公園へ移された商家の座敷棟
燕喜館(旧斎藤家住宅主屋)は、新潟県新潟市中央区一番堀通町の白山公園内にある明治41年(1908年)建築の近代和風建築で、平成12年(2000年)4月28日に国の登録有形文化財となった。
この建物は公園の休憩施設として生まれたわけではない。廻船と交易で財を成した斎藤喜十郎家、新潟を代表する大商家のひとつの邸宅のうち、来客をもてなす部分である。邸宅は東堀通七番町、ここから東へ少し行った旧市街の密な町割のなかにあった。斎藤家が「燕喜館」と呼んでいたのが、この接客部にあたる。
その部分が市に寄付され、新潟市は建物を解体して白山公園の一角へ移し、新たに茶室を加えて再建した。開館は平成9年(1997年)秋である。
移築は建物から何かを奪う。失われたものも書いておきたい。表通り沿いの門とその奥の玄関は、移築後に使い勝手を考えて付け加えられたものである。本来の玄関は反対側、白山神社に面していた。残ったのは核心の部分で、格式の順に並ぶ座敷群と、水に向かって開く縁側である。
いま調達できない材
造りは数寄屋風。茶室から発して裕福な住宅の座敷へ持ち込まれた手法で、数寄屋は意識的に控えめである。書院造の重い組物や華やかな彩色を退け、細い部材と塗らない木を選ぶ。金のかけ方は、近づいて見る者にしか見えない。
だから近づいて見たい。
桁と長押は長さ十間、およそ18メートルに及び、継いだものではなく一本ものである。この長さで通直な材が採れる木は、現在では事実上手に入らない。奥座敷には杉の四方柾の柱が立つ。四面すべてを柾目に取るには相当の径の丸太から一本を挽き出すほかない。円弧型に削り出された地袋、シャンデリア、京の清水焼の燈籠もある。
襖絵と、鴨居の上に嵌まる透かし彫りの欄間は、この家が装飾に費やした場所である。一周して終わりにせず、時間をかけて見たい。
平面はひとつのことを非常にうまくやっている。座敷とその縁側が白山公園の蓮池へ向いており、部屋と庭が可動の境界を挟んだ一続きの空間として読める。この関係はもとの邸宅と庭のあいだにも成立していた。公園のこの一角が選ばれた理由のひとつでもある。
水琴窟と、館内での過ごし方
主庭には水琴窟が埋められている。仕掛けは単純で、しかしどこか出来過ぎている。底に小さな穴を開けた瓶を伏せて地中に埋め、手水鉢からの水が穴を伝って瓶の中の浅い水面へ落ちる。埋められた空洞がその一滴ずつを共鳴させ、鈴に似たかすかな音に変える。聞き取るには、こちらが静かにならなければならない。
館内では抹茶と珈琲を有料で供している。ここでの時間の使い方としては、それが本来の形だろう。池に向いて座り、茶を一服頼み、滞在を五分ではなく三十分にする。
敷地にはもうひとつ、市民茶亭「遊神」がある。新潟市民茶会20周年を記念して寄付を受けて設けられた茶亭で、茶道活動に貸し出されている。
主要な四室について注意を一つ。奥座敷、前座敷、居室、茶室はいずれも文化活動のための貸室となっており、日によってはそのうちのいくつかが使用中である。貸し出しのない部屋は無料で見学できる。特定の部屋が目当てなら、事前に電話で確認するのが確実である。
見学案内と、取り違えやすい一点
見学時間は午前9時から午後5時まで。貸室はこれより遅くまで運用されている。休館日は毎月第1・第3月曜日(月曜が休日の場合は翌日)と12月29日から1月3日まで。見学は無料である。
JR越後線白山駅から徒歩約20分。バスなら「市役所前」で降りて徒歩3分、市役所が正面に建っている。車の場合は建物前の白山公園駐車場Aを利用する。公園の駐車場はA〜D合わせて約600台、普通車は30分100円である。
ここで一点。新潟市の施設案内は移築部分について「登録文化財に指定されています」と記しており、旅行ガイドにも同様の書き方が見られる。しかし国の記録上、燕喜館は登録有形文化財であって、指定ではない。登録番号15-0073、平成12年4月28日登録、同年5月17日告示。登録と指定は同じ法律の下の別の制度である。平成8年(1996年)に始まった登録制度は築約50年以上の建造物を対象とし、所有者が手を入れて使い続ける余地を広く残す。文化財が貸室として稼働できているのは、この制度だからである。
建築年にも注意がいる。文化庁は明治41年(1908年)とする。旅行ガイドの一部は明治40年(1907年)、あるいは「明治40年頃」とする。公的な数字を採るべきである。
斎藤家に関心が向いたなら、同家の別邸も残っている。西大畑町、ここから2キロほどの場所で、その庭園は平成27年(2015年)3月に国の名勝に指定された。市が運営する歴史的建造物としては旧小澤家住宅、旧日本銀行新潟支店長役宅(砂丘館)も近い。燕喜館は日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間〜北前船寄港地・船主集落〜」の構成資産でもある。
Q&A
- 燕喜館(旧斎藤家住宅主屋)は見学できますか。開館時間と料金は?
- 見学できます。見学時間は午前9時から午後5時までで、料金は無料です。休館日は毎月第1・第3月曜日(休日の場合は翌日)と12月29日から1月3日まで。当日貸室として使用中の部屋には入室できません。
- 燕喜館はもとから白山公園にあったのですか。
- いいえ。新潟市中央部の東堀通七番町にあった大商家・斎藤喜十郎家の邸宅のうち、接客部にあたる部分です。斎藤家から市への寄付を受けて解体・移築され、新たに茶室を加えて白山公園内に再建、平成9年(1997年)秋に開館しました。
- 燕喜館は重要文化財ですか、それとも登録有形文化財ですか。
- 登録有形文化財(建造物)です。登録番号15-0073、平成12年(2000年)4月28日登録、同年5月17日告示。地元の案内には「指定」と書かれている例がありますが、登録は指定とは別の、より規制の緩やかな制度です。
- 燕喜館の館内では何に注目すればよいですか。
- 桁と長押は長さ十間(約18メートル)の一本もので、奥座敷の柱は四面すべてが柾目の杉四方柾です。ほかに円弧型の地袋、清水焼の燈籠、透かし彫りの欄間、そして主庭に埋められた水琴窟が見どころです。
- 燕喜館へのアクセス方法を教えてください。
- JR越後線白山駅から徒歩約20分です。バスの場合は「市役所前」下車、徒歩約3分。車は建物前の白山公園駐車場Aが利用でき、普通車30分100円の有料です。所在地は新潟市中央区一番堀通町1-2、白山公園内です。
基本情報
| 名称 | 燕喜館(旧斎藤家住宅)主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県新潟市中央区一番堀通町1-2(白山公園内) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 15-0073/登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 平成12年(2000年)4月28日登録、同年5月17日告示(第23回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積241平方メートル |
| 所有者 | 新潟市 |
| 公開状況 | 一般公開(見学無料)。見学9時〜17時。毎月第1・第3月曜日(休日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日休館。貸室使用中の部屋は入室不可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/燕喜館(旧斎藤家住宅)主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001601
- 文化遺産オンライン/燕喜館(旧斎藤家住宅)主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/138871
- 新潟市中央区/燕喜館
- https://www.city.niigata.lg.jp/chuo/shisetsu/yoka/bunka/enkikan.html
- 新潟市中央区/新潟市旧齋藤家別邸
- https://www.city.niigata.lg.jp/chuo/shisetsu/yoka/bunka/saitouke.html
- ニッポン旅マガジン/燕喜館
- https://tabi-mag.jp/ng0020/
最終更新日: 2026.08.13