早撰堂菓子店西土蔵:城下町村上に息づく明治の蔵

新潟県村上市の旧城下町の目抜き通り・大町に佇む老舗和菓子店「早撰堂」。その敷地の西南隅に、明治20年(1887年)に建てられた西土蔵がひっそりと時を刻んでいます。主屋よりも6年早く建造されたこの土蔵は、平成17年(2005年)に国の登録有形文化財に登録されました。主屋・東土蔵とともに、城下町の商家の営みを今に伝える貴重な建造物群の一つです。

土蔵とは? 日本の伝統的な蔵建築

土蔵(どぞう)とは、厚い土壁で造られた日本の伝統的な倉庫建築です。耐火性・防湿性に優れ、商品や文書、家財道具などの貴重な品を守るために、江戸時代から明治時代にかけて商家を中心に広く建てられました。白壁や黒壁の重厚な外観、分厚い扉、瓦葺きの屋根は、日本の歴史的な商業地区を象徴する景観要素となっています。

早撰堂菓子店西土蔵は、こうした土蔵建築の優れた実例です。鉢巻(建物の外壁を水平に巡る装飾帯)には黒漆喰塗が施され、扉には掛子塗(かけこぬり)と呼ばれる漆喰の技法が用いられており、格式高い丁寧なつくりとなっています。これらの意匠は、江戸時代から続く菓子商の経済力と美意識を物語っています。

建築の特徴と構造

西土蔵は、主屋の西方、敷地の西南隅に東西棟で建っています。規模は桁行約2間半(約4.5メートル)、梁間約3間(約5.4メートル)で、建築面積は30平方メートルです。切妻造・桟瓦葺の2階建で、妻側(東面)に戸口を設ける妻入の形式をとっています。

注目すべき特徴の一つが「置屋根」(おきやね)です。これは、土壁の上に屋根を独立して載せる工法で、壁体と屋根を構造的に分離することで、雨水の浸入を防ぎ、蔵内の温度・湿度を安定させる効果があります。菓子の原材料や完成品の保管に最適な環境を維持するための工夫といえるでしょう。

棟梁を務めたのは増田寅吉で、6年後の明治26年(1893年)に建てられた主屋も同じ増田寅吉の手によるものです。同じ棟梁が長年にわたって一つの商家の建築を担ったことは、その技術への厚い信頼を示すとともに、敷地内の建物群に統一感のある佇まいをもたらしています。

なぜ文化財に登録されたのか

早撰堂菓子店西土蔵は、平成17年(2005年)12月26日に主屋とともに国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録の背景には、いくつかの重要な価値が認められています。

第一に、明治期の土蔵建築として、構造・意匠ともに良好な保存状態を維持している点です。黒漆喰塗の鉢巻や掛子塗の扉など、現代では見ることが少なくなった伝統的な左官技法が確認できます。第二に、主屋・東土蔵とともに、村上大町の歴史的な町並み景観を構成する重要な要素となっている点です。村上は城下町の四大要素(城跡・武家屋敷・町屋・寺町)がすべて残る、全国的にも希少な町として知られています。第三に、明治期の商家の暮らしと商いの様子を具体的に伝える建造物として、歴史的・文化的な資料価値を有している点です。

早撰堂:江戸時代から続く和菓子の名店

早撰堂(そうせんどう)は、江戸時代から続く村上の老舗和菓子店です。1600年代に姫路から殿様に従って村上に移り住んだ商家をルーツとし、明治26年(1893年)に現在の主屋が建てられ、本格的な菓子店としての歴史を重ねてきました。

店内には、すべて手作りの和菓子が並びます。村上名産の「葡萄羹(ぶどうかん)」は、地元産の葡萄を使った透き通る美しさの銘菓で、何世代にもわたって愛されてきました。「鮭の切り身落雁(らくがん)」は、鮭の町・村上ならではの遊び心あふれるお菓子で、本物と見紛うほど精巧な色と形が特徴です。四季折々の上生菓子は市内の飲食店でもお茶請けとして採用されるほどの品質を誇ります。

平成16年(2004年)には、「むらかみ町屋再生プロジェクト」の記念すべき第1号として、大正時代の写真をもとに店舗外観が復元されました。かつてアーケード商店街だった通りに、昔ながらの風情を取り戻すこの取り組みは、その後10年間で30軒以上の町屋再生につながり、村上の町並み景観を大きく変えました。

見どころと楽しみ方

西土蔵は店舗敷地内にあるため、内部の常時公開は行われていませんが、外観は敷地内から望むことができます。併せて、主屋内部の見学もお楽しみください。吹き抜けの茶の間に架かる太い梁、箱階段に組み込まれた重厚な金庫、囲炉裏、神棚、そして壁面に並ぶ昔ながらの菓子木型の数々は、まるで時が止まったかのような空間を生み出しています。

ガラスの格子戸を開けて店内に入ると、昔ながらのガラスのショーケースに色とりどりの和菓子が並び、奥には歴史を感じるお座敷が広がります。和菓子を購入しながら、百年以上の歳月を重ねた商家建築をゆったりと味わうことができます。

城下町村上と周辺の見どころ

村上市は、新潟県の最北部に位置する歴史ある城下町です。城跡・武家屋敷・町屋・寺町という城下町の四大要素がすべて残っており、全国的にも希少な町として高く評価されています。JR羽越本線・村上駅からアクセスでき、コンパクトな旧城下町は徒歩で巡ることができます。

早撰堂がある大町通りは、旧城下町の商業の中心です。通り沿いには、千匹以上の塩引き鮭が吊るされる鮭料理の名店「千年鮭 きっかわ」、創業約250年の老舗茶舗「九重園」、国の登録有形文化財に指定されたギャラリーや酒店など、歴史的な建造物が点在しています。

村上は、鮭(さけ)、村上茶(日本最北のお茶の産地)、木彫堆朱(きぼりついしゅ)の三つの伝統文化で知られています。これらの文化は日常生活に深く根付いており、一般的な観光地では得られない本物の文化体験を提供してくれます。

周辺の見どころとしては、標高135メートルの臥牛山に築かれた村上城跡(山頂まで約20分、城下町を一望できます)、村上大祭の山車「おしゃぎり」を展示するおしゃぎり会館、世界初の鮭の自然ふ化増殖に関する資料を展示するイヨボヤ会館、そして日本海に沈む夕日が絶景の瀬波温泉などがあります。

季節のイベントとおすすめの訪問時期

村上の城下町は、四季折々のイベントを通じて町屋文化を体験できる貴重な場所です。春(3月〜4月初旬)には「城下町村上 町屋の人形さま巡り」が開催され、数十軒の町屋が代々伝わるお雛様や武者人形を公開します。秋(9月〜10月)には「町屋の屏風まつり」で、各家秘蔵の屏風が披露されます。12月には「越後村上鮭塩引き街道」として、店先に何百匹もの塩引き鮭が吊るされる、北国ならではの冬の風物詩が展開されます。

気候とイベントの両方を楽しむなら、春(3月下旬〜4月)と秋(10月〜11月)がおすすめです。7月の村上大祭、冬の鮭塩引き街道も、それぞれ見逃せない魅力があります。

Q&A

Q西土蔵の内部は見学できますか?
A西土蔵は店舗敷地内に位置しており、通常は内部の一般公開は行われていません。ただし、外観を敷地内から望むことは可能です。また、隣接する主屋の内部は見学でき、吹き抜けの茶の間や箱階段、金庫などの見どころを楽しめます。「町屋の人形さま巡り」などのイベント期間中は、追加の見学箇所が公開される場合もあります。
Q早撰堂のおすすめの和菓子は何ですか?
A村上名産の「葡萄羹」は、透き通った美しさと上品な甘さが魅力の看板商品です。「鮭の切り身落雁」は本物の鮭と見間違うほど精巧なユニークなお菓子で、お土産にも喜ばれます。季節の上生菓子や、つぶ餡・村上茶餡の最中もおすすめです。
Q村上駅からのアクセス方法は?
AJR村上駅から徒歩約20分、またはタクシーで約5分です。駅から西に向かい、旧城下町エリアの大町通りを目指してください。大正ロマンあふれる外観と風情ある看板が目印です。
Q近くに他の文化財はありますか?
A大町通りとその周辺には、千年鮭きっかわ(吉川家住宅)、益甚酒店、ギャラリーやまきちなど、国の登録有形文化財に登録された建物が数多くあります。旧城下町全体が徒歩で巡れるコンパクトな範囲に収まっており、2〜3時間で主要な見どころを回ることができます。

基本情報

名称 早撰堂菓子店西土蔵(そうせんどうかしてんにしどぞう)
種別 国登録有形文化財(建造物)
建築年 明治20年(1887年)
構造 土蔵造2階建、瓦葺、建築面積30㎡
棟梁 増田寅吉
登録日 平成17年(2005年)12月26日
所在地 〒958-0842 新潟県村上市大町1510
営業時間 8:30〜19:00
定休日 日曜日(イベント期間中は営業)
電話番号 0254-52-2528
アクセス JR村上駅から徒歩約20分

参考文献

早撰堂菓子店西土蔵 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/151725
早撰堂菓子店主屋 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/117994
国指定文化財等データベース – 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005115
町屋づくりの和菓子処 早撰堂 – 村上市中央商店街振興組合
https://958.jp/eat/sousendo/
早撰堂 – 村上市観光協会
https://www.sake3.com/spot/301
早撰堂 レトロな空間の町屋で常連も多い手作り和菓子のお店 – スプスププラス
https://sp-sp.net/report/sousendo/
早撰堂 – ことりっぷ
https://co-trip.jp/spot/71904

最終更新日: 2026.03.12