木造でありながら石造に見える事務所建築

旧山一林組製糸事務所(きゅうやまいちばやしぐみせいしじむしょ)は、長野県岡谷市中央町1-13-17にある大正10年(1921年)建築の木造2階建事務所で、平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

イルフプラザの平面駐車場の奥から近づくと、最初は鉄筋コンクリート造に見える。正面をほぼ覆うのは茶色の煉瓦タイル。柱型が2層を貫いて立ち上がる大オーダー風の構成で、その表面は洗い出し仕上げ。上げ下げ窓が等間隔に並び、基礎は石貼りで固められている。

種明かしをするのは屋根である。寄棟造の桟瓦葺。日本の住宅建築でありふれた瓦が載り、2階の軒には切妻破風が張り出す。タイルの下の骨組みは木である。

正面24メートル、奥行13メートル、建築面積は316平方メートル。正面中央のやや西寄りに玄関車寄が設けられ、かつては社用車がその下に横づけした。

山一林組という会社と、昭和2年の争議

山一林組製糸の創業は明治12年(1879年)。岡谷でも五指に入る規模へと成長した。岡谷は最盛期に全国の生糸生産高の四分の一近くを占めたとされる製糸都市である。昭和2年(1927年)の時点で、市内の本工場・第2工場・第3工場に加え、諏訪郡永明、伊那郡伊奈富、さらに埼玉県熊谷、千葉県我孫子、静岡県沼津、愛知県稲沢と、9工場3,966釜を擁した。釜数では全国第6位にあたる。

その同じ年、この建物は「山一争議」の舞台となった。昭和2年8月28日に始まり9月18日まで19日間、繰糸に従事する若い女性を中心に約1,300人が待遇改善を求めて就業を停止した。会社側は工場と寄宿舎を閉鎖し、官憲も出動している。争議は労働者側の敗北に終わった。戦前の製糸工場における争議としては国内最大級と位置づけられる。当時の写真には、喪服姿で争議団本部に集まる工女たちが写っている。

会社の名は長くは続かなかった。昭和4年(1929年)に林組製糸株式会社、昭和23年(1948年)にミハト製糸株式会社と改組され、昭和36年(1961年)には信栄工業株式会社となって精密業へ転じ、昭和47年(1972年)に閉業した。

登録の理由は、岡谷を代表する製糸会社の本社事務所建築の遺構であるという点に置かれている。登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、許可制の強い規制を伴う国宝・重要文化財の「指定」とは異なり、届出制を基本とする緩やかな保護を近代の建造物に及ぼす枠組みである。この建物は登録基準のうち「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当するとされた。正門脇に建つ木造平屋の守衛所(大正10年頃、建築面積14平方メートル)も、同日に別件として登録されている。平成19年(2007年)には事務所・守衛所ともに近代化産業遺産に認定された。

帳簿のあった床に、いま機が並ぶ

建物は岡谷市の所有で、現在は岡谷絹工房が活動の拠点としている。会員が岡谷絹を手織りし、絹製品の開発と販売も行う工房である。かつて事務室が大部分を占めていた1階に、手織り機が並ぶ。

開館は火曜・土曜・日曜で、閉館は午後4時。開始時刻については午前9時とする案内と午前9時30分とする案内があり、訪問前に確認しておきたい。開館日には内部を見学できる。機織り体験は有料で、事前予約が必要になる。開館日以外でも、隣接する駐車場から外観を眺め、撮影することはいつでもできる。

JR中央本線の岡谷駅から徒歩8分ほど。数台分の駐車スペースがある。

岡谷市内には近代化産業遺産に認定された施設が15か所あり、いくつかは徒歩圏に収まる。稼働する繰糸機を展示する岡谷蚕糸博物館では、この事務所が管理していた工程そのものを見ることができる。製糸家・林国蔵の旧宅である旧林家住宅は重要文化財で、離れ2階の金唐革紙で知られる。製糸家たちの寄付によって昭和11年(1936年)に建てられた旧岡谷市役所庁舎も、登録有形文化財として近くに残る。

Q&A

Q旧山一林組製糸事務所は内部を見学できますか。
A入居している岡谷絹工房の開館日であれば見学できます。開館は火曜・土曜・日曜で、午後4時まで。機織り体験は有料かつ事前予約制です。それ以外の日は外観のみの見学となります。
Q旧山一林組製糸事務所へのアクセス方法を教えてください。
A長野県岡谷市中央町1-13-17、JR中央本線の岡谷駅から徒歩8分ほどです。イルフプラザの平面駐車場の奥から敷地に入ります。数台分の駐車スペースがあります。
Q旧山一林組製糸事務所は煉瓦造の建物ですか。
A木造です。木造2階建で、屋根は瓦葺(一部は亜鉛メッキ鋼板葺)の寄棟造。石造や鉄筋コンクリート造に見えるのは、外装に煉瓦タイルを張り、柱型を洗い出し仕上げで浮き立たせているためです。
Q旧山一林組製糸事務所で起きた「山一争議」とはどのような出来事ですか。
A昭和2年(1927年)8月28日から9月18日まで19日間続いた労働争議です。繰糸工程で働く若い女性を中心に約1,300人が待遇改善を求めて就業を停止しました。会社側が工場と寄宿舎を閉鎖し、要求は通らないまま終結しています。戦前の製糸工場の争議としては国内最大級とされます。
Q旧山一林組製糸事務所が文化財に登録されたのはいつですか。
A平成17年(2005年)2月9日に登録され、同月28日に告示されました。登録番号は20-0184です。隣接する大正10年頃建築の守衛所も、同じ日に別件として登録されています。

基本情報

名称旧山一林組製糸事務所(きゅうやまいちばやしぐみせいしじむしょ)
所在地長野県岡谷市中央町1-13-17
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 20-0184
指定年平成17年(2005年)2月9日登録(同年2月28日告示)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺一部亜鉛メッキ鋼板葺、建築面積316平方メートル 正面24メートル・奥行13メートル
所有者岡谷市
公開状況岡谷絹工房の開館日(火・土・日、16時まで)に内部見学可。機織り体験は有料・要予約。外観は常時見学可

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)旧山一林組製糸事務所
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004540
文化遺産オンライン 旧山一林組製糸事務所
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/189270
文化遺産オンライン 旧山一林組製糸守衛所
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/141811
信州岡谷観光サイト 旅たびおかや 旧山一林組製糸事務所・守衛所
https://kanko-okaya.jp/enjoy/heritage/旧山一林組製糸事務所・守衛所-2
諏訪観光連盟 製糸で栄えた岡谷の歴史探訪
https://www.suwa-tourism.jp/archives/000199.php
八十二文化財団 信州の文化財
https://www.82bunka.or.jp/bunkazai/detail.php?no=5157&seq=0

最終更新日: 2026.08.20