光サイト)
https://www.go-nagano.net/nature-and-outdoors/id22300

最終更新日: 2026.10.06

基本情報

名称芦澤石積堰堤
所在地長野県東筑摩郡麻績村麻字芦沢
所有者長野県
指定登録有形文化財 4件
座標36.45912, 138.03514