19平方メートルが担う、通りの表構え

旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵は、奈良県奈良市南袋町31-4の屋敷地北西隅に建つ土蔵造二階建の建物で、昭和15年(1940年)頃の建築、令和7年(2025年)3月13日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

建築面積は19平方メートル。一辺4メートル半に届かない正方形に近い規模で、同じ敷地で登録された三棟のうち最も小さい。それでも通りの景観にいちばん強く効いているのはこの蔵である。三棟のうち、二階分の壁面をそのまま道路際に立てているのは蔵だけだからだ。

布江田家が土地を得たのは明治23年(1890年)だが、大正から昭和10年代初め頃までは大阪梅田で湯屋業を営み、奈良の敷地は荒廃していたと奈良市文化財課は記す。奈良へ戻ってから敷地全体を整えた際、昭和15年の主屋改築と同時期に建てられたのがこの蔵とみられている。平成29年(2017年)に改修。

土蔵という構法、そして登録の理由

土蔵は板壁に漆喰を塗った小屋ではない。木の軸組に土を厚く塗り重ねて壁体そのものを土の塊とし、外側を漆喰で仕上げる。この厚みの目的は火である。木造家屋が軒を接して並ぶ町では、蔵は失えないものを納める場所であり、壁厚は近隣の火事に耐えて中身を守り切るために決められた。重い扉、小さな開口、塗り込められた窓まわりは、すべてこの一点から導かれている。

屋根の選択も同じ方向を指している。この蔵は切妻造・平入で、葺き方は本瓦葺。平瓦と丸瓦を組み合わせる古い形式で、桟瓦より重く、手も材料もかかる。同じ敷地の主屋と表門はいずれも桟瓦葺である。三棟のうち蔵だけに本瓦を使ったという事実には、どの建物を重く扱ったかという判断が表れている。

登録有形文化財は、重要文化財の「指定」とは仕組みが違う。指定はほぼあらゆる現状変更に国の許可を要するが、平成8年(1996年)に加わった登録制度は、外観を大きく変える工事に届出を義務づけるにとどめている。件数が多く、近代に属し、残す価値はあるが使いながら守るほうが現実的な建物、その受け皿として設計された枠組みである。蔵に付された登録基準は第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。奈良市の評価は、質の良い材を用いて堅実に造られている点を挙げ、単体ではなく布江田家の屋敷構えを構成する一棟としての価値を認めている。登録番号は29-0365。主屋の直後、表門及び塀の直前という並びになる。

二つの面、異なる仕上げ

この建物のおもしろさは、所有者が何を重んじたかを壁からそのまま読み取れるところにある。

上部の壁は漆喰塗。軒下には軒蛇腹が廻る。漆喰で水平に突き出した帯で、洋風建築のコーニスにあたる役割を果たす。白い壁面に一本の影の線を落とし、規模に不釣り合いなほどの格式を小さな建物に与えている。関西の商家の蔵によく見られる手法で、その蔵が「見られること」を前提に造られた証拠になる。

その下で扱いが分かれる。腰の部分は、敷地内側が海鼠壁。平瓦を斜め格子に張り、目地を漆喰で厚く盛り上げて仕上げるもので、暗い方形と白い畝が交互に並ぶ独特の面ができる。盛り上げた目地の断面が海鼠に似ることからこの名がついた。手間がかかり、雨に強く、そして明らかに装飾的である。いっぽう道路側の腰は竪板張、すなわち板を縦に張った素朴な仕上げにとどまる。

順に並べてみると、判断の筋道が見えてくる。道路は近隣の人が通る場所であり、内庭は家人が暮らし、門をくぐった客を迎える場所である。装飾は内側の面に配された。現代の設計判断とはほぼ逆向きで、この家がどちらを本当の観客と考えていたかがうかがえる。

戸口は主屋側にあたる東面に開き、庇が付く。奈良市の解説によれば、南面上部と戸口の脇には漆喰で塗り込めた庇付きの窓が設けられている。防火のために開口部を漆喰で包み込む、土蔵の常法である。

小屋組についても文化庁の記録が触れている。妻梁で地棟を受け、その上に立てた束で棟木を支持する構成。小規模な切妻を経済的かつ堅固に組む方法で、二階に上がれば見上げて確かめられる。

見学について

三棟のうち、見学がもっとも容易なのが蔵である。予約も料金も要らない。ならまち南西部の公道に面しているため、漆喰の壁面、軒蛇腹、腰の板張りは、時間を問わず通りから観察できる。内部は事情が異なる。敷地は株式会社はる家の私有地で、宿泊施設「はる家 ならまち」として営業しており、一般公開・拝観券・見学ツアーはいずれもない。

可能なら午後の低い光の時間に訪ねたい。漆喰の蛇腹や海鼠壁の凹凸は斜めから当たる光で初めて読める。真昼の平らな光では、どちらも一枚の白い面に均されてしまう。ただし通りから見えるのは板張りの面なので、海鼠壁を見るには門の内側に入る必要があり、実際には宿泊が条件になる。宿泊の支払いはチェックイン時の現金のみでカードは使えない点も、あわせて覚えておきたい。

蔵と表門は、別々ではなく一緒に見るべきものである。両者は同日に連続する登録番号で登録され、奈良市もこの通りの歴史的景観を二棟が共同で担うものとして扱っている。一枚の視野に両方が入る位置まで下がってみる。ここでできるもっとも有効な観察はそれだ。

交通は、JR奈良駅から徒歩約15分、近鉄奈良駅から徒歩約12分。市内循環内回りのバスで「八軒町」下車、徒歩5分でも着く。北へ歩けば国宝で世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産でもある元興寺があり、その間のならまちの路地には他の登録有形文化財も点在する。単独の目的地というより、長めの散策のなかに組み込むのが向いている。

Q&A

Q旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵は見学できますか。料金はかかりますか。
A外観は公道に面しており、時間を問わず無料で見学・撮影ができます。内部の見学はできません。敷地は私有地で、宿泊施設「はる家 ならまち」として使われており、一般公開や見学ツアーはありません。
Q旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
A昭和15年(1940年)頃、主屋の改築と同時期に建てられたとみられ、平成29年(2017年)に改修されています。登録有形文化財としての登録は令和7年(2025年)3月13日、登録番号29-0365、第109回登録です。
Q旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵の壁は、なぜ面ごとに仕上げが違うのですか。
A腰の仕上げが、敷地内側は海鼠壁、道路側は竪板張になっています。手間のかかる装飾的な仕上げは、通行人が見る面ではなく、家人と客が屋敷の内から見る面に向けられました。
Q旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵の規模はどのくらいですか。
A文化庁のデータベースでは土蔵造2階建、建築面積19平方メートルとされ、同じ敷地で登録された三棟のうち最小です。主屋は174平方メートルですから、規模の差は大きく開いています。
Q旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵の屋根は、他の二棟と何が違うのですか。
A蔵は平瓦と丸瓦を組み合わせる本瓦葺で、主屋と表門は軽い桟瓦葺です。重く手のかかる形式を蔵だけに用いた点に、納めるものを守るという蔵の役割が表れています。

基本情報

名称旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵(きゅうふえだけじゅうたく(はるやならまち)くら)
所在地奈良県奈良市南袋町31-4
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号29-0365/登録基準1「国土の歴史的景観に寄与しているもの」
指定年令和7年(2025年)3月13日登録(第109回登録)
員数1棟
寸法土蔵造2階建、瓦葺、建築面積19平方メートル
所有者株式会社はる家
公開状況外観は公道から常時見学可。内部非公開。敷地は宿泊施設「はる家 ならまち」として使用中。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015349
文化遺産オンライン「旧布江田家住宅(はる家ならまち)蔵」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/611393
奈良市文化財課「旧布江田家住宅(はる家ならまち)主屋、蔵、表門及び塀」
https://www.city.nara.lg.jp/site/bunkazai/231095.html
奈良県「奈良県内 登録有形文化財の状況」
https://www.pref.nara.lg.jp/documents/22241/bunkazaiitiran.pdf
はる家 ならまち 公式サイト(所有者)
https://yado-haruya.com/naramachi

最終更新日: 2026.07.30