旧三国街道に向く煉瓦の門

新潟県立加茂農林高等学校正門は、新潟県加茂市神明町にある明治37年(1904年)建設の煉瓦造の門で、令和4年(2022年)2月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

主門柱二本の間口は4.6メートル。北側にはもう一本、同じ意匠の脇門柱が立ち、正面には煉瓦の柱が三本並ぶ構成になる。校内ではこの門を「赤門」と呼び慣わしてきたという。

門が向いているのは旧三国街道である。越後と江戸を結んだこの街道に面し、校地の中央に正門を据えた。明治37年の時点で、県立の農林学校は地域にとって新しい種類の施設だった。街道を行き交う人に対して学校が最初に示すのが、この門の表構えである。

門柱を下から読む

主門柱に近づくと、構成が四つの層に分かれているのがわかる。

足元は基礎石。その上に煉瓦のイギリス積による角柱が立つ。長手だけの段と小口だけの段が交互に重なる積み方で、横方向の縞が強く出る。柱の上部には鉢巻石がめぐり、そこに狭間が彫られている。城郭の塀に穿たれる狭間の形を、装飾として石に写したものである。最上部の笠石には歯形模様、すなわち西洋古典建築の軒に並ぶデンティル(歯飾り)が刻まれる。

城郭の語彙と古典主義の語彙が、一本の柱の上下に同居している。どちらも引用として浮いているわけではなく、石工が手持ちの意匠として等価に扱った結果に見える。明治の建設現場が輸入された造形をどう消化したかを、小さな門柱一本で確認できる。北の脇門柱も同じ意匠でまとめられているため、歩きながら同じモチーフを二度見ることになる。

煉瓦の積み方は、同じ校地にあるもう一件の登録有形文化財と比べると面白い。明治40年建設の第二洋灯室はオランダ積で積まれている。日本の用語ではオランダ積はイギリス積に近い系統とされ、主な違いは隅部の納め方にある。同一の学校の敷地内に、時期の近い二種類の積み方が並存している例はそう多くない。

この門が示していたもの

加茂農林高校の前身は、明治34年(1901年)9月に設立が認可され、明治36年(1903年)5月に新潟県立農林学校として開校した。門はその翌年に建てられており、明治39年(1906年)の加茂農林学校への改称より前にあたる。初代校長・赤星朝暉は英国の学寮制を意識した寄宿舎教育を敷き、戦前の同校は静岡の中泉農学校、愛知の安城農林学校と並ぶ三大農学校と称され、全国から生徒を集めた。

これだけの学校の入口には逸話も付く。三本の門柱から本館へ続く道を、かつて東郷平八郎が馬で通ったと伝わる。出典は新潟県の観光情報であり学校の記録ではないため、地域の言い伝えとして受け取るのが妥当だが、当時の同校が県内で占めていた位置を示す挿話ではある。

門を抜けた先の道は植物園を通って玄関に至る。校地には楓や銀杏、メタセコイアが育ち、秋には一斉に色づく。歩いて入ることを前提にした導線であり、門はその最初の枠にあたる。

令和4年の登録と平成30年の改修

令和3年(2021年)11月19日の文化審議会答申を経て、令和4年2月17日に登録番号15-0565として登録された。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。同じ日に第二洋灯室が15-0564として登録されている。

ここで登録と指定の区別を確認しておきたい。国宝や重要文化財は「指定」であり、厳選と強い規制を伴う。登録有形文化財は平成8年(1996年)の文化財保護法改正で創設された制度で、原則として建設後50年を経過した建造物を対象とし、届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護措置をとる。近代の建造物が評価される前に失われる状況への対応として設けられた。

文化庁のデータベースはこの門を建築物ではなく「その他工作物」に分類し、員数を1基と数える。年代欄には平成30年(2018年)の改修が併記される。雪国の煉瓦構造物が一世紀を超えて使われ続ければ、積雪荷重や凍結融解による傷みは避けられない。門は現在も学校の出入口として日常的に使われており、使われ続けること自体が保存の一形態になっている。

見学について

この校地で自由に見られるのは正門だけである。公道に面しているため、門柱、鉢巻石、笠石の歯形模様は敷地に入らずとも歩道から観察できる。事前の連絡も料金も不要で、路上からの撮影に制限はない。

校地内は事情が異なる。加茂農林高校は現役の県立高校で、平日は授業が行われている。一般公開の制度はなく、拝観時間も拝観料も設定されていない。校地内にある第二洋灯室は非公開である。門より内側に入る必要がある場合は、事前に学校(0256-52-3115)へ問い合わせること。許可されない場合もある。生徒が写り込む可能性があるため、校地内での撮影には学校の了解が要る。

所在地は加茂市神明町2丁目15-5。JR信越線加茂駅から徒歩15分、車で約5分。加茂駅まではJR新潟駅から普通列車で1時間前後、新潟市街から車で約50分である。加茂市は「北越の小京都」と呼ばれ、駅から学校までの道は旧市街を抜けていく。

Q&A

Q新潟県立加茂農林高等学校正門は自由に見学できますか。
A門自体は公道に面しているため、歩道からいつでも見学・撮影できます。料金や事前連絡は不要です。ただし門より内側の校地は現役の高校の敷地であり、立ち入るには事前に学校(0256-52-3115)への問い合わせが必要です。
Q加茂農林高校の正門はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか。
A明治37年(1904年)の建設で、前身の新潟県立農林学校が開校した翌年にあたります。平成30年(2018年)に改修されました。令和3年11月19日の文化審議会答申を経て、令和4年(2022年)2月17日に登録番号15-0565として登録されています。
Q加茂農林高校正門の門柱にはどのような意匠が施されていますか。
A基礎石の上に煉瓦のイギリス積による角柱が立ち、柱頭部には狭間を彫った鉢巻石がめぐります。最上部の笠石には歯形模様(デンティル)が刻まれます。城郭に由来する狭間と西洋古典建築由来の歯飾りが一本の柱に同居する構成で、北の脇門柱も同じ意匠です。
Q加茂農林高校正門の規模はどれくらいですか。
A主門柱二本の間口が4.6メートルです。北側に脇門柱が付き、正面には煉瓦の柱が三本並びます。文化庁のデータベースでは員数1基とされ、建築物ではなく「その他工作物」に分類されています。
Q加茂農林高校には正門のほかにも登録有形文化財がありますか。
A第二洋灯室(ランプ記念館)があります。明治40年(1907年)建設の煉瓦造建物で、寄宿舎の石油ランプを収容し清掃と給油を行った施設です。正門と同じ令和4年2月17日に登録番号15-0564として登録されました。校地内にあり、非公開です。

基本情報

名称新潟県立加茂農林高等学校正門
所在地新潟県加茂市神明町二丁目15-5
指定区分登録有形文化財(建造物/その他工作物) 登録番号15-0565 登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」
指定年令和4年(2022年)2月17日登録(令和3年11月19日答申)
員数1基
寸法煉瓦造、間口4.6メートル、脇門柱付 明治37年建設/平成30年改修
所有者新潟県
公開状況門は公道から常時見学可能。門より内側の校地は非公開で、立入には事前問い合わせが必要(0256-52-3115)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 新潟県立加茂農林高等学校正門
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014153
文化遺産オンライン — 新潟県立加茂農林高等学校正門
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/587703
新潟県立加茂農林高等学校 — 沿革
https://kamonorin-h.nein.ed.jp/1gakkou/history.html
新潟県立加茂農林高等学校 — 交通アクセス
https://kamonorin-h.nein.ed.jp/0info/access.html
にいがた観光ナビ(新潟県観光協会)— 加茂農林高校(門、洋灯室)
https://niigata-kankou.or.jp/location/site/43232
全国ロケーションデータベース(文化庁)— 加茂農林高校(門、洋灯室)
https://www.jldb.bunka.go.jp/location/150300590/

最終更新日: 2026.08.13