部屋と部屋をつなぐ廊下
この渡り廊下は、南渡廊下の西寄りから本館の方へ延びる。長さ22メートル、幅わずか1メートルの細い連絡路で、木造・切妻造、屋根は銅板で葺かれる。
花屋ホテルの建物は一棟にまとまっていない。別所温泉の斜面地に点在し、庭のあいだを縫う屋根付きの渡り廊下で結ばれる。部屋から湯へ移るとは、覆いの下で外気のなかを通り抜けることを意味する。
文化庁はこの廊下を昭和前期に位置づける。規模は小さいが、花屋という建物群を、別々の建物の集まりではなく、ひと続きの体験として読ませる連結の糸のひとつである。
一つの span に二つの架構
平成18年(2006年)に歴史的景観へ寄与する建物として登録されたこの廊下は、これほど小さな形にどれだけの趣を宿すかで評価される。その架構は、全長のなかで二つの異なる方法を混ぜている。
一方では、丸太の柱に梁を架け、その上に短い束を立てて支える。他方では、梁に緩やかな上向きの反り、すなわちむくりを付け、その上に棟木を通す。柱と柱のあいだには手摺を設ける。
全体は簡素な数寄屋風の意匠で、茶室の抑えた美意識を純粋に実用的な通路に及ぼしている。登録は、この廊下を単なる動線ではなく、庭の絵の欠かせない一部として認めている。
訪ねるときの見どころ
ゆっくり歩き、頭上で架構が移り変わるさまを見たい。丸太柱が束を介して梁を支えるところでは構造がそのまま表れ、梁が棟木の下で上向きに反るところでは線がやわらぐ。二つの方法が短い一続きのなかに納まる。
銅板の屋根は、その色にも目を向けたい。年を経るにつれ金属が風化し、やわらかな緑へと移る。庭の緑を背に、廊下は静かに周囲へと収まっていく。
渡り廊下は花屋を巡る動線そのものだから、この廊下は泊まって建物のあいだを行き来するだけで味わえる。両側に庭を開いたまま、急がぬ歩みが似合う。
Q&A
- 渡り廊下の長さは。
- 約22メートル、幅は1メートルで、南渡廊下と本館を結ぶ。
- 二つの架構とは。
- 一方は丸太柱に束を介して梁を架け、他方はむくりを付けた梁に棟木を通す。柱間には手摺を設ける。
- 数寄屋風とは。
- 茶室に由来する抑えた美意識をいい、ここでは実用の通路に及ぼされている。
- どう味わうか。
- 渡り廊下は花屋を巡る動線であり、滞在中に建物のあいだを渡るだけで体験できる。
基本データ
| 名称 | 花屋ホテル東渡廊下 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県上田市別所温泉169 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/2006年(平成18年)10月18日登録 |
| 登録番号 | 20-0286 |
| 員数 | 1棟 |
| 構造 | 木造、切妻造、銅板葺/長さ約22m・幅約1m、建築面積約18㎡ |
| 年代 | 昭和前期 |
| 所有者 | 株式会社花屋ホテル |
| アクセス | 上田電鉄別所線 別所温泉駅より徒歩約5分 |
| 備考 | 営業中の旅館内の連絡廊下 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース — 花屋ホテル(管理対象ID 00005869)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005869
- 別所温泉旅館組合 — 別所温泉観光案内
- https://www.bessho-spa.jp/
- 旅館花屋 公式サイト — 館内・沿革のご案内
- https://www.hanaya.ne.jp/
最終更新日: 2026.07.03