しまばら湧水館(旧三村家住宅)石柱門及び石塀 ― 鯉の泳ぐ通りに面した12メートル
長さ約2メートルの横長材を四段。それを切石積の基礎の上に載せる。総延長12メートル。南寄りに間口1.5メートルの門を開く。国指定文化財等データベースが記すこの塀の仕様はそれだけだが、数字を追うと性格が見えてくる。2メートルの石を四段しか積まない塀には、目地がほとんど生じない。
旧三村家住宅の石柱門及び石塀は、島原市新町の敷地東面に沿って建つ。屋敷の前を流れる湧水溝に寄り添う位置である。建造は昭和10年頃、背後の主屋と同じ時期にあたる。
この塀がこの形をとっている理由は、目の前の水路にある。新町一帯は地面のすぐ下まで水が来ている土地で、通りには湧水を流す開渠が通り、鯉が放たれている。ここでの境界は、単に敷地が終わる線ではない。湧水を引き込んだ私的な庭と、足元を流れていく公共の水との、あいだの線である。
現在の所有者は島原市。平成8年に三村家から譲り受け、平成15年から17年の整備を経て主屋を公開した。塀のほうは入場料も開館時間も要らない。竣工した日からずっと、通りに向けて開かれている。
塀が文化財になるということ
石柱門及び石塀が国の登録有形文化財(建造物)となったのは平成26年12月19日、第79回登録。登録番号42-0115。同日、主屋(42-0114)と煉瓦塀(42-0116)もそれぞれ別件で登録されている。
登録は指定と違う。国宝・重要文化財は国が選定し、現状変更に許可を要する。平成8年の文化財保護法改正で加わった登録有形文化財の制度は届出制で、所有者は改変や除却の前に届け出れば足りる。明治以降に建てられた膨大な建物や工作物、つまり数が多く、一つひとつは指定に届かないが、町の見え方を左右しているもの。この制度はそこに向けて作られた。
適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。塀にとって、これは抽象的な理念ではなく、そのまま職務内容である。文化庁の解説も、石柱門及び石塀を、鯉の泳ぐ湧水溝とともに新町の表通りの景観を形成する要素として説明している。守られているのは、景色の一部分である。
重量感のある寸法取りは、軽い塀にはできない仕事をしている。この塀は境界というより塊として見える。だから、手前を流れる水が動きとして見える。
石を見る
まず通りの反対側に立って、目地を追ってみる。水平の線はほとんど途切れず、垂直の線はまばらにしか現れない。2メートルの石を使うとこうなる。
次に、一枚の石の表面が見える距離まで近づく。仕上げは江戸切。石の見え掛かりの縁に沿って、幅を決めた帯状の部分を小叩きでわずかに落とし、中央の面をそのぶん高く残す技法である。細部の話に聞こえるが、効果は大きい。窪んだ縁が四辺で影を拾うので、一つひとつの石が細い線で縁取られ、離れて見ても矩形として読める。この塀の張りつめた、図面のような硬質さは、そこから来ている。同じ技法は城郭石垣の角石の稜線にも用いられた。
四段の下には切石積の基礎がある。野面ではない。積んだのではなく、造ってある。
門そのものは石柱のあいだの、間口1.5メートルの素っ気ない開口部だ。ここをくぐると場面が切り替わる。公共の石と流水から、室内に座って眺めるための庭へ。
実務的な注意をひとつ。通りは狭く、住民の生活道路でもある。塀を撮ろうと後ずさりすると、そこはもう道の真ん中である。
Q&A
- 中に入らなくても見られますか。
- 見られます。石柱門も石塀も敷地東面の公道に面しており、時間を問わず無料で見学できます。背後の主屋も入館無料で、公表されている開館時間は9時から18時です。
- 「江戸切」とはどのような仕上げですか。
- 石の見え掛かりの面の縁を、一定の幅で帯状に小叩きして窪ませ、中央部を高く残す仕上げです。目地の一つひとつに影の線が出て、石が明快な矩形に見えます。文化庁の記録は、この塀の四段の横長材にこの仕上げが施されていると明記しています。
- 重要文化財ではないのですか。
- 重要文化財ではなく、登録有形文化財です。平成8年に創設された制度で、近代以降の幅広い建造物を対象とし、許可制ではなく届出制で運用されます。使いながら守ることを前提とした仕組みです。
- 規模はどれくらいですか。
- 国指定文化財等データベースでは、石柱門が石造・間口1.5メートル、石塀が石造・総延長12メートルと記録されています。両者を合わせて1基として登録されています。
- 前の水路に鯉がいるのはなぜですか。
- 昭和53年に地元の町内会が、湧水を大切にする気持ちを育てようと新町の水路に鯉を放したのが始まりです。これが定着し、一帯は「鯉の泳ぐまち」と呼ばれるようになりました。この水は昭和60年に環境庁の名水百選に選定された島原湧水群の一部です。
基本情報
| 名称 | しまばら湧水館(旧三村家住宅)石柱門及び石塀 |
|---|---|
| ふりがな | しまばらゆうすいかん(きゅうみむらけじゅうたく)いしばしらもんおよびいしべい |
| 種別 | 登録有形文化財(建造物)/住宅・その他工作物 |
| 登録年月日 | 平成26年12月19日(第79回)/登録番号 42-0115 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 員数 | 1基 |
| 構造及び形式等 | 石柱門 石造、間口1.5メートル/石塀 石造、総延長12メートル |
| 時代・年代 | 昭和前/昭和10年頃(1935年頃) |
| 所在地 | 長崎県島原市新町2-122 |
| 所有者 | 島原市 |
| 交通 | 島原鉄道 島原駅から徒歩約9分、島鉄本社前駅から徒歩約7分 |
| 公開状況 | 公道から常時見学可(無料) |
| 問い合わせ | 0957-62-8102(しまばら湧水館) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)「しまばら湧水館(旧三村家住宅)石柱門及び石塀」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010377
- 文化遺産オンライン「しまばら湧水館(旧三村家住宅)石柱門及び石塀」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/289159
- 島原市「しまばら湧水館(旧三村邸)」
- https://www.city.shimabara.lg.jp/page2877.html
最終更新日: 2026.07.16