明治19年に建て直された吹放ち鐘楼
本光寺鐘楼は、新潟県佐渡市沢根篭町の浄土真宗寺院・本光寺の鐘楼で、明治19年(1886年)の再建、平成20年(2008年)3月7日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。本堂の東北に東西棟で建ち、面積はわずか6.5平方メートルにすぎない。
再建年代には理由がある。寺伝によれば、先代の鐘楼は宝暦12年(1762年)の地震で破壊され、建て直しは一世紀以上あとの明治19年まで待たねばならなかった。その明治19年といえば、官営鉄道が延び、煉瓦造の官庁建築が各地に現れはじめた時期である。しかし沢根の一隅では、大工は近世そのままの手法で小屋を組み上げた。文化庁の解説も「伝統的な様式になる標準的な吹放ち鐘楼」と記す。
その平凡さこそが登録の根拠になっている。適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。造形の突出ではなく、質のよい標準例として、しかも各地で急速に失われつつある型として評価された。
小さな架構を読む
形式は方一間吹放ち。四面とも壁を設けず、梵鐘も軸部も接合部も、すべてが目に見える状態に置かれる。
基壇上に立つのは四本の方柱である。柱は内転びをもち、上端をわずかに内側へ傾ける。軸部を安定させる古典的な技法だが、隅の一本を空に透かして見上げないと気づきにくい。柱は腰貫と内法貫の二段で固められ、その上に虹梁状に絵様を刻んだ頭貫と台輪が回る。
組物は平三斗組。斗と肘木を一平面に組む、最も簡素な標準形式である。柱間の中備にも同じ平三斗を据え、こちらには木鼻を付ける。妻には虹梁を渡して大瓶束を立て、軒は二軒繁垂木とする。垂木を密に打つことで、小屋根ながら軒下に深い影が生まれる。
装飾的な誇張はどこにもない。数歩先に建つ大門が、四十年早い弘化3年(1846年)の建立でありながら粽付円柱と海老虹梁を駆使しているのと比べると、鐘楼は同じ境内における静かな側の建物といえる。
鉱山の港に響いた鐘
沢根は農村として育った集落ではない。背後の山中に天文11年(1542年)に開かれた鶴子銀山の積出港として発展し、眼下の浜には炭やろうそくを運ぶ船が寄せた。本光寺自身、初期には鶴子十八人場という山中の地に置かれ、天明元年(1781年)にようやく海沿いの街道筋へ下りている。鶴子銀山は令和6年(2024年)7月、「佐渡島の金山」の一部として世界文化遺産に登録された。
労働の時刻に従って人が動く土地で、寺の鐘は信仰の道具であると同時に公共の時計でもあった。なお現在の鐘楼は当初の位置に建っているわけではない。昭和48年(1973年)、道路拡幅にともなう大門・塀の移動に合わせ、境内での移築が行われている。
訪ねる際に
鐘楼は街路ではなく境内に建つため、登録有形文化財である大門をくぐった内側から眺めることになる。本光寺は檀家を持つ現役の真宗寺院で、拝観料も定時の開門時間も設けていない。静かに立ち入って外観を見る程度であれば通常は差し支えないが、長時間の撮影や本堂内部の拝観を希望する場合は事前に寺へ連絡し、法要や葬儀の日は避けたい。梵鐘を訪問者が撞くことはできない。
両津港からは車でおよそ40分。新潟港からのカーフェリーとジェットフォイルはいずれも両津港に着く。路線バスは本線(両津港⇔相川)が寺の前の県道45号線を通り、最寄りの停留所は沢根学校前である。相川の鉱山遺跡群やガイダンス施設「きらりうむ佐渡」までは、そこから車で15分ほど北上する。
Q&A
- 本光寺鐘楼は見学できますか。拝観料はかかりますか。
- 鐘楼は境内に建っており、拝観料も受付窓口もありません。ただし本光寺は檀信徒のための現役寺院ですので、静かに立ち入って外観を見学してください。長時間の撮影や本堂内部の拝観をご希望の場合は、事前に寺へお問い合わせください。
- 本光寺鐘楼はいつ建てられたのですか。なぜ明治の建築なのですか。
- 現在の鐘楼は明治19年(1886年)の再建です。寺伝によれば先代は宝暦12年(1762年)の地震で破壊され、建て直しは明治期まで持ち越されました。ただし意匠と構法は近世の伝統をそのまま踏襲しています。
- 本光寺鐘楼は重要文化財ですか。
- 重要文化財ではありません。平成20年(2008年)3月7日登録の登録有形文化財(建造物)で、登録番号は15-0293、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。登録は指定とは別系統の、届出制による保護制度です。
- 本光寺鐘楼で注目すべき建築的な見どころはどこですか。
- 方一間吹放ちで壁がないため、架構がそのまま観察できます。基壇上の方柱に付けられた内転び、腰貫と内法貫の二段、虹梁状の頭貫と台輪、平三斗の組物と木鼻付の中備、妻の虹梁大瓶束、そして二軒繁垂木の軒をご覧ください。
- 本光寺鐘楼のほかに、本光寺で登録されている建物はありますか。
- 平成20年(2008年)3月7日に本堂・鐘楼・大門・塀の4棟が同時に登録されています。うち大門と塀は県道に面しており、公道から常時外観を見学できます。
基本情報
| 名称 | 本光寺鐘楼(ほんこうじしょうろう) |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県佐渡市沢根篭町字浜方39 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 15-0293/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成20年(2008年)3月7日登録(告示3月19日) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造、瓦葺、面積6.5平方メートル |
| 所有者 | 宗教法人本光寺 |
| 公開状況 | 境内に所在。拝観料・定時開門はなく、観光施設としての公開は行っていない |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 本光寺鐘楼
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006820
- 佐渡市 — 国登録 有形文化財:本光寺
- https://www.city.sado.niigata.jp/site/bunkazai/4965.html
- 佐渡市 — 鶴子銀山(相川鶴子金銀山)
- https://www.city.sado.niigata.jp/site/mine/4524.html
- 佐渡市 — 佐渡島の金山
- https://www.city.sado.niigata.jp/site/mine/
最終更新日: 2026.08.13