戦後の離れ

中広間の南に、この客室棟が建つ。桁行8間半・梁間4間半、寄棟造の屋根に桟瓦を葺いた木造平屋で、昭和25年(1950年)頃、戦後まもない時期の築である。

棟は離れの形式をとって3室を設け、西側に入母屋造の玄関を構える。ここに登録された建物のなかでは後の追加のひとつで、大正期の中核が整ったあとも花屋が客室を練り続けたことを示している。

上田の南、塩田平にある別所温泉は、幾世紀も湯客を迎えてきた。古い寺塔が密に集まり、信州の鎌倉と呼ばれる土地である。大正6年(1917年)に開いた花屋は、その環境のなかで年代を越えて建て継いできた。

造形の規範として登録

この棟は平成18年(2006年)、造形の規範となるものという基準で登録された。評価は、床の間の周りに集められた材と技に拠る。

全体に良材が使われ、各室の要となる床の間に集められる。たとえば敷居は黒柿から挽き出される。柿の木のごく一部にしか現れない、暗く入り組んだ杢目ゆえに珍重される稀少な良材である。

こうした選びと、それが求める練達の技が、この棟を建物群のなかの戦後の造作の高みとして際立たせる。登録は、丁寧な材の選定と熟練の仕事が到達しうるものの規範として、これを認めている。

訪ねるときの見どころ

黒柿から挽いた敷居を探したい。暗く入り組んだ杢目こそがこの材を珍重させるもので、飾りの品ではなく働く敷居にそれを見いだすのは、控えめな贅の印である。

良材がどのように各床の間の周りに集まるかを見たい。床の間は部屋の焦点であり、最上の材をそこに集めるのは、部屋の格を意図して表す振る舞いである。

西側の入母屋造の玄関は、離れに格式ある表情を与える。営業中の旅館の客室棟として、泊まって材を間近に見る時間をとると、最もよく味わえる。

Q&A

Q黒柿とはどのような材か。
A柿のごく一部にしか現れない、暗く不規則な木目ゆえに珍重される稀少な良材で、ここでは敷居に用いる。
Qいつ建てられたか。
A昭和25年(1950年)頃、戦後まもない時期の築で、登録建物のなかでは後の追加のひとつ。
Qいくつ部屋があるか。
A離れの形式で3室を設け、西側に入母屋造の玄関を構える。
Qなぜ造形の規範として登録されたのか。
A床の間の周りに良材と練達の技を集めており、戦後の造作の高みを示すため。

基本データ

名称花屋ホテル六一番棟
所在地長野県上田市別所温泉169
指定区分登録有形文化財(建造物)/2006年(平成18年)10月18日登録
登録番号20-0295
員数1棟
構造木造平屋建、寄棟造、桟瓦葺(西に入母屋造玄関)/建築面積約140㎡
年代昭和25年(1950年)頃
所有者株式会社花屋ホテル
アクセス上田電鉄別所線 別所温泉駅より徒歩約5分
備考営業中の旅館内、3室の離れ客室棟

参考文献

国指定文化財等データベース — 花屋ホテル(管理対象ID 00005880)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005880
文化遺産オンライン — 花屋ホテル(詳細 152485)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/152485
旅館花屋 公式サイト — 館内・沿革のご案内
https://www.hanaya.ne.jp/

最終更新日: 2026.07.03