昭和十三年に建てられた三間社流造
象山神社本殿(ぞうざんじんじゃほんでん)は、長野県長野市松代町松代にある象山神社の本殿で、昭和13年(1938年)の建築、平成17年(2005年)12月26日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
祭神は幕末の松代藩士・佐久間象山(1811〜1864)。蘭学と西洋砲術を修め、大砲の鋳造や電信機の実験を手がけ、勝海舟・吉田松陰・坂本龍馬らを門下に持った人物である。「象山」は一般に「しょうざん」と読まれるが、長野県内では古くから「ぞうざん」と読み慣わされており、社名もこれに従う。
神社そのものは新しい。大正2年(1913年)の象山殉難五十年祭を契機に、松代出身の元大審院長・横田秀雄の主唱で建立計画が動き出し、昭和6年(1931年)に創立が許可された。県下全市町村と信濃教育会、全国の教育関係者から資金が集まり、旧佐久間象山邸の敷地に社殿が建てられて、昭和13年11月3日に県社として創建されている。
つまり境内の奥に建つこの本殿は、正真正銘の昭和建築である。しかしその姿は、昭和のものには見えない。
登録の理由と構造の読み方
登録基準は「造形の規範となっているもの」。同じ日に拝殿・祝詞殿、宝殿、絵馬殿、斎館、社務所の五棟も登録され、境内の主要な社殿がまとめて文化財となった。本殿の登録番号は20−0221、員数は1棟である。
文化庁データベースの解説は簡潔だが、語を一つずつ開いていくと設計の意図が見えてくる。形式は三間社流造。正面三間の身舎に、前流れの屋根がそのまま階段の上まで延びる、日本の本殿建築でもっとも広く行われた形である。一間社が多数を占めるなかで三間社を選ぶこと自体が、規模への志向を示している。
屋根は二軒繁垂木。垂木を上下二段に、しかも間隔を詰めて並べる格式の高い納まりで、その上を銅板で葺く。軸部は外へ進むにつれて材が変わる。身舎は円柱、庇は角柱。円柱は角柱より格上とされるから、この使い分けだけで内陣と前面の区画が示され、装飾に頼る必要がない。
組物は実肘木付の三斗組。身舎と庇は水平の繋虹梁で結ばれ、妻飾は虹梁の上に蟇股を置く。四周には縁がめぐるが、脇障子は設けていない。
この脇障子の不在が、本殿の性格をよく示す。脇障子は宮大工が彫刻の腕を見せる場所であり、それを置かないのは経費の問題ではなく選択である。解説文は「伝統様式に則った本殿建築で、装飾の少ない古風な意匠とする」と結ぶ。神社側の説明では総桧材による桃山式流造の雄大な社殿とされる。
西洋技術の導入を説いた人物を祀る社殿が、同時代の意匠を一切退けて古式に徹している。この対比は、昭和初期の神社建築が何を規範と考えていたかを示す資料でもある。
参拝と、境内をめぐる
境内は決して広くない。鳥居をくぐって参道を進むと、まず南面する拝殿に行き当たる。向拝付の入母屋造で、正面にも側面にも蔀戸を用いるため、社殿というより上質な住宅のような表情をしている。その背後に祝詞殿を挟んで本殿が建つ。本殿は昇殿できないので、参拝は拝殿前で行い、屋根と軸部を外から見ることになる。
見どころは屋根である。斜めの位置に立つと、瑞垣の上に流造の反りと二段の垂木が見え、午後の低い光が入る時間帯には垂木の影が軒裏に縞をつくる。昭和13年に葺かれた銅板はすでに落ち着いた緑青をまとっており、新しい銅板の赤茶とはまったく違う色をしている。
境内には移築された建物が二棟ある。高義亭は、安政元年(1854年)の吉田松陰渡航事件に連座して九年の蟄居を命じられた象山が身を寄せた、江戸詰家老・望月主水の下屋敷の別棟にあたる。志士たちが訪れては二階の七畳半で時勢を論じたと伝わり、昭和53年(1978年)に当地へ移された。長野市指定文化財である。もう一棟の煙雨亭は、元治元年(1864年)に凶刃に倒れるまでの二か月を過ごした京都木屋町の煙雨楼から、茶室を移築したものという。
生誕地の入口には心の池がある。平成20年(2008年)7月28日に国の登録記念物となった池泉で、松代の武家屋敷地を縫っていた泉水路の水を引き込む。神田川から取水した流れは山寺常山邸庭園、大木氏庭園を経てこの園池に入り、心の池をめぐって野中氏庭園へ抜けていく。単体の景観というより、町全体の水系の一部として評価された庭である。鳥居の脇には平成22年(2010年)建立の佐久間象山銅像が立ち、平成30年(2018年)には真田幸貫と門下の志士六名の像も加わった。
実用的なことを書いておく。参拝と境内の見学に料金はかからない。授与品・御祈祷・御朱印の受付時間は9時30分から16時、電話は026−278−2461。開門時間については媒体によって記載が分かれるため、早朝や夕刻の参拝を考えているなら事前に確認したほうがよい。長野駅善光寺口3番乗り場からアルピコ交通の松代方面行きバスで約30分、「松代八十二銀行前」下車、徒歩5〜10分。車の場合は上信越自動車道長野インターチェンジから約1.8キロメートルで、鳥居脇に小さな駐車場、南側の象山記念館付近にもう少し大きな駐車場がある。境内での撮影は通常行われているが、掲示に従い、祭事や御祈祷の最中は控えたい。
訪ねる季節を選べるなら10月下旬から11月上旬。池畔の紅葉が色づき、真田氏の町割がそのまま残る松代の街路も歩きやすい。
Q&A
- 象山神社本殿は内部を見学できますか。拝観料は必要ですか。
- 本殿の内部は公開されていません。参拝は手前の拝殿前で行い、本殿は外観を境内から眺める形になります。境内の参拝・見学に料金はかかりません。
- 象山神社本殿はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
- 昭和13年(1938年)、神社創建と同じ年の建築です。登録は平成17年(2005年)12月26日、告示は翌27日で、登録番号は20−0221、第48回の登録にあたります。
- 象山神社本殿は国宝や重要文化財とは違うのですか。
- 異なります。登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、おおむね築50年以上の建造物を対象に、活用しながら守ることを主眼とします。指定文化財のような強い現状変更の制限は課されません。
- 象山神社本殿へは長野駅からどう行けばよいですか。
- 長野駅善光寺口3番乗り場からアルピコ交通の松代方面行きバスに乗り、約30分の「松代八十二銀行前」で下車、徒歩5〜10分です。車では上信越自動車道長野インターチェンジから約1.8キロメートル、駐車場があります。
- 象山神社では本殿以外にも登録文化財がありますか。
- 同じ昭和13年建築の拝殿・祝詞殿、宝殿、絵馬殿、斎館、社務所の五棟が同日に登録されています。さらに境内の園池(心の池)が平成20年(2008年)7月28日に国の登録記念物となりました。
基本情報
| 名称 | 象山神社本殿(ぞうざんじんじゃほんでん) |
|---|---|
| 所在地 | 長野県長野市松代町松代1502 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 20−0221 |
| 指定年 | 平成17年(2005年)12月26日登録、同月27日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、銅板葺、建築面積33平方メートル/三間社流造、二軒繁垂木 |
| 所有者 | 象山神社 |
| 公開状況 | 境内は参拝自由・無料、本殿内部は非公開。社務所受付は9時30分〜16時、電話026−278−2461 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 象山神社本殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005153
- 文化遺産オンライン — 象山神社本殿
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/185063
- 信州松代象山神社 公式サイト — 象山神社について
- https://www.zozan.jp/about_zozan_shrine
- 信州松代観光協会 — 象山神社
- https://www.matsushiro-kankou.com/spot/spot-637/
- ながの観光net(長野市観光コンベンションビューロー)— 象山神社
- https://www.nagano-cvb.or.jp/modules/sightseeing/page/50
最終更新日: 2026.08.20