温泉宿の中心をなす湯殿

花屋ホテルの帳場の西に、大正5年(1916年)築の大浴室が建つ。桁行6間・梁間5間半の木造平屋建で、寄棟造の屋根に桟瓦を葺き、宿の中心施設として機能してきた。

別所温泉は古くから湯客を集めてきた。塩田平の一角にあり、古い寺塔の多さから信州の鎌倉とも呼ばれる土地で、その湯は美人の湯として知られる。この規模の湯殿こそ、多くの客が訪れる理由であった。

平面は用途をはっきり分ける。北側には下屋を低く張り出して脱衣室とし、南側には女子浴室を外へ張り出して、それぞれに独立した容積を与えている。

湯気と空気のための造り

平成18年(2006年)に歴史的景観へ寄与する建物として登録されたこの湯殿は、大正期の宿が大きな内湯という実用的な要求にどう応えたかを示す。もっとも雄弁な部分は屋根にある。

屋根の頂部には越屋根が上がり、盛んな入浴が生む熱と湿気を抜く。浴室上部の壁には等間隔に窓が並び、立ちのぼる湯気のなかに光と風を通す。

これらは装飾ではなく、木造の湯殿を乾いた快適な状態に保つための働く答えである。登録は、その型をよく解いた例として建物を評価している。

訪ねるときの見どころ

敷地からは屋根の頂を見上げたい。主屋根の上にもう一段乗る小さな屋根が越屋根で、これと分かると、古い湯の町の各地の湯殿で同じ仕掛けを見つけられるようになる。

浴室内では、壁の高い位置に等間隔で並ぶ窓に注目したい。立ちのぼる湯気を通して落ちる光のためでもあり、天井の高さを感じさせる働きのためでもある。

宿の中心の湯として、この建物は独立した記念物というより滞在の体験そのものの一部である。花屋はその湯で知られ、湯殿はその体験が始まる場所である。

Q&A

Q屋根の上に乗る小さな屋根は何か。
A越屋根といい、下の浴室から熱と湿気を抜くための換気の仕掛けで、当時の木造湯殿によく見られる。
Qいつ建てられたか。
A大正5年(1916年)、花屋ホテルの中心的な浴場施設として建てられた。
Q男湯・女湯の配置は。
A北側の下屋の下に脱衣室を設け、女子浴室は南側に張り出す。それぞれ独立した容積をもつ。
Q宿泊客は入浴できるか。
A宿の中心の湯であり、滞在体験の一部をなす。花屋はその泉質で知られる。

基本データ

名称花屋ホテル大浴室
所在地長野県上田市別所温泉169
指定区分登録有形文化財(建造物)/2006年(平成18年)10月18日登録
登録番号20-0282
員数1棟
構造木造平屋建、寄棟造、桟瓦葺(越屋根付)/建築面積約99㎡
年代大正5年(1916年)
所有者株式会社花屋ホテル
アクセス上田電鉄別所線 別所温泉駅より徒歩約5分
備考宿の中心の湯。滞在体験の一部

参考文献

国指定文化財等データベース — 花屋ホテル(管理対象ID 00005858)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005858
別所温泉旅館組合 — 別所温泉観光案内
https://www.bessho-spa.jp/
旅館花屋 公式サイト — 館内・沿革のご案内
https://www.hanaya.ne.jp/

最終更新日: 2026.07.03