塩屋醸造とは
塩屋醸造は、長野県須坂市大字須坂537にある味噌・醤油の醸造元の屋敷で、江戸時代後期から明治時代にかけて建てられた店舗及び主屋・うわみせ・醤油蔵・味噌蔵など10棟が、平成19年(2007年)5月15日に登録有形文化財となった。10棟はいずれも1棟ごとに登録番号を持つ別々の登録で、番号は20-0302から20-0311まで続く。
須坂市はこの屋敷を「新町の塩屋醤油店」として紹介し、幕末にはすでに商いをしていたと記す。通りに面して醤油蔵、うわみせ(上店)、門、店が横一列に並び、店と棟続きの住まいの奥に、醸造用の蔵が何棟も建ち込む。市の説明は、新町の歴史的な町並みをかたちづくる大規模な商家と位置づけている。
登録された建物は、いまも仕事場である。有限会社塩屋醸造がこの敷地で味噌と醤油の醸造を続けており、通りに面した店舗は直売所として開いている。文化財の蔵に木桶が並び、その中で次の年の味噌が熟成している。
塩問屋から味噌・醤油の醸造元へ
屋号の「塩屋」は、この家の出自をそのまま表す。所有者が公開する沿革によれば、塩屋は江戸時代中期、1700年代に塩問屋として創業し、初代を塩屋清右衛門という。文化・文政年間(1804〜1830年)に味噌と醤油の醸造を始め、現在に至る。
海のない信州で、塩は外から運び込むほかない品だった。所有者の説明では、須坂へは直江津から北国街道を経て富倉峠を越える道のほか、千曲川の水運など複数の経路で塩が届いたという。塩を扱う商人が味噌と醤油に手を広げるのは、原料の一つを自前で握っている者の自然な選択でもある。
2025年の取材で、11代目の当主は醸造への転換の理由を次のように語っている。当時の塩は水分が多く、蔵に置いておくうちに溶けて目減りしてしまう。塩を味噌や醤油に変えておけば、保存の効く形で蓄えられる。当主はまた、明治から大正にかけて須坂が製糸業で栄え、工場で働く人が増えて各家で味噌を仕込む余裕がなくなったことで、味噌が商品として成り立つようになったとも述べている。
創業の時期について、資料の書き方は揃っていない。所有者の沿革は1700年代の創業とし、同じ当主は取材で醸造の開始を約200年前と語る。須坂市の紹介は「幕末には既に営業」とするにとどまる。本稿では、塩問屋としての創業を江戸時代中期、醸造の開始を文化・文政年間とする所有者の沿革に従い、確認できる範囲として市の記述を併記した。
会社組織としては、昭和7年(1932年)に合名会社塩屋醤油店、昭和25年(1950年)に有限会社塩屋醤油店を設立し、昭和60年(1985年)に現在の有限会社塩屋醸造へ社名を改めている。
敷地の構成と歩く順序
塩屋醸造の敷地は、北側を市道に接する。通りから見て右手(西)から、醤油蔵、うわみせ、門、店舗及び主屋の順に並ぶ。醤油蔵は街路側に大きな妻を向け、うわみせは2階の軒を出桁で持ち出し、主屋は2階の壁と軒まわりを塗り込める。3棟の表情がそれぞれ違うことが、この並びを歩く面白さになっている。
敷地の西端には、醤油蔵から南へ向かって手造蔵、穀蔵が続き、南西の隅に諸味蔵が建つ。南端には敷地でいちばん大きい味噌蔵が北を向いて横たわる。醸造の蔵はこの西と南の2辺に集まる。
一方、主屋の南に文庫蔵、東に小文庫蔵、南東に離れが置かれ、こちらは住まいの側の建物群である。店と醸造場と住まいが1つの敷地に同居し、その境目が建物の配置で読み取れる。
所有者の案内によれば、大暖簾をくぐると正面に岩の屏風が立ち、右手に手造蔵が現れる。この岩は住まいと醸造蔵の仕切りとして運ばれたもので、据えるときにひとりでに立ったという言い伝えから「縁起石」と呼ばれ、動かしてはならないとされてきた。
- 店舗及び主屋(明治初期、昭和27年改修/登録番号 20-0302)
- うわみせ(明治初期、門付/登録番号 20-0304)
- 醤油蔵(明治初期/登録番号 20-0305)
- 手造蔵(江戸後期、昭和60年改修/登録番号 20-0306)
- 穀蔵(明治初期/登録番号 20-0307)
- 諸味蔵(江戸後期、平成6年改修/登録番号 20-0308)
- 味噌蔵(江戸後期、明治初期増築、平成5年改修/登録番号 20-0309)
- 文庫蔵(明治初期/登録番号 20-0310)
- 小文庫蔵(明治初期/登録番号 20-0311)
- 離れ(明治後期、平成15年改修/登録番号 20-0303)
10棟とも、登録の基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。1棟ずつの意匠の優劣ではなく、醸造元の屋敷としてまとまって残る景観が評価された登録といえる。
見学とアクセス
塩屋醸造では、無料の蔵見学を受け付けている。所要時間は約30分で、木桶の並ぶ味噌蔵と、醤油を搾る醤油蔵が主な案内先になる。当日の申し込みも受け付けるが、仕事の都合で案内できないこともあるため、日程が決まっていれば予約しておくのが確実である。予約した見学者には甘酒と味噌汁がふるまわれる(都合により出せない場合がある)(2026年9月27日確認)。
直売所の営業時間は、オンラインショップの案内では平日が午前9時から午後5時15分、土日祝日が午前10時から午後4時で、定休日は1月1日のみ(不定休)とされる。所有者の公式サイトには午前9時から午後6時という表記も残っており、時間ぎりぎりに訪ねる場合は電話で確かめたい(2026年9月27日確認)。
住まいの側にあたる文庫蔵・小文庫蔵・離れと、主屋の居住部分は、公開の案内がない。通りから見られるのは醤油蔵・うわみせ・門・店舗の北面で、この4つが並ぶ街路側の立面は営業時間外でも眺められる。
撮影の可否について、公式の案内に記載は見当たらなかった(2026年9月27日確認)。蔵の中は仕込みと熟成の場でもあるので、見学の際に案内の方へ確かめてからカメラを構えたい。
電車では、JR長野駅から長野電鉄に乗り換え、須坂駅で降りる。長野駅から須坂駅まではおよそ25分。須坂駅からは歩いて約16分である。車の場合は上信越自動車道の須坂長野東インターチェンジから市街地へ向かう。駐車場は店の前の道を挟んだ斜め向かいにある。
参考文献
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造店舗及び主屋(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006226
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造うわみせ(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006228
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造醤油蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006229
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造手造蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006230
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造穀蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006231
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造諸味蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006232
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造味噌蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006233
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造文庫蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006234
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造小文庫蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006219
- 国指定文化財等データベース 塩屋醸造離れ(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006227
- 須坂市の登録有形文化財(須坂市ホームページ)
- https://www.city.suzaka.nagano.jp/soshiki/4010/2/1/557.html
- 塩屋醸造の歴史とこだわり(塩屋醸造オンラインショップ)
- https://www.shioya-store.com/html/page1.html
- 直売店・蔵見学のご案内(塩屋醸造オンラインショップ)
- https://www.shioya-store.com/html/page2.html
- 風土を愛する気持ちを醸す 信州・須坂の老舗味噌醤油醸造元「塩屋醸造」(調味料.jp、2025年8月30日)
- https://chomiryo.jp/shioyajozo/
最終更新日: 2026.09.26
基本情報
| 名称 | 塩屋醸造 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県須坂市大字須坂537 |
| 所有者 | 上原家(個人) |
| 指定 | 登録有形文化財 10件 |
| 座標 | 36.65572, 138.31575 |