了玄庵のツナギガヤ:越後七不思議に数えられる奇跡の古木を訪ねて

新潟県南蒲原郡田上町の了玄寺境内に、ひっそりと佇む一本の榧(カヤ)の大木。「了玄庵のツナギガヤ」と呼ばれるこの木は、大正11年(1922年)に国の天然記念物に指定された、樹齢700年を超える貴重な老樹です。親鸞聖人にまつわる「越後七不思議」のひとつとして古くから語り継がれてきたこの樹木は、植物学的にも極めて珍しい特徴を持ち、学術的価値と信仰の歴史が交差する稀有な存在です。

喧騒から離れた新潟の田園風景の中で、悠久の時を刻み続けるこの不思議な樹木の魅力をご紹介します。

ツナギガヤとは

ツナギガヤは、イチイ科に属する常緑針葉樹「榧(カヤ)」の一種で、学名はTorreya nucifera var. articulataです。了玄寺のツナギガヤは樹高約5メートルとさほど高くはありませんが、周囲約1メートルの主幹から枝が根元近くから八方に広がり、約130平方メートルにわたって地面を覆う堂々たる姿を見せています。

この木の最大の特徴は、新しく伸びた枝の葉の表と裏が完全に反転する年があることです。通常、榧の葉は表面が濃い緑色で裏面はやや白みを帯びていますが、ツナギガヤでは年によって葉の表裏が逆転し、裏面が上を向いて生えてきます。反転した葉は色が薄く目立つため、年ごとの成長がはっきりと区別でき、独特の縞模様のような奇観を呈します。この現象から「お手返しのカヤ」という別名でも呼ばれています。

親鸞聖人と越後七不思議の伝説

ツナギガヤの物語は、日本仏教史において極めて重要な人物である親鸞聖人(1173〜1262年)と深く結びついています。浄土真宗の開祖である親鸞は、承元元年(1207年)、専修念仏の禁止により越後国(現在の新潟県)に流罪となりました。約7年間の越後滞在中、各地で布教活動を行い、数々の伝説を残しました。

伝承によれば、親鸞聖人が護摩堂山に招かれて法話を行った際、城主は農民が年貢米の代わりに糸で繋いで納めた榧の実を聖人に差し上げました。聖人がその実を地に植えたところ、翌年に芽を出し、やがて育った木の実には糸を通した穴の跡が残り、枝には表向きと裏向きの葉が互い違いについたため、人々は大いに驚いたと伝えられています。

この不思議な出来事は「越後七不思議」のひとつに数えられています。越後七不思議とは、親鸞聖人の越後での布教に関連する7つの奇瑞の総称で、新潟市の「鳥屋野の逆ダケ」「焼鮒」、阿賀野市の「三度栗」「数珠掛桜」「八房の梅」、上越市の「片葉の葦」とともに、今も各地で語り継がれています。

なぜ天然記念物に指定されたのか

了玄庵のツナギガヤは、大正11年(1922年)10月12日に国の天然記念物に指定されました。指定の根拠は、植物学における珍奇な畸態(奇形)として学術的に極めて貴重であることにあります。

文化庁の指定解説には「かやの一大老樹にして年々発生する新枝の葉面の表裏全く反転しあるを特徴とす、越後七不思議の一にして畸態学上珍奇なるものなり」と記されています。葉の表裏が反転するという現象は、植物の形態異常を研究する畸態学の観点から極めて稀な事例であり、国内外でも類例の少ない学術的価値を持っています。

なお、了玄寺の榧の木はもともと護摩堂山頂付近のツナギガヤ自生地から移植されたものとされています。その自生地も「田上村ツナギガヤ自生地」として同日に天然記念物に指定されていますが、雪害を受けやすい場所にあったため、原木と思われる老木は現存していません。了玄寺の個体が、この貴重な変異種の唯一確実な存在として保護されています。

魅力と見どころ

最大の見どころは、やはりツナギガヤそのものです。境内で間近に観察でき、葉の表裏が反転する独特の模様をじっくりと確認することができます。秋には榧の実が実り、運が良ければご住職からお守り代わりに実を分けていただけることもあります。

了玄寺は真宗大谷派の寺院で、本尊は阿弥陀如来です。境内には親鸞聖人の像が安置され、聖人とこの地の深い結びつきを今に伝えています。また、境内には百日紅(サルスベリ)の老木もあり、夏場には鮮やかな花を咲かせます。

ご住職は訪問者に対して大変親切で、ツナギガヤの伝説を丁寧に説明してくださることでも知られています。御朱印(300円)も受けることができます。静かな境内で、700年の時の流れに思いを馳せるひとときは、この上なく贅沢な体験となるでしょう。

周辺情報

田上町には、ツナギガヤの見学と合わせて楽しめる魅力的なスポットが数多くあります。

了玄寺のすぐ近くにそびえる護摩堂山(標高274メートル)は、初心者でも気軽に楽しめるハイキングコースとして人気です。山頂までは片道約40分。山頂からは越後平野、弥彦山、晴れた日には佐渡島まで望む絶景が広がります。6月下旬から7月中旬にかけては、山頂付近に約3万株のあじさいが咲き誇る「あじさい園」が見頃を迎え、多くの登山客で賑わいます。

護摩堂山の中腹に広がる湯田上温泉は、元文3年(1738年)開湯の歴史ある温泉地です。「薬師の湯」として知られ、ナトリウム・塩化物泉の泉質は皮膚病や神経痛などに効能があるとされています。4軒の旅館・ホテルがあり、日帰り入浴も可能です。日帰り温泉施設「ごまどう湯っ多里館」もあり、越後平野を見渡しながらの入浴が楽しめます。

そのほか、田上町指定文化財の豪農の館「椿寿荘」、座禅体験ができる曹洞宗の東龍寺、国道403号線沿いの「道の駅たがみ」なども見どころです。春は竹の子料理、秋はきのこ料理と、四季折々の地元グルメも魅力のひとつです。

Q&A

Qツナギガヤの見学に入場料はかかりますか?
A入場料は無料です。了玄寺の境内は自由に見学できます。御朱印は300円でいただくことができます。寺院の対応時間はおおむね13時〜17時ですので、訪問時間にはご留意ください。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR信越本線「田上駅」から徒歩約15分、または車で約5分です。お車の場合、磐越自動車道「新津IC」から約30分、北陸自動車道「三条燕IC」から約30分です。駐車場は6台分あります。東京からは上越新幹線で燕三条駅まで約2時間、そこからJR信越本線に乗り換えて田上駅まで約15分です。
Q見学に最適な季節はいつですか?
A榧は常緑樹のため、一年を通じて見学可能です。秋は榧の実が実る時期で特におすすめです。護摩堂山のあじさいまつりと合わせるなら6月下旬〜7月中旬、春の竹の子シーズンと合わせるのも良いでしょう。冬場は積雪がありますのでご注意ください。
Q越後七不思議を巡ることはできますか?
Aはい、越後七不思議の各旧跡は新潟県内に点在しており、車を使えば1〜2日で巡ることができます。新潟市の「鳥屋野の逆ダケ」、阿賀野市の「数珠掛桜」や「三度栗」、上越市の「片葉の葦」など、いずれも実物を見学できるスポットとして整備されています。
Q外国語での案内はありますか?
A現地の案内板は主に日本語のみとなっています。英語をはじめとする外国語の説明は限られているため、事前にツナギガヤの背景情報を調べてから訪問されることをおすすめします。スマートフォンの翻訳アプリがあると、ご住職とのコミュニケーションに役立つでしょう。

基本情報

正式名称 了玄庵のツナギガヤ(りょうげんあんのつなぎがや)
指定区分 国指定天然記念物(大正11年10月12日指定)
樹種 カヤ(Torreya nucifera var. articulata
推定樹齢 700年以上(寺伝では約790年)
所在地 〒959-1502 新潟県南蒲原郡田上町大字田上丙1285-1(了玄寺境内)
アクセス JR信越本線「田上駅」より徒歩約15分・車約5分/磐越自動車道「新津IC」より車約30分/北陸自動車道「三条燕IC」より車約30分
駐車場 あり(約6台)
拝観料 無料
御朱印 300円
お問い合わせ 了玄寺:0256-57-3422(13時〜17時)/田上町観光協会:0256-57-6225

参考文献

了玄庵のツナギガヤ — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/138307
了玄寺とつなぎがや — 新潟県田上町
https://www.town.tagami.niigata.jp/kankou/docs/8824.html
越後七不思議 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/越後七不思議
国指定文化財天然記念物 「了玄寺の繋ぎ榧」(田上町) — 東京新潟県人会ウェブ広報「まいたけ」
https://kouhou.niigatakenjinkai.com/?p=7515
発見!TAGAMI DEEP LOCAL 田上町 — 田上町観光協会
http://e-tagami.jp/deep-tagami/
了玄寺のツナギガヤ — JAPAN 47 GO
https://www.japan47go.travel/ja/detail/ec89c503-4b18-489f-8c80-f50347800850
了玄寺のツナギガヤ — じゃらんnet
https://www.jalan.net/kankou/spt_15361ac2100126890/

最終更新日: 2026.03.07