倉庫から客室へ

花屋ホテルの帳場の東方に、土蔵造の二階建が建つ。木の骨組みに土を厚く塗り込めた蔵の造りで、桁行6間・梁間2間半、切妻造の屋根に桟瓦を葺く。

建物は大正期、すなわち1912年から1925年にかけてのもので、別所温泉の花屋が木造の宿として姿を整えていった時期にあたる。当時の上田は蚕糸業の盛んな土地で、蚕種を買い付けに訪れる商人が温泉町を賑わせていた。

この蔵を特徴づけるのは、その二度目の役割である。1階は本来の倉庫として使われ続けたが、2階は客室に仕立て直され、頭上には小屋組の梁がそのまま見えるようにされた。

表構えを支える建物として

文化庁は平成18年(2006年)、周囲の歴史的景観に寄与する建物として、この倉庫を登録した。旅館の正面側に建ち、宿が通りに向ける表構えの一部を形づくっている。

外壁には縦長の窓が等間隔に並ぶ。働く蔵らしい規則正しい配列で、客を迎える建物にはあまり見られない。塗り込めた壁と桟瓦の屋根は、商家の時代の蔵の姿をはっきりと残している。

外観は実用的な土蔵のまま保ち、内部は花屋を特徴づけるもてなしの空間へと転じる。登録はその重なりを評価している。

訪ねるときの見どころ

参道側から見ると、この倉庫は宿泊客が最初に通り過ぎる建物のひとつで、等間隔に並ぶ窓と淡い漆喰壁が全体の雰囲気を先取りする。奥の客室棟の寄棟屋根とは違う、切妻の妻面に目を向けたい。

もし2階の部屋に泊まるなら、頭上を見上げてほしい。ふつうは天井の上に隠れる小屋組の梁が、ここではあらわに残され、構造上の必要が部屋の主役に変わっている。

営業中の旅館の一部であり、見学は滞在の流れに沿う。到着や出発のとき、漆喰壁を斜めに照らす光のなかで表側の建物を眺めるとよい。

Q&A

Q土蔵造とはどのような造りか。
A木の骨組みに土を厚く塗り込めた、防火性の高い蔵の構法をいう。この蔵は切妻桟瓦葺の二階建である。
Q2階に梁が見えているのはなぜか。
A1階は倉庫として使い続け、2階を客室に転用した際、小屋組の梁をあえて室内に見せている。
Qいつ建てられたのか。
A大正期(1912〜1925年)、花屋が木造の宿として整っていった時期に建てられた。
Qどこに建っているか。
A旅館の正面側、帳場の東にあり、宿の表構えの一部を形づくっている。

基本データ

名称花屋ホテル倉庫
所在地長野県上田市別所温泉169
指定区分登録有形文化財(建造物)/2006年(平成18年)10月18日登録
登録番号20-0283
員数1棟
構造土蔵造2階建、切妻造、桟瓦葺/建築面積約60㎡
年代大正期(1912〜1925年)
所有者株式会社花屋ホテル
アクセス上田電鉄別所線 別所温泉駅より徒歩約5分
備考営業中の旅館内。正面側に建つ

参考文献

国指定文化財等データベース — 花屋ホテル(管理対象ID 00005859)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005859
別所温泉旅館組合 — 別所温泉観光案内
https://www.bessho-spa.jp/
旅館花屋 公式サイト — 館内・沿革のご案内
https://www.hanaya.ne.jp/

最終更新日: 2026.07.03