庭に開く離れ

大浴室の西に、桁行4間半・梁間4間半のこぢんまりとした離れが建つ。大正7年(1918年)の築で、木造平屋建、入母屋造の屋根に桟瓦を葺く。

この棟は離れの形式をとり、主だった客室の連なりから独立して置かれる。内部には客室2室が並び、それぞれ8畳の座敷に前室を付け、いずれにも温泉浴室を添える。

別所温泉は幾世紀にもわたり旅人に湯を供してきた。大正期の花屋は、こうした部屋を足して、客により私的で完結した滞在を用意していった。大正7年という年は、宿の比較的早い客室棟に位置づけられる。

客室の質で登録

この棟は平成18年(2006年)、造形の規範となるものとして登録された。景観のなかの位置よりも、計画と細部の練達で評価される建物にあてられる基準である。

その評価を得たのは、部屋と庭が一体として働くさまである。前室を伴う8畳の座敷は外へ開き、その先の緑は、距離を置いて眺める景色ではなく、室内の一部として扱われる。

こうして生まれるのは、落ち着いた自立した客室である。離れの配置と各室の浴室によって私的でありながら、ゆったりと外の世界に近く結ばれている。

訪ねるときの見どころ

各8畳間の手前に置かれた前室に注目したい。廊下と主室のあいだのこの緩衝は、よく練られた客間の証で、部屋そのものへ至る前に落ち着いた導入を用意する。

入母屋造の屋根は、下に寄棟の斜面、上に切妻を組み合わせ、単純な寄棟や切妻の小屋より格式ある輪郭を小さな建物に与える。敷地から見分けたい形である。

営業中の旅館の離れとして、この建物は泊まって味わうものである。開かれた先の庭は、一日の移ろう光のなか、部屋のなかからゆっくり眺めるためにある。

Q&A

Q離れとは何か。
A主な客室の連なりから独立して置く客室棟をいう。この棟は温泉浴室付きの客室2室からなる。
Q前室は何のためか。
A各8畳間の手前に置く緩衝の間で、廊下と主室を隔て、よく練られた客間であることを示す。
Qいつ建てられたか。
A大正7年(1918年)、花屋の比較的早い客室棟のひとつとして建てられた。
Qなぜ造形の規範として登録されたのか。
A部屋と庭を一体に構成した、落ち着いた練達の客室空間であるためで、景観中心の評価とは異なる。

基本データ

名称花屋ホテル二七番棟
所在地長野県上田市別所温泉169
指定区分登録有形文化財(建造物)/2006年(平成18年)10月18日登録
登録番号20-0291
員数1棟
構造木造平屋建、入母屋造、桟瓦葺/建築面積約84㎡
年代大正7年(1918年)
所有者株式会社花屋ホテル
アクセス上田電鉄別所線 別所温泉駅より徒歩約5分
備考離れの客室棟。各室に温泉浴室

参考文献

国指定文化財等データベース — 花屋ホテル(管理対象ID 00005875)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005875
別所温泉旅館組合 — 別所温泉観光案内
https://www.bessho-spa.jp/
旅館花屋 公式サイト — 館内・沿革のご案内
https://www.hanaya.ne.jp/

最終更新日: 2026.07.03