平戸藩主・松浦熈が平戸瀬戸を望む斜面に構えた別邸
梅ヶ谷津偕楽園は、長崎県平戸市明の川内町にある平戸藩10代藩主・松浦熈(まつら ひろむ)の別邸で、天保10年(1839年)に建てられた主屋・石塀及び石段・石垣と天保4年(1833年)の稲荷社の4件が、平成17年(2005年)12月26日に国の登録有形文化財となった。平戸島北部の東岸にあり、九州本土とのあいだの平戸瀬戸に面した斜面に位置する。
松浦熈(1791〜1867年)は松浦家の35代にあたり、観中の号でも知られる。平戸市の文化遺産データベースによれば、この地の開発は30代の松浦棟が「開林舎」と名づけた茶屋を設けたことに始まる。いったん荒れたのち、文政13年(1830年)に熈が開墾に通じた人物を募り、平戸の豪商・近藤慶吉が選ばれて造園が始まった。
園の名は天保14年(1843年)に定まったとされ、「民とともに楽しむ」という『孟子』の一節にちなむと平戸市は説明している。長崎県の観光サイトは、熈が近藤慶吉を園主として梅谷の姓を与えたと紹介しており、「梅ヶ谷津」の名にもその縁がうかがえる。
名勝の庭と、4件の登録文化財
梅ヶ谷津偕楽園の庭園は、平成25年(2013年)10月17日、平戸城下の棲霞園とあわせて「棲霞園及び梅ヶ谷津偕楽園」の名で国の名勝に指定された。平戸市によれば偕楽園側の範囲は15,256平方メートルに及ぶ。2つの別邸庭園は、熈が立地と目的に応じて造り分けたものと評価されている。
長崎県の解説によると、北側の斜面一帯には梶・犬槙・木斛・椨・櫨が植えられ、藩の財政を意識した見本園の役割を担っていたと考えられている。盆栽仕立ての梅や花壇もあり、園内の一角には窯を設けて焼き物づくりを試みた時期もあった。そのとき焼かれた装飾つきの陶器は、今も花壇の縁取りとして残る。茶の湯や詩歌、蹴鞠の場であった一方、海防の緊張から砲台が置かれ、火災時の避難場所にも当てられたという。
建物と工作物のうち、主屋・石塀及び石段・石垣・稲荷社の4件が登録有形文化財である。登録番号は42-0046から42-0049まで連続し、いずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。庭の骨格をなす石積みと、園を使った人の住まい、園内の小祠が、そろって登録の対象になっている。
なお、建物の年代には資料による違いがある。長崎県の観光サイトは1816年の建築とするが、文化庁の記録と長崎県の文化財データベースはいずれも天保10年(1839年)としており、ここでは後者に従う。
梅ヶ谷津偕楽園の敷地の歩き方
梅ヶ谷津偕楽園は北の山を背に、南の海へ向かって段をなす。来訪者の通路はもともと北の山側から下りてくるように造られており、延長11メートルの石段が主屋の玄関手前の通路へと続く。石段の下方には延長6メートルの石塀が築かれている。
主屋は斜面の中腹にあり、東側中央に玄関を設ける。山の高低差を使って南向きの2階建とし、海側を開き、山側に茶室などを配した別邸である。主屋の前に立って南を向くと、足もとを東西に走る石垣と、その先に広がる庭と平戸瀬戸が視界に入る。
石垣は主屋の南側を東西に55メートル走り、その西端から南へ弓なりに42メートル延びて畑地を区切る。合わせて97メートル。稲荷社は敷地の南西にあり、石造の祠と鳥居が並ぶ。北の石段から主屋、南の石垣、南西の稲荷社へと下っていけば、4件をひと筆書きでたどれる。
梅ヶ谷津偕楽園の公開とアクセス
主屋は資料館として公開されており、長崎県の観光サイトによれば、開館は午前8時30分から午後5時まで、毎週木曜日が休み、入館料は中学生以上400円、小学生以下は無料である(問い合わせ 080-2743-6946)。館内には書物や食器、玩具、蹴鞠の道具などが展示されていると紹介されている。
ただし、近年は休館しているとの情報もあり、公開状況は変わっている可能性がある。訪れる前に電話で開館を確かめたい。
車では平戸大橋を渡って約5分。路線バスを使う場合は西肥バスの「鞍掛」停留所で降り、徒歩15分ほどである(長崎県の文化財データベースによる)。所有者は個人で、敷地は私有地にあたるため、見学は開館時間内に限り、案内の範囲にとどめたい。
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「梅ヶ谷津偕楽園主屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005207
- 文化庁 国指定文化財等データベース「梅ヶ谷津偕楽園石塀及び石段」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005208
- 文化庁 国指定文化財等データベース「梅ヶ谷津偕楽園石垣」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005209
- 文化庁 国指定文化財等データベース「梅ヶ谷津稲荷社」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005210
- 文化遺産オンライン「棲霞園及び梅ヶ谷津偕楽園」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/275193
- 長崎県の文化財「梅ヶ谷津偕楽園(主屋、石塀及び石段、石垣、稲荷社)」
- https://www.pref.nagasaki.jp/bunkadb/index.php/view/392
- 長崎県の文化財「棲霞園及び梅ヶ谷津偕楽園」
- https://www.pref.nagasaki.jp/bunkadb/index.php/view/721
- 平戸学 平戸市文化遺産データベース「棲霞園及び梅ヶ谷津偕楽園」
- https://www.hirado-net.com/hiradogaku/heritage/detail.php?mid=84
- ながさき旅ネット「梅ヶ谷津偕楽園」
- https://www.nagasaki-tabinet.com/guide/356
最終更新日: 2026.09.19
基本情報
| 名称 | 梅ヶ谷津偕楽園 |
|---|---|
| 所在地 | 長崎県平戸市明の川内町348 |
| 所有者 | 個人 |
| 指定 | 登録有形文化財 4件 |
| 座標 | 33.34985, 129.54517 |