塩田平を見下ろす三重塔
前山寺三重塔は、長野県上田市前山にある室町時代後期の三重塔で、大正11年(1922年)4月13日に国の重要文化財に指定された。指定番号は00765、員数は1基である。
文化庁の国指定文化財等データベースは、構造及び形式等を「三間三重塔婆、こけら葺」と記す。各層の柱間を三間にとり、屋根には薄く割った板を重ね葺きにする。年代欄は室町後期、西暦欄は1467年から1572年。棟札も墨書も伝わらず、建立年を直接示す銘は確認されていない。年代の判断は細部の様式に拠っている。
寺は独鈷山の北麓、塩田平を見晴らす傾斜地にある。寺伝では弘仁三年(812年)に空海が護摩の道場として開いたとし、元弘元年(1331年)に讃岐善通寺から長秀上人が入って現在地へ移し規模を広げたと伝わる。西の谷向こうには塩田城跡が残り、前山寺はその祈願寺の性格を帯びていたと考えられている。山号は独鈷山、宗派は真言宗智山派、本尊は大日如来。
欠けているものをどう読むか
石段を上りきったところで、まず目に入るのは欠落である。
初層には縁と勾欄がめぐる。二層と三層にはそのどちらもない。窓も扉も上二層には設けられず、板壁と組物と屋根だけが積み上がる。
ただし、造る意思がなかったわけではない。上層の柱間からは角材の貫が水平に突き出しており、その高さは縁板を受けるべき位置にぴたりと合う。ほかにも造作の途中で手が止まったと見える箇所が各所にある。何が工事を中断させたのかを示す痕跡は、建物の側に残っていない。
この欠落の解釈は二つに割れてきた。文字どおり未完成とみる立場と、塔の上層に人が上ることはないのだから縁も勾欄も装飾にすぎず、それを取り去った姿こそ構造として完結しているとみる立場である。後者から「未完成の完成塔」という異称が生まれた。両者が一致するのは、実際に建つものの出来映えについてである。三つの屋根が描く反りは互いに呼応して破綻がなく、その上に伸びる九輪の直立が全体を引き締めている。
大正11年という指定年は、長野県内の建造物としてはかなり早い。近隣の青木村・大法寺三重塔が国宝に指定されるのは、それから30年を経た昭和27年(1952年)のことである。
初層南西隅を見上げる
初層の南西隅、柱の上端に目を向けたい。貫の先端を彫り飾った木鼻が左方へ張り出している。牙が刻まれ、目も彫り込まれているが、獅子や象、獏へと分化していく以前の段階にとどまる形式である。目の位置が高くとられているため、その下に残る面が薄い。この不均衡は古くから上田の人々に気づかれ、木鼻に土地の愛称を与える理由になった。
塔を囲む建物群は、別の階梯で保護されている。本堂・庫裏・玄関・山門は国の登録有形文化財であり、これは重要文化財より軽い区分にあたる。本堂は木造茅葺屋根を保っており、県内の寺院建築では希少な例となっている。塔と本堂を同じ視野に収めながら、指定と登録の違いを確かめられる境内は多くない。
拝観は午前9時から午後4時まで。入山料は大人200円、高校生100円、小中学生50円。駐車場は冠木門脇にあり、薬医門脇には身体の不自由な方のための区画が別に設けられている。塔は屋外に建ち境内から仰ぐ形で、内部は公開されていない。撮影については入口に掲示があるため、これに従いたい。
北陸新幹線上田駅からタクシーで約30分、上田菅平インターチェンジからも車で約30分を見込む。四月下旬には藤が、十一月には楓が境内を彩る。
もうひとつ。境内で採れた鬼胡桃を摺って作るくるみおはぎが供されている。4月から11月まで、木曜と金曜は休み、要予約である。
Q&A
- 前山寺三重塔は拝観できますか。拝観時間と入山料は。
- 拝観できます。前山寺の境内は午前9時から午後4時まで開いており、塔は開けた場所に建つため間近から仰ぐことができます。入山料は大人200円、高校生100円、小中学生50円。駐車場は門脇に用意されています。
- 前山寺三重塔はなぜ「未完成の完成塔」と呼ばれるのですか。
- 二層と三層に縁も勾欄も設けられていない一方で、縁板を受けるはずの貫だけが突き出しているためです。工事が中断した未完成の塔とみる読みと、上層の縁は装飾にすぎずそれを欠いた姿で構造として完結しているとみる読みが並び立ち、後者からこの異称が生まれました。
- 前山寺三重塔の建立年と重要文化財指定年はいつですか。
- 建立年を示す棟札や墨書は伝わっておらず、文化庁は細部様式から室町時代後期、西暦1467年から1572年の間と判断しています。重要文化財の指定は大正11年(1922年)4月13日、指定番号00765です。
- 前山寺三重塔の内部に入ることや撮影はできますか。
- 塔の内部は公開されておらず、境内から外観を拝観する形になります。撮影の可否や条件は入口の掲示で案内されており、変更されることもあるため、到着時に掲示を確認するか寺務所に尋ねてください。
- 前山寺三重塔へはどのように行きますか。
- 北陸新幹線上田駅からタクシーで約30分です。車の場合は上田菅平インターチェンジから約30分。塩田平の別所温泉に近く、国宝の安楽寺八角三重塔と組み合わせて巡ることができます。
基本情報
| 名称 | 前山寺三重塔(ぜんざんじさんじゅうのとう) |
|---|---|
| 所在地 | 長野県上田市大字前山 |
| 指定区分 | 重要文化財(指定番号00765) |
| 指定年 | 大正11年(1922年)4月13日 |
| 員数 | 1基 |
| 時代 | 室町時代後期(1467年〜1572年) |
| 構造及び形式等 | 三間三重塔婆、こけら葺 |
| 所有者 | 前山寺(真言宗智山派) |
| 公開状況 | 境内より外観拝観可(午前9時〜午後4時)。入山料 大人200円・高校生100円・小中学生50円。塔内部は非公開 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 前山寺三重塔
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/935
- 上田市の文化財 — 前山寺三重塔
- https://museum.umic.jp/bunkazai/document/dot3.php
- 文化庁 日本遺産ポータルサイト — 前山寺三重塔
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/5063/
- 信州上田 日本遺産 — 前山寺
- https://japan-heritage-ueda.com/spot/zenzanji/
- 文化遺産オンライン — 前山寺本堂
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/597993
最終更新日: 2026.08.20